梗 概
惑星間VR婚活、はじまります。
遠い宇宙の星々にまで人類が進出し、惑星間の長距離移動が当たり前になった、未来の世界。生まれつき身体が弱く地球を出られない少女ユリは、他の星に出張しがちな父を、寂しく見送る事しかできずにいた。
しかしある時「VRメガネ&グローブセット」を得た彼女は、出張中の父とVR空間上で、本物そっくりの感触を伴った握手をすることができるようになった。VR空間内で触れたモノの「触覚」をグローブを通じてフィードバックする、という極めて原始的な仕組みの装置であったが、幼いユリの心を掴むには充分であった。
その後ユリは父を病でなくすが、思い出を育んでくれた惑星間VR通信技術にすっかり魅了され、成長した彼女はVR通信の技術者となる。ついには持ち前の技術力を活かし、惑星間VR婚活サービス「クピド(キューピッドの意)」の経営者に。惑星間のVR婚活はたちまちブームとなり、VR空間で婚約した地球外の恋人のもとへ移住する地球人が続出した。「宇宙の人々がVRを通じて手をとりあう素敵な未来」を作りだすのが、ユリの夢であった。
しかし、ほどなくして同様のサービスを始める者が現れ、クピドの業績は伸び悩む。一方ユリは、VRという偽物の世界では結局、本物の思い出など育めないのではないか、という疑念に苛まれはじめていた。
そもそも、グローブが伝えていた父の手の感触は、「本物そっくり」とはかけ離れていた。当時の通信精度では無理からぬことだったが、父の手の感触と信じていたものが偽物だと知った時、育まれた家族の思い出までもが、すべて偽物に変わってしまったような気がした。
そんな時、クピドがハッキングに遭う。自称プログラマー・サクが犯人だと発覚するが、その天才的な手腕を見込み、ユリは彼をクピド再建のためのバイトとして雇う。彼は期待通りの活躍を見せ、クピドの業績は回復。クピドのVR世界を現実世界のように大事にするサクに、ユリは励まされ、心惹かれていく。
だが、クピドは政府の通達により、サービス内容の変更を迫られる。人口流出を懸念した地球政府が、VR婚活の規制に乗り出したのだ。これを受けてサクは、クピドを、離れ離れの家族がVR空間上で一緒に過ごせるサービスに作り替えることを提案。ユリもこれに賛成する。
この時、ユリはサクに好意を打ち明け、新サービス上での同棲を提案する。しかし彼は、母星を離れては生きられない身体である事を告白しつつ、提案を断る。
傷つくユリだったが、母が「VRメガネ&グローブセット」を通じて育んだ父やユリとの思い出を大切にしていたことを知り、ユリは悟る。例えVRの世界であっても、特別な思い出を育むことは可能である、と。
そして、一生会えない可能性を覚悟で、サクを改めて説得。「カゾクピド」と改名された、その新たなVRサービス上で、2人は人類で初めて、直接会わぬままに、結婚を前提とした同棲生活を始めるのだった。
文字数:1196
内容に関するアピール
「遠距離恋愛に悩む若者が、はじめて手に取るSF」的なものを想定しています。
もしVR技術が進歩して、遠くの人とその場にいるように喋ったり、触れあったりできるようになったなら。おそらく、恋人と物理的に近い距離にいることの方が多い、今の恋愛の常識が変わるような気がしています。その事を念頭に書きました。手に取った結果「やっぱり恋愛に距離って関係ないっぽいぞ」と思われるような話を目指します。基本的な話の筋としては「もしも婚活サイトが、サービスエリアを宇宙全域に拡大したら?」なので、SF的な予備知識をあまり必要としない、ライトな読み物になる予定です。
あと、今回は字数制限を守らせて頂きました。下ネタも封印です。
文字数:302