猫の上手な狩り方

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梗 概

猫の上手な狩り方

猫は人間の子供を手に入れた。それまでもお互いの体を交換していたのだが、猫は狩りに失敗して自分の体を失った。代わりに仕方なく人間の体で間に合わせることにしたのだ。

それは人間の目からは次のように見えた。

 

 守田依羽ヨセフの姉は交通事故で亡くなった。夕暮れ何かを追うように道路に飛び出したという。所持品が無く身元確認は遅れ、警官が家を訪れたのは深夜だった。無灯火の家には、五歳の信也ノヴァが取り残されていた。幼児は暗闇で一人母の帰りを待っていた。

 信也は母の保険金と事故賠償を受取ることになった。葬儀後、火葬場の待合室でそれを知らされると親族は信也を引き取りたがる。しかし依羽が一番近い親族である。依羽は親の残した寿司屋を潰してから家を出て職を転々、最近はフグの陸上養殖場を辞めたばかりで時間の余裕があった。

依羽は魚を捌くのが好きだが、働かなくとも生活が成り立つことに惹かれた。

 店を潰した折に借金を踏み倒したのだが、別名義の隠し口座を持っており、その金を小出しにしかできないでいた。大金を持っているとなれば口座の金を盛大に使っても怪しまれないだろう。

依羽は甥と暮らし機嫌を取るが、その体に傷跡が多いと気づく。甥はその時々で動物的に振舞う。そして「お母さんは僕を探しに行った」「にゃあは僕」などと言う。保育園では人語を解さぬ行動が続き、落ち着くまで預かれないと申し渡される。保育士からは小声で「お母さんの生前は良く痣をつくっていました」と伝えられる。

子育ての苦労に気が荒れる依羽は、スーパーで鮮魚の品揃えに苦情を言ってしまう。しかし売り場主任は依羽の指摘を評価してくれる。

 家には猫を飼っていた形跡はあるがその姿は見かけない。依羽は喘息があるので家中を掃除するが、その後も部屋に毛玉が見つかる。依羽が猫の気配を感じる度に信也の言動は異常になる。

姉が死んだのも猫のせいではないかと思いはじめる依羽。防犯カメラを設置すると何も記録されていないが、プラグコードに噛み跡が付いた。

 

信也の親権を争う親族が現れる。無職の依羽には勝てると踏んでいる。依羽は職を得るために、信也を落ち着かせようと決心する。まず密かに猫を始末しよう。

フグの内蔵を庭に置く。しかし食べた形跡があるのに猫が死んだ様子は無く、戸締りしたはずの家内に猫の足跡が残されていた。依羽は喘息発作を起こし入院となるが、その間親族が信也を引き取ってしまう。

退院すると家は完全に戸締りされている。秘密の通帳印鑑とカメラを確認したい。猫が忍び込んでいた場所を探すと、店の看板を外した跡を塞ぐ網戸が破れて風にそよぐのが見えた。

脚立を立て登りきる寸前、犬が庭に走り込み脚立にぶつかって倒す。犬が追う小動物の姿が一瞬見えた。猫の仕業だ。

依羽は屋根の端にしがみつくが、次第にずり落ちる。下は石庭で落ちてよろければどうなるかわからない。

頭の先で、軽い何かが瓦を踏む音がする。顔を上げることはできない。ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえる。「信也」依羽は呼びかける。「助けて」しがみつく指を舐められる感触。

猫は屋根から庭木の枝に飛び移り、一声鳴く。依羽は体を振って猫の導く枝に飛びつく。

初めて見る猫は全身赤黒い錆色の毛をしていた。夜の熾火おきびの色だ。

 

スーパーの鮮魚部に求職し、信也を迎えに行き頭を下げる依羽。親戚は信也の奇行に音を上げていたが依羽に懐いているのを見、子供を引き渡す。しかし遺産は信託にされ手がつけられなくなっていた。落胆するが、まだ隠し預金があると思う依羽。

働き出して試用期間の最終日、家が火事になる。焼け跡からは猫の死骸が見つかる。

信也は保護されたが隠し講座の通帳は燃え、依羽にとって信也を引き取る利害は無くなる。しかし金は無くとも、目の前にいるのが人間の子供だと信じられればそれで良かった。

後日家事は漏電火災で、コンセントプラグに和毛のようなものが挟まったのだろうと知らされる。

再び通いだした保育園で信也は言う。「にゃあは、お魚いっぱい食べられて喜んでるよ」

 

文字数:1656

内容に関するアピール

今回の課題について、「生きること自体が『拘束』だよ」「いつも自分の無能に拘束された中で書いてるよ」などと思いました。しかし生きていると拘束から解放される時もあると知ってはいます。

