プロジェクト・メビウス

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梗 概

プロジェクト・メビウス

僕はハッと目を開けた。今は算数の授業中だった。白板には黒い円が書かれていた。どうやら円周率の説明のようだ。「おかえり、待ってたよ」と後から声がきこえた。振り向くと、声主の少年がニヤついて僕を見ていた。見渡すと、教室の皆が目覚めた僕を見て笑っていた。

少年の名前は菅徹といった。僕と徹は互いに宇宙好きで、学校行事の天体観測を機に意気投合し、休日も互いの家で、宇宙について語り合った。ある時、徹はいつしか自分は直にブラックホールを見てみたいと言った。その時、徹は白画用紙を取り出し、中心にブラックホールを見るための計画を書いて、それを黒丸で大きく囲った。徹は書かれたその計画をプロジェクト・メビウスと名付けた。僕はこの名前はどういう事?と尋ねた。徹は僕らの友情が無限に続くという意味さと照れ笑いしながら答えた。

数年後、大学生になっても僕らは変わらなかった。僕らは大学で量子力学を学び、ブラックホールの研究のためそのまま大学院に進んで、研究者としての道を歩んだ。その後、徹のブラックホールへの執着は一層強くなり、徹は一人暮らしの自宅に籠ることが増え、終いに徹の失踪の噂がながれた。

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噂をきいた僕は徹の家を訪れた。僕は昔、徹の家で研究の雑務をしていたことがあり、家の鍵はもっていた。徹の部屋に入ると、白い長方形の装置が置かれており徹の姿はなかった。装置の近くには研究論文があり、表紙にはプロジェクト・メビウスと書いてあった。

前半は、ブラックホールの生成と時間逆行についての記述だった。ブラックホールに超光速粒子タキオンが存在すれば、特殊相対性理論により質量が虚数になり、ブラックホールの中に閉じた時間線が生まれる。つまり、タキオンがあればブラックホールを使った時間逆行も可能だと書かれていた。後半は、時間逆行後の記憶と感覚器官の記述だった。一般に脊髄動物の時間認識は、モジュールとしての知覚器官の情報集積により生まれるが、彼の発見では、海馬の中に時間認識のための器官が存在し、時間逆行をすると、その器官が時間に合わせて記憶を調整するのだという。つまり、仮に人が時間逆行をしても記憶は引き継がれないため、因果律は変わらずに同じ行動をすると書かれていた。

論文の端には、装置の操作メモが書かれていた。徹の失踪やこの装置については疑問が残るが、少なくとも装置を動かした先にその答えがあり、徹が待っていると僕は思った。僕はメモ通り装置を動かすと、中から突如黒く丸い影が僕を包んだ。僕は咄嗟にその場を離れようとしたが、一瞬で意識が途切れた。その直後、笑い声が聞こえた。

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僕はハッと目を開けた。今は算数の授業中だった。白板には黒い円が書かれていた。どうやら円周率の説明のようだ。「おかえり、待ってたよ」と後から声がきこえた。振り向くと、声主の少年がニヤついて僕を見ていた。見渡すと、教室の皆が目覚めた僕を見て笑っていた。

文字数:1200

内容に関するアピール

私の本稿の拘束は『始まりの章と終わりの章が同一の文章で、物語が全く同じ内容で無限にループする』というものです。

SFにおけるリープ、取分けタイムリープはバタフライ効果が生じて、主体が並行世界で過去を変えるものが多いというのが私の認識です。そこで、私はバタフライ効果が生じないタイムリープを書こうと思い本稿に着地しました。また、リープがビジュアルとして断続的にならぬよう、白く四角い物体から黒丸の物体が出現する絵を各章にいれてみました。

バタフライ効果が生じないタイムリープの要点は、リープ後に並行世界が生じないよう主体の記憶が引き継がれないことをどう説明するかです。そこで、本稿では理論物理学におけるブラックホールの論点に、神経科学系の時間認識器官という架空の設定を強引に紐づけました。因みに、本稿の菅徹(かんとおる)は、数学の無限性に関する研究で円周率の発展にも寄与した数学者カントールからとりました。

文字数:400

課題提出者一覧