囀り

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梗 概

囀り

 主に情報系や新興企業の経営者に端を発した、片仮名の乱用が嫌がられる時代が訪れた。私の組織が開発した『片仮名無効化装置』という電子演算機は、利用者が六千万人を突破し、着実に社会に受け入れられつつある。片仮名を排除するなら、他にも対処法の開発を進めている企業はあるだろう。しかし、漢字を模した片仮名の単語や造語に対してこの演算機の強みがある。人々の会話や思考回路を分析して、今後生まれる大量の「片仮名造語」を予測し変換対象にするのだ。
 退社した私は、一軒家で共有家屋を営む弟を訪ねた。玄関に入るとすぐ、淡い古柯印の香りが鼻腔をくすぐる。羅府の音楽を位弥奔から流しながら、白に近い金髪の弟が真九を叩く。
「来月流す予定の利素度は、明後日あたりに出来るぜ。今月は全部で四百五十弱だが、来月は五百の大台に乗るかな」
「了解。高度な仕事ぶりには頭が下がるよ」
 私にある作戦があった。片仮名造語の九割以上は掲示板債度群、八ちゃんねるから生まれている。この債度群を運営する弟と手を組み、自演した会話群を差し込んで、片仮名造語を故意に作成する。他社は話題になった後の単語に対応するが、うちは話題になる前に対応する。製品が当たれば、利益の幾分かを非政府組織を通じて掲示板運営会社に資金を流す。私と弟は互恵関係だ。
「最近、羅府の調子はどうだい?」
「抜血利よ。おい京、寝るには早えぞ」
 天然巻毛を揺らせながら、幹差に手を掛け円盤が回り始める。弟の理輪句は片仮名に限らず、英語や中国語も入れた混合羅府だ。片仮名の利用を抑圧された時代への反骨心があるのだろう。
「兄貴、金は全部掲示板と、この家の運営費に回してるんだ。もちろん俺は、一円も受け取ってない。俺がいる限り、この場は無くしたくねえ。これからも頼むぜ」
 一週間後、事業部長に新しい任務を言い渡された。全世界共通語計画の執行責任者だ。意味や発音を厳密に定義された共通語を開発し、今存在する言語を共通語に媒介させる通信規約を普及する。言語間による単語の意味や背景を無くし、言語による摩擦を目指すことが掲げられる。この利点を人々は享受し、次第にあらゆる雑談や交信は、お互いが完全に理解可能となる共通語しか利用しなくなるという筋書きだ。
 この計画を知った弟は、混合羅府を消さないため、そして毒のある言葉の統制を恐れ私に計画の破綻を持ちかける。計画の執行を決定した幹部の着用端末への不正侵入、内部文書の情報取得を行い、事業の告発に向け準備を進めるが、上司に詮索が馬連てしまい執行責任者の座を追われてしまう。

 

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