梗 概
あなたはいじめっ子?
宝子は、高校に入学し、同じ小学校に通っていた、捺美と再会する。宝子には、小学生の時に、捺美にいじめられていたという記憶があった。記憶は曖昧で、夢のようでもあり、本当のことかどうか判然としなかったが、宝子は、捺美に嫌悪感を覚え、捺美をいじめる。
宝子の幼なじみの雅は、捺美が宝子をいじめていたことを否定し、宝子の行為を厳しくとがめる。雅は昔から、未来を予知するような謎めいた言動をする癖があった。それは当たることもあれば、はずれることもあったが、中学生の時、宝子の母が再婚することを言い当てたことがあってから、宝子は、雅の予知能力を信じかけていて、雅のアドバイスにはいつも従ってきた。
しかし、捺美に関しては、雅の言葉を聞き入れる気になれず、宝子は雅と距離を置いた。宝子は、記憶の中のいじめっ子である捺美と、大人しく、ろくに抵抗もしない実際の捺美の乖離に戸惑いつつも、捺美を気味悪く思い、より一層いじめは激しくなった。他人のライフログを体験するVRゲームが流行っていたので、クラスメイトの前で、捺美を強制的に刺激の強いライフログに接続させるといういじめを特に日常的に行っていた。
ある日、宝子は、友達たちと一緒に捺美を夜中まで連れ回し、所持品を取り上げて、繁華街に置き去りにした。捺美が交番に助けを求めたことで、いじめが発覚し、学校も真剣に対処しなければならなくなり、宝子たちは、停学処分となる。
激怒した宝子は、捺美を呼び出し、制裁を加えようとするが、そこに雅が現れる。
呼び出された時、捺美が雅に助けを求めたのだった。雅は、実は、自分たちは人生のやり直しをしているのだと説明する。この世界は、ライフログから再現した仮想世界であって、捺美と雅は、別の人間になって人生をやり直せるサービスを受けている最中であり、本当は捺美と雅は捺美と雅ではなく、捺美は、宝子の小学生の時のクラスメイトだった優紀であり、雅は、宝子の母だという。この世界の優紀と母は、仮想人格であった。
十二歳以下で死亡した者は、無条件で、人生をやり直す権利を与えられる。現実の宝子は、十一歳の時、現実の捺美から受けたいじめを苦にして自殺しており、自分自身として、人生をやり直すことになったのだ。
その時、宝子に〈前世〉の記憶がよみがえる。そして、雅(宝子の母)と捺美(優紀)は、宝子が死んだあとの自分たちのライフログを宝子に見せる。二人は、宝子を支え(雅)、宝子になにもしない(優紀)ために、自分たちの人生を放棄して、仮想世界の住人になることを選んだのだった。
宝子は、優紀が密かに自分を思っていてくれたことに感謝する。
しかし、捺美(優紀)は、宝子と同じく、仮想世界に入る年齢が低かったせいで、〈前世〉の記憶が曖昧になっていて、ただいじめに傷ついていた。捺美(優紀)は転校し、雅(母)もほとんど宝子に愛想をつかしかけていた。宝子は、ここが仮想世界でも、赦しが得られるように努力することを誓う。
文字数:1240
内容に関するアピール
わたしが初めてセンス・オブ・ワンダーを感じたのが時間SFなので、時間SFを書きたいと思ったのですが、時間とはなんなのかを考えているうちにわけがわからなくなってしまったので、間接的な時間SF?にしてしまいました。
SFの魅力は、常識を覆す力だと思うので、常識的にはあり得ない、時間や人格の変化を盛り込みたいと思いました。
そして、SF好きではない読者にアピールするためには、関心の高そうな、わかりやすいテーマがあったほうがいいと思い、考えついたのが、いじめでした。いじめられる気持ちと、いじめをするに至る気持ちを両方とも書けたらいいなと思います。
文字数:270