テホムを征く者たち

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梗 概

テホムを征く者たち

紀元前二万年、ヤハウェは宇宙の端に辿り着く。幾千億種の機械動植物が乗った宇宙船は、巨大な扉から現れる幻獣と激しく戦闘する。粘液に覆われた十三の体を持つ海蛇を、ヤハウェの宇宙船から舞い出た怪鳥が熱線を吐いて焼き切る。超深海帯で発見されたシュトラの鍵によって扉を開き、ヤハウェは冥府・テホムへ進行する。冥府の様子を観察していた神は、地獄の海で焼かれる機械から口を取り去って、自らのアストラル体へと縫い付ける。神は最初の言葉を発した「ここは神の国である」。
 ヤハウェは地獄の荒野を駆ける一群となり、船団の動物を殺戮する堕天使達と交戦する。堕天使に腹を裂かれた鯨は、火花を散らしながら千切れたケーブルを腸のように吐き出した。地獄の海は、幻獣たちの骨、機械の骸、天使の臓物や血液が混ざり合って、赤く禍々しい。遠く離れたこの地から元いた宇宙を見ると半円形であることから、宇宙は地獄の海の浮島のような場所であったことが判かる。傷付いたヤハウェの宇宙船団は最終目的地、神国マ・ハラへ進路を取る。
 神は神殿から遥かに遠い冥府の果ての氷河へ飛ぶため、翼よ、あれ。と言って、冥府の海で死んだ機械達から両翼を造られた。ゆるりと滑空しながら地獄の氷山の頂上へ神は降り立った。ヤハウェの一団もやがてそこへ辿り着く。
 ハゲワシは熱線を吐き神の立つ氷山を水平に切り裂く。神はヤハウェの宇宙船団の中心に浮遊し言った。「あなた方の腕を差し出しなさい」。ヤハウェの前で空間が捻じ曲がり、両腕が千切られる。見ると動物達もみな一様に腕を失っている。
 神は新しい機械の腕を伸ばし、巨大な爪を重ね合わせて地獄の海水を掬い上げ、本来ならば肩があるであろう位置にそれを滴らせる。やがて赤く透き通った禍々しい胴体が浮かび上がる。
「あなた方の望みは何か」と神は問う。
 ヤハウェは答える。我々は神の国を目指している。
 それでは――神は言う「あなた方の眼を差し出しなさい」。
 天より黄昏紫雷ゴダメットの矢が雨のように降り注ぎ、ヤハウェと動物達の両の眼に突き刺さる。雷が収まるとヤハウェは視力を失っていることに気付く。しかし代わりに温度や電場、酪酸、空間の圧縮波が見えるようになっているではないか。
 他方、神は両の眼を得て特定周波数の可視光が眼で見えるようになった。だがもう神の国を見ることはできない。
「あなたの名前を差し出しなさい」最後に神は言う。
 応える。四つの聖なる文字、Y・H・V・H。
 ヤハウェの体の中心がまばゆく輝き出し、皮膚が剥がれ落ちて、オーロラ色の新たな身体を得る。神は臓物と重たい脳、大腿を得た。もはや神はヤハウェとなりヤハウェは神となった。神となった者は一歩ごとに物理身体を失い、完全なアストラル体となって神の国の神殿へ到着する。
 ヤハウェとなった者は冥府の海に浮かぶ宇宙を目指して飛び去る。この巨大な機械の翼と腕は、少しずつ体に馴染まなくなっていくだろう。宇宙と冥府を隔てる扉には数多の幻獣の門番がいる。機械の巨大な腕で紺碧の牛鬼を貫き、暗黒の宇宙へ出る。ヤハウェは地球を目指し二十三のワームホールをくぐり抜ける。

文字数:1293

内容に関するアピール

ルールI:手を使わずに書く(音声入力)
手を使わずにiPhoneの音声入力のみで書きます。この梗概は実際に音声入力のみで書きました。書いたと言うより話しました。課題文に「手に書かされるということもある」とありましたが、今後はキーボードではなくマイクが文字を記すための手段になるかもしれません。この梗概の1200字を記すのにかかった時間はおよそ17分程度です。このルールは作中で神が言葉を発することによって事象に影響を与えることと関連しています。
 ルールII高度3000m以上の場所で書く(話す)
 ルールⅢ2日間の断食後に書く(話す)


【参考文献】
ハミルトン・ギブ – 「イスラーム文明史」(みすず書房 1968)
ジャロン・ラニアー -「人間はガジェットではない」(ハヤカワ新書 2010)
石鍋真澄 – 「ベルニーニ」(吉川弘文館 1985)
ブライアン・グリーン -「エレガントな宇宙」(草思社 1001)
高山宏 – 「パラダイム・ヒストリー 表象の博物誌」(河出書房新社 1987)

文字数:424

課題提出者一覧