赤と青と夜と博士

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梗 概

赤と青と夜と博士

ある時世界にある微生物が増え、その微生物は人類に大きな影響を与えた。それは人の目の視神経に働きかけ、その微生物に空気接触すると見えるものが全て赤色になってしまう。気づいた時には世界の半分に住む人が赤い世界しか見えなくなった。

赤は感情を高ぶらせる。その結果、犯罪が増えた、怒る人が増えた、情熱的な人が増えた。衝動的に自殺する人も増えた。その一方で、視覚情報が貧しくなるため、それ以外の五感に関するが進んだ。耳や音楽に関する研究が進んだ、匂いに関する研究が進んだ。つまりフィジカル面での文明が進んでいった。

半分の世界が赤く染まる中、危機を感じたもう半分の世界では、それに対抗する微生物が開発された。ただし、微生物を相殺できるわけではなく、先に開発した微生物を寄生させることで、赤い微生物に寄生されなくなるというものだった。しかも、その代償として、世界が全て青く見えるようになってしまうというものだった。

世界の半分の人は悩んだが、赤い世界の変わりようを恐れてか、結果として青く見える世界を選んだ。青は気分を落ち着かせる、落ち込ませる。憂鬱な気分の人が増え、うつ病の人が増えて、自殺者が増えた。働く意欲がなくなり、経済は落ち込んでいった。その一方で、その気持ちの落ち込みを調整したり、盛り上げたりするような研究が進んでいった。つまりメンタル面での文明が進んでいった。

赤い世界の人と、青い世界が人は感情の持ち方が異なるため決定的に合わなかったが、戦争にはならなかった。青い世界が見える人たちが決定的に冷静だったからだ。結果としてその2つの世界観間の断絶がおこり、それぞれの国の科学技術は違う方向へ発達していった。

2つの微生物をつくったのは実は一人の博士だった。博士は20年経った時、赤い微生物と青い微生物を絶滅させた。最初から企んでいたことだった。

世界が通常通りに見えるようになった後に、博士が思った通り、2つの国は戦争をはじめた。博士が知りたかったのは、フィジカルの文明が進んだ世界と、メンタルが進んだ世界のどちらが勝つのか、ということだった。肉体か精神か。

結果として何が起こったのか。初めは争いが起こった。しかし、二つの世界は視界に影響を受けない時間や場所を楽しむようになっていた。つまりは夜が好きだったため、夜に活動し、昼に寝るようになっていた。争いも最初は起こったが、夜に活動するという点で仲良くなり、和平を結ぶには時間がかからなかった。

博士の目論見は失敗に終わったが、ひとつだけ変化が起きていた。

博士は微生物の影響を受けていないため夜が好きにならなかったのだ。世界が夜に動き始める中、博士は孤独に寝るしかなく、博士自身も少しそれが寂しかった。

文字数:1121

内容に関するアピール

・「色を描写せずに書く」というルールを設定して考めたときに、赤い色しか見えない世界だったら何が起こるんだろうか?というところから書いていくと、青も出てきてしまったためルールを破ることになってしまった。

・視覚などの感覚が変わったときに人類の文明に与える影響というものを書いてみたかったのでこの形となります。

・結果として梗概ではなく、ショートショートのようなストーリーになってしまいました。

文字数:193

課題提出者一覧