 

これまで色々な生物を飼って来ました。豚犬兎猫鳥魚亀蛙蟹海老貝虫。しかも多くは卵を取って孵化させたり出産させてきたので一生のサイクルに付き合って来たと言えます。飼育経験の無い人に話すと驚かれますが、飼うことに重大な理由はありませんでした。むしろ重大に考えていたら飼えない。日々「この生き物を手に入れて一生を支配するのだ」なんて考えていたらとても怖い。

そこから人間の子供を手に入れようとする猫を描いてみようと考えました。

 猫のいる家に新生児が加わると、猫は子育てに参加したがります。自分が飼われているなどと、全く思っていない。そして自分を家族だと思っているのかいないのか、「かわいくてたまらない」という善意だけで子供に接しているように見えます。もっとも小鳥を狩る時も、「かわいくてたまらない」という様子なのですが。 

 主人公は田舎の家に拘束されて人生思うに任せぬという状況。

甥は薄情な人間の世界で猫と同居して生きていくことに決め、自分の体を半分明け渡す。

猫は不自由な人間の体に拘束される。

それぞれが居心地いい場所を探します。

 

 なお自分に課した「拘束」のルールは以下の通りです

 視点人物は主人公と猫とし、随所に猫視点による描写を入れる。

 感情描写を排し、人間とは異なる身体感覚の主観描写を多用する。

私は小説を書こうとすると、プロットより人間の身体感覚と感情の交流ばかり考えてしまい、書き込んでしまいます。ですからこのルールは私にとって拘束となるでしょう。しかし同時に「書く冒険」になるだろうと思っています。

文字数:739

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猫の上手な狩り方

        ◆

 

 昼の間、家中の一番いごこちがいい場所を転々として、眠り続ける。時々呼ばれれば身動みじろぎしてみせる。それで皆安心する。

 夕方からが自分の時間だ。

 私は伸びをする。水で喉を湿す。私は水を飲む時、とても念入りになる。口蓋に舌と水を遊ばせて水を体内に入れる時、何も考えないのに自分が大好きな事をしていると知っている。

 私は眠ることも、眠っている間に体のあちこちに与えられる温気うんきも好きだ。

 けれど夕方からが私の時間。

 いつものように連れを呼ぶ。玄関で見送りさせよう。呼ぶ時に、私は声を出す必要も無い。

(おいで)

心に呼ぶだけでやって来る。生まれた時から五年間付き合ってきた連れなのだもの。

(開けて)

(うん。チェーン外す。ターンキー回す。レバーを押して、扉を開ける)

 連れは玄関を開けるのがうまいのだ。五年間でたくさんのことができるようになった。

 それでもまだ私より世間知らずだし、いつまでも私より弱いだろう。けれど、馬鹿でかわいい。

 

「何してるの ! 」くぐもった叫びがあがった。そして居間からやっかいな人間が。

半時前にこの人間が帰ってから、居間は一番いごこちの悪い場所になっていた。テレビのボリュウムを大きくしてうるさかったのだが、そのせいではない。心地悪さを生んでいたのは、その音に隠した泣き声のせいだった。

「にゃあが、出たいって」

連れが言った。この子が人間の言葉を話すのは、今日初めてだ。「手を振ってにこにこしてくれるのに、おはようもこんにちはも言ってくれないわねえ」近所の人間が言ったのはいつだったろう。あの後家に入るなり人間は泣き出した。今日も泣いていたからには何かあったのだろう。

 もっともどこに泣く必要があるのかはわからない。多分泣きたいから泣くのではないか。

 私が今外に出たいのと一緒。ただそうしたいのだ。

「信也はだめ、出ちゃ」

 この人間は大きいけれど泣いていたから体の動きが鈍い。玄関にたどり着く前に、私はドアをすり抜けた。

 連れは素直ないい子だから、言われる通り出ずに残った。

 夜はあの子の時間ではない。私を貸してやることはできない。

 もっとも昼間でも、連れは私の体の使い方をほとんど覚えない。せいぜいが跳ねることや隙間を通ること、屋根に繋がる木に登るくらいだ。そう、あとはころんと体を投げ出した瞬間に、一番脊椎が楽な姿勢を取れるようにはなった。

たいてい連れが辛い時に、私は体を貸してあげる。そうするとあの子は何度も体を伸ばして、せかせかと体中を舐めて、自分を落ち着かそうとする。それからいきなり床に転がったり、まだ落ち着かない時は、柔らかくて暖かい物に前足を載せて爪を立てながら揉みしだく。そのうち寝入って口のはたから涎を垂らしていたりする。舌を仕舞うのを忘れて、私が戻った時にはすっかり口が乾き味蕾が荒れていたりする。あんまり野放図で迷惑を被るけれど、かわいいのだ。

