梗 概
渡り廊下は、走らない
ロアルドと島の渡り廊下で遊ぶこと、それはとても愉しいことだった。
一番のお気に入りは、渡り廊下の追いかけっこをして遊ぶことだ。赤黒黄の三色いずれかの正方形のブロックで覆いつくされ、塗り分けられた渡り廊下の上で。もちろん、単なる渡り廊下の上で追いかけっこをするなんてつまらない。ゲームマスターであるロアルドが作った規則に従って、遊びはなされねばならない。
ゲームのルールは簡単。「渡り廊下の赤い部分は真っ赤に燃えた石炭の塊だよ。そこに足をおいたらすぐに酷いやけどをしちゃうんだ。だから赤い所には足を降ろせないよ。それで黒い部分は毒ヘビ。そこに足おいたらすぐに咬まれて毒にやられちゃう。だから黒い所にも足を降ろしちゃダメ。黄色だけがオッケー。黄色いとこだけ歩けるんだ」とのこと。だから僕とロアルドは慎重に渡り廊下の赤いブロックと黒いブロックを避け、黄色の上だけで歩行して追いかけっこをする。
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仮想世界でブロックを組み立てて、自分だけの物理的・情報的、その他「的」を問わないルールを有した島を作ることできるゲーム、<マインルール>。マインルールの各ユーザーには一つの島が割り当てられ、全てのユーザーは他のユーザーの島へ訪問することが可能であった。でもマインルールがサービスを開始して5年も経った頃から変な噂が流れ始めたんだ。どの島とも接続していない全くの孤島がこのマインルール空間のどこかにあり、その島の運営者は「ロアルド」という名前の7,8歳の少年だと。
僕もマインルールのヘビープレイヤーだったから、その噂は知っていた。でも意図的にロアルドの島へ行こうとした訳じゃないんだ。ただ、マインルールに意識を接続したまま、睡眠薬を飲んで、その後、缶チューハイだかのアルコールを胃に流し込む、そんな無茶な状態でプレイをしたことで、僕は僕自身の島から遠くへ流され、ロアルドの島へ漂着したんだ。
孤島で私を迎えてくれたロアルドは、丁寧に僕を出迎えてくれ、彼が作ったルールの中で一緒に遊びたがった。特に彼のお気に入りは<渡り廊下>と呼んでいる、三色で埋められた無限とも思える一本道で追いかけっこをすることだった。
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一体そこで何年遊んでいたんだろうか?5年?10年?普通、孤島への漂流者は―本で読んだ限りでは―木の切れ端に刻みをつけることで年限を数えるらしいけど、もちろん僕はそんな面倒くさいことはしなかった。だから仮に10年としておこう。
10年の間に色々あった。何度も赤いブロックを踏んで大やけどを負い、毒ヘビに咬まれて吐き気と高熱に悩まされた。そしてその全てが一晩寝るとリセットされて、元の健康な体でゲームをすることができた。
でも、ある日ふと思ってしまった。この渡り廊下の先には何があるんだろうか、と。渡り廊下には、<ジャンプ>と僕らが呼んでいた場所があった。そこは黄色のブロックとその次の黄色のブロックの間が5メートルも離れていて、助走をつけてジャンプでもしないと大人でも渡れないから<ジャンプ>と呼んでいた。もちろん飛び飛びの黄色いブロックだけを選んで歩いていては走ることなんてできないのだから、ジャンプなんてできやしないし、そもそもロアルドみたいな子供には、どんなに助走をつけても飛べやしない。
でもロアルドと追いかけっこを10年もしているうちに、飛び飛びの黄色いブロックを使って走ることが出来るようになってきたんだ。
渡り廊下は、走れる。
そこで、<ジャンプ>の場所でジャンプしてみた。もちろん何度も次の黄色いブロックに足を降ろせず、大やけどや毒に侵されたことがあった。でも一回だけ成功したんだ。成功したとき僕は後ろを振り返ってみた。その時見た、ロアルドの恨めしそうな顔が今でも忘れられない。
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そして渡り廊下を先へ先へと進んでいくと、僕はいつの間にかマインルールを強制ログアウトさせられていて、救急車で病院に搬送されていた。今はまだ病院に入院してリハビリ中なんだ。
一つ困ったことがある。僕の病室の床が変に洒落ていて、赤黒黄の三色のタイルで張り巡らされているんだ。僕が赤黒のタイルを飛び越して、黄色のタイルだけ踏み進んでいると、看護師に真面目にリハビリしろ!って怒られる。でも体がそう動いてしまうのだから、仕方ない。
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内容に関するアピール
ロアルド・ダールの『あなたに似た人』に入っている「願い」は、10代初頭の頃から大好きな作品です。
子供が自分自身のマイルールを作ってそれに囚われてしまう、子供にとっての恐怖を見事に描いた小説。「拘束下で書く」というテーマの小説を書くにあたって下敷きとするにふさわしい作品と思い、ロアルド・ダールの「願い」を基に梗概を作成しました。
なお、タイトルは無論のこと「渡り廊下走り隊」からですが、知っているのはこの文字の羅列のみ、「渡り廊下走り隊」の内実については一切調べないという制約を課して作成しました。
文字数:248