梗 概
半分、俺
三十代、フリーター。金なし、趣味なし、彼女なし。
日々、倉庫の深夜警備バイトに勤しむ毎日の俺。
そんな俺の前に、一人の男が現れる。それは十五才の時の俺自身。
十五歳の俺は「未来にタイムスリップしてきた」というけれど……。
侃々諤々の議論の末、十五歳の俺は言う。
これはありえないことじゃない。とても確率は低いけど。
人の細胞は数ヶ月で完全に入れ替わる。これ、生物学の常識ね。
すると、いまのあんたを構成している細胞、もっといえば原子、もっと言えば素粒子、もっといえば……、もういいって?
つまりそれらは数カ月後には、あんたの体の外にあるわけだ、
で、その、今あんたを構成している素粒子をもう一度集めて、今のあんたと全く同じように構成したらどうだろう。
もうひとりの自分、正確に言えば、数ヶ月前の自分の出来上がりってわけ。
それが、この俺に起こった出来事。
エントロピーってのは確かに増大するものだけど、局所的には減少してもおかしくはない。
っていうか、この広く乱雑な宇宙に、地球があって、生命があって、俺たちがいる。
それって、そういうことなんじゃない?
確率は確かに低い。天文学的に低い。だけど、タイムスリップなんてことと比べてみろよ。可能性は遥かに高いと思わないかい?
そして、どんなに可能性が低くても、起こり得ることは起こるんだよ。
だって、宇宙は無限にあって、すべての可能性はそこで必ず実現されるんだから。
納得したような、しないような。ともかく十五の俺に言いくるめられた俺は、十五の俺と同居生活を始めることにする。
十五の俺に促され、俺は初恋の女に会いに行く。
昔の同級生にかたっぱしから電話をかけ、なんとか彼女と連絡を取る。
話はとんとんびょうしに進み、とりあえず一度あってみましょうと、
女としゃべるのは久しぶりで、その姿は挙動不審の極み。おまけに十五才の同伴つき。
子供の方が堂々としてるなんて、なんのこっちゃ。
しかし、それが受けたのか、俺は初恋の女と次のデートの約束を取り付ける、
十五の俺を見ていると、いろんなことを思い出す。そうかそうか、確かに俺はこんな奴だった。
話は進み、俺と彼女の結婚の日。十五の俺は消えてなくなる。おいおい、これがエントロピー増大の法則ってやつかい。それにしても一瞬にして分解されちゃうなんて。ああ、そうだ、起こり得ることは必ず起こるんだよな。俺はそういう宇宙にいたって、ただそれだけだ。でもさあ、たまにはまた、顔を見せてくれないかな。
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内容に関するアピール
ルール:地の文章を、一人称しゃべくりスタイル(読者に話しかける感じ)で書きます。
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