私の方は連れの体に入ると、いつもその不自由さに驚く。一歩歩く体重移動さえこの体では一苦労だ。第一頭が大きすぎる。目も鼻も口も、これだけ大きな頭を必要としていないはずだ。それなのにバランスを取るしっぽが無いなんて。

連れの体は失敗作だと思う。人間は全部みっともなく見える。それなのに私はこの子をいつも身近に置いている。多分、一緒に暮らし育てたからだろう。不格好さも含めて、私はこの生物個体を良く知っている。その気持ちが、連れをかわいく感じさせるのかもしれない。

こんな不器用な体だから呆れるほど多くのものを必要とするのだろう。私は連れと体を取り替えると、―――― たいていそれは人間に叱責されたりすがり付かれたりしている時だから―–―― まず慣れるまでじっとして、心の内に体幹や体節を調整する。口を聞く必要は無い。ただじっとしていれば大きな人間はいろんなことを言ったりやったりして、諦める。それから解放された私は冷蔵庫に向かう。最近牛乳をコップに注いで飲む事を覚えた。

 

玄関のそばの植え込みに隠れて、私は様子を伺った。中で連れはどうしているかと。

「信也、信也、」答えは無い。きっとじっとしているのだ。

 今まであの人間は、泣いた後はいつも連れを甘やかした。これから連れは好物を貰って、しばらく遊んで眠るだろう。きちんと口を閉じ、持て余すほど大きい頭を枕に載せて。

 

 私は芝生に足を入れた。手首内側のひげを草の芽吹きがくすぐる。以前、この芝生は切り揃えられていつも青臭く、均質な冷たさを私に伝えた。けれど今は違う。芝以外の雑草が増えて草丈も私の腹を撫でるほどだ。手首のひげは草たちにずっと刺激されている。

 虫が跳ね、私は前肢で遊び、捕まえる。遊ぶのも食べるのも楽しい。美味しい虫とまずい虫はあるけれど、虫は大好きだ。まずかったら口直しに草の一本を口にする。

この時間は地面から湿気が上がる。埃の匂いが立つ。眉や頬を撫でる空気の動きを楽しもう。植え込みの木に近づくと胞子の匂いがする。

 昼間は鳥やもぐらやカナヘビも捕まえる。鳥が一番好きだ。鳥はなんて素敵なんだろう。

 綺麗な声。

 綺麗な姿。

 自由な命。

そして美味しい。私は狩りが好きだ。昔、庭に池があった時には錦鯉を捕まえたこともあったのだけれど、取りあげられてしまった。

 そうだ。思い出した。私が記憶している中で一番不満なのはそれだ。あの、びちびちと跳ねる太った魚を食べられなかったこと。いつもは忘れているけれど、あれは記憶している一番の不満だ。人間は私から魚を取り上げた。

連れが生まれて自分の力で動き出した頃、私を掴んだり転がしたりしたけれどそれに不満は無かった。モグラ穴でじっと待つように、我慢して付き合えた。モグラ穴に身をかがめて丸三日過ごした時も、私は自分がなんで我慢できるのか不思議で、けれど待ち続けた。連れにされることは嫌なことでも煩わしさがなく、付き合える限り付き合ってやろうという気になったものだ。多分年下の相手で、私が育て、連れ添うことがわかっていたからだ。モグラも必ず穴から鼻を出すと知っていた。

今では連れは人の言うことをよく聞くいい子に育った。今家の中で、静かに人間の言うことを聞いているだろう。アイスクリームを貰っているだろうか。ひとさじひとさじを楽しんでいて欲しい。

 

予想は外れた。

「信也」

玄関が荒々しく開いて、人間が出てきた。私はぎょっとしてそちらを見、目を合わせてしまった。

「信也でしょ」

 目を合わせてしまった。無作法なことだ、互いを覗き込むなんて。私は目を逸らした。

「信哉、戻って」

人間は私を凝視していた。その無作法さに、私は逃げた。

 素早く庭を出た。通りに出て小走りする。何軒か先まで走って、角店のシャッターの陰に入った。私は振り返った。人間は誤解している。今、私は私なのに。

 私はしばらく振り返ったままでいた。じっと待ち、追ってくる人間が充分近づいてから、身を翻した。

それは追いかけっこの愉しみ。

 けれど相手は楽しんでいなかったし、まして角を曲がって来た自動車は楽しまなかった。

 大きな、けれどあっけないほど短くつまらない音がした。金属の板が水を満たした革袋に高速でぶつかる音。あんなに大きな音なのに残響が無い。

 人間はまだ生き物であったけれど、車にぶつかった時、ただの水袋になった。

 それで命が抜けたのだと思う。

 革袋に穴が開いて水が漏れるように、女の命は体から流れ出し続け、夜には空っぽになった。

 

 後から驚いたことが一つ。

「姉さんは猫のせいで死んだ」そう言う人間がいた。

 自分で決めて自分で動いた人間の死なのに。

 私は生きているのが好きだ。

 あの人間は違った。あの時自分の命を忘れていた。

 ただそれだけだ。

 あの美しい鳥たちは、私のせいで死んだなんて鳴かない。ただ命絶えただけ。鳥は今も自由だ。

 私も同じ。

 

        ◆

 

姉の葬儀で、依羽ヨセフは喪主を勤めた。隣でお辞儀をし続ける甥はまだ五歳で、参列者の涙を誘った。

姉の死は突然だった。交通事故なのだが、夕暮れ、暗い道に飛び出したのだという。相手方の証言を鵜呑みにはできないけれど、それで賠償責任が軽くなるわけでもない。相手は逃げもせず、警察にすぐ連絡して病院に付き添った。加害者の献身と憔悴は見て取れたから、恨む気にはならなかった。旧型のエコカーでバッテリー走行中はエンジン音が無い。それで姉が車に気付くのが遅れた可能性は高いと保険屋に言われた。

それよりも、依羽が怒りを感じたのは警察の対応だった。事故当時の姉は身一つで、身元を示すものを持っていなかった。衣服のポケットに鍵が一つあるだけだったという。その一事からこそ近所の住人だと判断されるべきだろうに、病院に搬送された意識不明の被害者が誰であるか、確認は遅れた。現場近辺はいわゆるシャッター商店街だが昔ながらの住居兼用店舗が多く、店は閉めても住人は住んでいる。救急車が現場に着いて姉の体を運ぶ時には住人の何人かが通りに出て、誰を運ぶのかと尋ねたらしい。ところが「下がって、覗かないで」と制止され怪我人を見ることができなかった。遮ったのは救急隊員ではなく、現場検証に来ていた警察官だったと弔問客に聞いた。

正確にどのような状況だったかはわからないし、救急救命に協力したということなのかも知れない。しかし、いざという時に適切な対応をしてトラブルを解決してくれるのが警察なのではないか。

その上荼毘に付す前日、もし遺体に何らかの証拠が残っていたらと疑惑に駆られて県警に電話した依羽は、冷淡な扱いを受けた。ただ安心させて欲しいだけだったのに、警察の調査に異議申し立てをするのかという対応をされたのである。

実家の料理屋を一旦継いだのに店を潰してしまった依羽は、姉に負い目を感じていた。寂れた商店街のしもた屋に姉と幼い子を残して自分は家を出た。だから尚更、警察に悪意を向けたくなる。誰も自分の問題を解決してくれはしない。店を閉めたのは自分だ。しかし姉の死で更に苦しみを負わされたことに、依羽は沸き返る気持ちを抑えられなかった。

 

――― せめて救急車が来た時に身元が判明していれば、姉の死に目に会えた。

姉は事故後二時間生きたが、看取ったのは見知らぬ者だけだった。

――― 何より甥の信也が。

遺児となった五歳の信也は、その晩真夜中までただ一人、自宅に取り残されていた。巡回中の警官が家を訪ねたのはもう夜で、家は暗く静まり返っていた。呼び鈴を押しても返答は無く、玄関は閉ざされていたから二人の警官は家の周囲を回り、どこも閉まっていることを確認した。それでも家内に幼児が残されている可能性を知らされていたから開錠師を手配し、家の前で待った。その間に帰宅が遅い近所の人間が通りかかってパトカーが停まっていることに気づき、彼らに声をかけたから、依羽に連絡が付くことになった。

依羽に姉の死が知らされたのは偶然だったわけだ。依羽は姉のいる病院よりも実家に急いだ。そして警官と対面したが、彼らはほとんど何も知らなかった。

「こちらのお宅、猫を飼ってます?」そう訊かれて、なぜそんなことをと思ったが、

「はあ、飼ってるはずです」そう応じた。

「やっぱり。屋根からね、何か飛び降りたんですさっき。二人でいたのに自分しか気づかないから気のせいだったのかなとも思ったんだけど、やっぱり猫がいたんでしょう」

 警官の一人が、依羽というよりもう一人の警官に向かって言った。

 だから何なんだ。それがどうした。ここらじゃ猫は放し飼いが当然だと依羽は苛立ち、しかし警官は意に介さなかった。

 依羽がじりじりと待つ間、警官たちは全く違う気持ちでいるのだということだけがわかった。

一時間待ち、病院に行くべきだったかと依羽が後悔する頃鍵屋が来て、それぞれが挨拶を続ける内にもう、鍵は開けられた。

懐中電灯でドアを照らしていた警官が振り返り、先に依羽を通した。その身振りをした白手袋ばかりが記憶にある。

点灯して靴を脱ぎ甥の名を呼んだはずだが記憶は抜け落ちている。

ほんの数日前なのに、五歳児が居間の床で寝入っていたという記憶しか無い。身一つで転がる子供に触れると予想以上に体は熱く、高熱なのではと思った。信也は風邪も引かなかったけれど、それでも一人暗い家に置き去りにされた甥を思うとたまらなかった。怒りよりも恐ろしかった。

翌日病院で遺体引取りの手続きをすると家の鍵を渡され、依羽は再び腹を立てた。

事故に関係した全員が噛み合わない間違ったことをしている気がした。

自分の周りにいる全員が、無力な馬鹿だ。当然自分も。

悲しいのか腹立たしいのか、あるいは自分が情けないのか依羽はわからなくなり、そのくせ家探しをして姉の預金通帳と生命保険証書を探し出し、額面を見て再び恐ろしくなった。

依羽は葬儀の間中目を血走らせていたが、参列者はそれを不審には思わなかった。ただ痛ましい姿と誤解した。

 

 

    ◆

 

葬儀は始まってしまえば、ただ機械的に進む。それは残された者にとってありがたいことでもある。悲しみに囚われるというありきたりな表現は、ありきたりだからこそ本当で、何も考えられないし何もできなくなってしまう。決まりきった儀式は救いで、次々と単調な任務をこなすことは自分が泥濘に沈むことを防いでくれた。まだ自分はやれることがあるのだと思える。依羽は焼香客に黙礼を続け、隣で信也もお辞儀し続ける。葬儀社の係員が「おじさんと同じに、立って、お辞儀して、座ればいいからね」と言い聞かせた通りだ。

「きっと、何があったのかわかるのはずっと後でしょうけれど、本当にお行儀のいいお子さんですね」

係員が言ったと同様の言葉を、弔問客からも何回も聞いた。

(気味悪いくらいだ)依羽は思った。聞き分けが良すぎる。

 確かに姉も生前、自分の息子が保育園で行儀がいいと褒められるのだと自慢した。けれどそれに付け加えて「この子は大人しいからわかりにくいけど、いつも機嫌がいいの。家では猫といたずらもするし、保育園でも一日笑ってるんだって。一人っ子だからかなあ、無口なの。話すことは何でもわかってるのに」そう言っていた。

 このあたり一帯では、家に遺骸がある間は猫は屋内に置けないという風習がある。

 魔が憑く。

 そう言われている。納棺する前の床に寝かせている遺骸の胸には短刀を置くことになっている。納棺したら棺の上にナタや草刈鎌を置く。

「家で一番良く切れる刃物を置くわけさ。そして猫を近づけないことだよ」

葬儀まで手伝ってくれる近所の老人に言われ、依羽は自分の柳刃包丁を置いた。遺骸の胸に置く時にはサラシで巻いたが、柩には抜き身で、長い刃を光らせた。

 そして猫が来たら捕まえて人に預けようと心づもりしていたのに、一向に戻ってこなかった。信也は猫が大好きであるらしいのに、騒ぎ立てない。

 母親の死を拒否して心を閉ざすという様子でもない。むしろたいへん落ち着いていて、「お利口さんだね」と一日に何回も言ってしまう。

(個人差っていうのかな。自分が五歳児の頃は、絶対こうじゃなかった)

 猫を飼う、ということも依羽には見当がつかなかった。

 店を開けていた頃は、庭の池に魚を飼うくらいしかできなかった。吠えたり衛生面の心配がある以上に、犬猫を怖がる客や生き物嫌いの客がいるからだ。店を閉めると相前後して姉は猫を飼った。そして結婚し、出産し、夫と死別した。

 結婚の時点で家の中は改装した。家の外はいまだに田舎のカウンター割烹らしさが残る構えのままだ。両親は家の中よりも、隣近所に見られる外装が変わってしまう事を嫌がった。

(あっという間だ)

 店の手伝いができなくなった両親を施設に入れ、手が回らなくなって資金繰りに失敗し、店を閉めて姉が家を引き受けてくれた。きっと義兄は違う住まいを望んでいたはずだ。妻の実家から資産相続どころか借金の尻拭いのように家の土地を買い取りことになり、好きに建てたかったろう住居も思い通りでないリフォームとなった。姉が強引に頼み込んで長距離通勤する羽目になったことが病気の発見を遅らせたのではないかと思う。子供が生まれた途端に病死する羽目になった義兄は、激務と長距離通勤を重ね人間ドッグを受診していなかったと姉は泣いていた。

 姉と自分が育った家は依羽が包丁を預かるまでは寿司屋だった。「海無し県」と揶揄されるこのあたりの人間にとって、寿司と刺身は極め付きのご馳走だという歴史があるから、父の代には店は栄えていた。けれど今では物流を押さえてから出店してくる回転寿司のチェーン店がある。個人営業の店が勝負できるわけがなかった。

鮮魚を扱う店は、料理人の腕よりも仕入れ先の仲買の良し悪しで決まってしまう。売れなくなればなるほど売れ筋は手に入らなくなる。依羽は寿司屋から料理屋にのれんを替え、けれど食堂や定食屋にはしなかった。魚をさばくのが好きだったから。

依羽は今でも魚を料るのが好きだ。季節の面白い魚を仕入れて五枚に卸す時、魚体が判別わかる。絞めた時間がどれほど前か伝えてくれる身の弾力。味の濃さを知らせる脂の入り方。生きていた場所が皮や頭に日焼けや傷を残し、鱗の剥落には体表寄生虫の碇虫が食いついて透明な糸そっくりに垂れていたりする。

冊を作ってまな板を清め、油を完全に落とした柳葉包丁を使う。刺身の一切れ一切れは手先や腕ではなく、体重をかけて削ぐ。毎日やっても角の立ち方が違って、会心というほど整った切り身が出来ると、寿司に握るのが楽しかった。(あれくらい角が立っていれば、表面はなめらかさとぎりぎりの粘着性を保つ。客の舌に吸い付いてから脂がさっと溶けるだろう。途端に寿司種の風味が口の中いっぱいに沸き立つはずだ)そんな風に思った一貫を客が目の前で食べ、予想通りの顔をする。客の口福の喜びを目の当たりにできる楽しさは、寿司を仕組む楽しみを別格のものにした。

しかし自前の店は寿司屋では維持できなかった。今では腕も見立ても、両方ともなまるだけの生活だ。

 

参列者焼香の間、数百回頭を下げ続けた依羽は何も考えていなかった。考えていないと思っていた。

けれど頭の中には回想が渦巻いていたし、ささやかな悪事の計画も進んでいた。

義兄を早死にさせ姉を泣かせた悪人としては、ささやかな悪事だ。

 

 

      ◆

 

 昨日通夜の前に、姉を荼毘に付した。親族が集まり骨を拾った。白手袋ばかり目立つ隠亡が骨壷を桐箱に納め、箱を錦の袋で包み、紐を掛ける。納骨室を出るとき、係員が依羽にそれを渡そうとしたが、

「あ、俺が」

 母の兄である伯父が前に割って入った。

「お前は位牌を」

 骨壷は喪主が運ぶものだ。

 それを奪い、妻には遺影の額を抱えさせた。

 依羽は仮ごしらえの白木の位牌を持たされた。

 父の妹である叔母が信也の右手を握り、その夫が信也の左手を握った。

 遺骨を持つ者は先頭に立つのだが、伯父は叔母に視線を注ぎ、大きく後ろを向いた。わかりやすく唇を歪めていた。

(まったく、わかりやすい)

 先刻までいた火葬場の控え室で、依羽は集まった親族に伝えたことがあった。それが彼らの身振りを滑稽なほど変えていた。

 

 姉はシングルマザーだったから、不相応な高額保険に入っており、受取人は当然息子だった。そして示談を求める相手方の自動車保険相談員が提示した保障見込額は、生命保険料の倍を超えていた。

 多分依羽の生涯収入を超える額になる。

 

 依羽は親の残した店を潰して以来、あちこち職を渡り歩いた。実家を捨て独り身で職を転々。それは田舎の人間にとって「遊び歩いている」と目される生き方だった。その上客商売の家に育った依羽は愛想がいい分、軽く見下げられやすくもあった。

 依羽が親族たちに話したことは、彼らの欲と、大人としての責任(という名の世間体)といったものを刺激した。

 

 不甲斐ない依羽に子供の養育と大金を任せるのはいかがなものか。

 

 それまで、信也は依羽が引き取り育てることが適当だと全員が思っていたはずだ。肉親と言えるのは依羽一人であるし、ずっと姉に苦労をかけ続けたのだから。頼りないなりに依羽には情があるだろう。

 母親の死は突然だったから、遺児をどう育てるかなど結論づいてはいない。しかしうっすらと、依羽が甥を引き取ることが系累たちに想像されていたはずだ。

 しかしそこに思いがけない大金という要素が加わったのだ。

 依羽は、自分を愚かな悪人だと思っている。だからこそ、多分賢い人間より身に染みて知っている事があった。金は滑稽なほど人を動かすということだ。

 頭がいい人間は金で動かないことを依羽は知っている。それは暗闇から光射す天を見上げるように分かることだ。正しい選択ができる頭がいい人間は、光に包まれた居場所から暗闇を見下ろしても何も見ることができない。頭がいい人間は、凡人が堅固な自分というものを持っていないことをわからないだろう。

大半の人間は、見合わないほど多寡たかのしれた金に目がくらみ、金を手に入れる機があればいくらでも考えを変える。自分自身を変える。それまで思ってもいなかった行動を選んでおきながら、「ずっと前からこうするつもりだった」と自分自身を簡単に欺く。

 依羽は借金を焦げ付かせ人に迷惑をかけた。姉だけでは無いのだ。自分がどれほど恥知らずだったか、そのくせ合理的に行動していると思っていたか、自分自身がぐずぐすに揺れて別のものになってしまったことを忘れられるはずがなかった。

 幼馴染に土下座して金を借りる。その時大切な相手だからどんな努力をしても返そうと思っているのは本心だ。ところが返却日が近づくと初めから返せなかったのだと思う。そして返せないのは友人もわかってくれていたはずだとさえ考える。返せないとわかって貸してくれた金ならありがたく借りていよう。初めからそのつもりだったのだ。

 それはまるで子供の頃見たタイムトラベルの物語のようだった。

 時間旅行者が過去に旅して何かしてしまう。途端に現在生きている人々の記憶や考えや人生は塗り変わってしまい、全員がはじめからそうだったと思い込む。思い込むのでは無い。はじめからそうだったということになってしまうのだ。

 金はタイムマシンのように、人の考えを塗り変える。大金が転がり込むと知れば、親族の何人かは信也を養育してもいいと考えるだろう。そして金に転ぶ愚かな人間は自分を欺き、金が無くても信也を引き取るつもりだったとさえ考えるに違いない。

 信也を育てた上に自分の人生も変えられそうな金額なのだから。賠償金だけでも。

 

 依羽の目論見は当たった。

 

今朝、葬儀の前に信也はアイスクリームを与えられていた。叔母は信也に語りかけていた。

「信也君、おいしい?」

子供は頷いた。

「アイス好き?」

 再び頷く。

「今晩さ、うちに泊まらない?」

 信也は視線を移し、叔母の顔を初めて見上げた。

 そして首を横に振った。

「にゃあが、寂しいから。だめ」

 叔母はその意味を取り違えた。

「うちは寂しくないよ。うちのお兄ちゃんがゲーム持ってるし」

 信也が寂しがっていると勘違いしていた。

 信也は重ねて首を振り、

「にゃあがいるから」

 そう言った。

 

 葬儀は正午に始まるので、親族は一堂に会して早い粗餐を取る。その席で伯父が叔母に、

「信也君はね、私が引き取ってもいいと考えています」

 そう切り出した。ジャブを繰り出したという態だ。

「信也は猫と一緒が良いそうです」

 叔母は応戦した。そして依羽に体を向けると、

「今日も実家に帰るの?」

「はあ。当面は俺が信也と暮らします」

 当面は、という消極的なセリフに、叔父の顔には喜色が差した。

「当面、信也君と一緒で不自由があったら、私が泊まり込みに行ってあげる?」

 それは面倒だ。家財を探られたくない。

「俺、料理上手いすから」

 それから駄目出し的に、

「でも、子育ては自信ないすね」

 そう言ってみた。

 それからわざとらしく大きな身振りと声で、

「しばらく頑張らせて下さい。俺、信也を引き取りたいですけど自信は無いんです。俺が駄目だとなったら、信也のためになるようにご縁のある皆さんを頼りたいです」

 両手をついて頭を下げた。

 

 親類たちはみな凡人だ。強欲な悪人など一人もいないだろう。

 持参金付きのお行儀のいい子供を引き取る事で大金が手に入る。それを面倒だと考える者もいれば、金と関係なく子供の育て親になるのだと思い込む者もいるはずだ。

 依羽の目論見は当たった。

「信也は依羽に面倒を見させるが、無理とうん、なったら俺に言えよ」

「私も、信也君が可愛くて仕方ないからね、」

 そう言う伯父たちは、依羽に落ち度を見つけて信也をかっさらって行く用意しているように見えた。

 

 

 当の信也はその間ずっと、サッシ窓に額をつけて外を見ていた。

 外には木立があって、鳥が止まっていたから。

 猫はガラス越しに鳥を見るのが好きなのだ。

―――にゃあはどこにいるかしら。

 母親がいなくなった夜、信也は寂しくなかった。猫が戻って一緒に眠ったから。

 けれどあの晩以来、猫は家に戻らない。

 猫と眠っている時、信也は猫と交じり合う。ひたと体をつけてどちらがどちらかわからなくなって、猫が体を貸してくれる時もある。

 母親に叱責されている時、信也は自分の意識が体から消えて、猫が体を交換してくれたことを感じる。

 母に折檻された時、信也は猫に助けてと言う。

 今までも猫はいなくなる事があった。けれど真也が助けて欲しい時には必ず来てくれた。

―――にゃあがいないのは、僕がダイジョブな証拠。

 信也は落ち着いて猫を待てた。

 

 

    ◆

 

 姉の位牌に線香をあげる名目で、伯父と叔母、それに他の親族も頻繁に家を訪れた。

 彼らは心に、自分が血縁の子供を引き取る可能性を芽生えさせていた。

 自己賠償金は信也名義の口座に入り、依羽はそれを親族たちに見せた。

「信也と親子関係ができるまでは一円も手を付けませんから」

そんなことも言ってみせた。

「血迷って手を付けないように、お見せしてるんです」

 

 相手を血迷わせるために見せていたのだ。

 

 姉の遺産は家屋敷だけだと親戚中が思っているから、他のことで依羽は詮索されなかった。

 もし何かあったとしてもはした金だろうと見過ごされたのだ。

 

ひと月が過ぎた。その間依羽が不安に思ったことはひとつだけだった。信也の体の痣と傷だ。初めて信也を風呂に入れた時は、(男の子とはこのようなものなのだろう)と思った。しかし痣は数日で消え、新しい傷は一つも増えなかった。依羽は訝しく思った。

ちょうどその時点で、依羽は保育園の担任から、耳打ちされた。葬儀後登園を再開して初めは自分と信也の様子を伺うようだった保育士は、

「信也君のお父さんになるんですよね」と言い、

「そのつもりです」と答えた依羽に、

「お母さんの生前は良く痣をつくっていました」

早口に伝えた。

依羽は、

「お心遣い、ありがとうございます」

 と頭を下げた。

 

 保育園から家まで、依羽と信也はいつも歩いて帰った。依羽はバイトをやめて家の片付けをしていたが、それはもともと親族につけ込ませるためだった。(定職にもつかない者に子供を預けられない)そんな口実で信也と賠償金を持って行って欲しかった。

 けれど信也の小さな歩みに合わせて帰る間、(やっぱり自分が引き取るべきかな)そんな気にもなる。

(金も少しは残るだろうし)

 時々信也と依羽は手をつなぐ。

 発熱しているように、暖かい。

 信也が言う。

「にゃあはね、手をつなぐと僕になったよ」

 何だかわからないけれどかわいい、と思う。

「おじさんも信也になるかな」

 そう言ってみる。

「おじさんはにゃあじゃない」

「信也は猫が好きだな」

「いちばん好き」

「帰って来るかな」

「僕が困ったら帰ってくるの」

「困ったら?」

「助けてくれるの」

 会話はおちついているのにいつもとりとめない。

 

そんな日々を過ごして四九日も近い日、依羽は捕まった。

「優雅だねえ、日も高いうちからお散歩。いいご趣味だ」

 高校時代の同級生、いや、気まずい金貸しだった。声のソフトさ、温厚な笑顔、そして依羽が破産手続きをとっている間に追い貸しした凶暴な眼光は変わらなかった。破産手続き中に新たな借金をしたことが発覚したら、過去の手続きまで遡り無効になってしまう。

「しばらく合わなかったのに、なんで?」

「なんか、最近いい話聞いたんでさ、今度おウチに家庭訪問しようかなぁ。ほら、いただく当てがない人をいじめてもさ、なんにもならないけど、なんかいい話があるの待ってたわけ」

 強請れる気配ができるまで待っていたということだ。

 

 声はからかうようで、依羽は覚悟した。信也を捨てて逃げなければ。

 

 

 すっかり信也と親子気取りになり、逃げるのを後回しにしていた。

 

 賠償金は表に出して親戚に差し出す。

 生命保険のことは誰にも言わず、指定後見人である依羽が受け取る。そして行方をくらますつもりだった。

 どこに行く原資も無いからここに残っていただけなのに、今つつかれたらばれる。

 信也を置いて逃げる。

 

 依羽は通帳と印鑑だけを家に取りに戻った。信也は置いて逃げる。

 あの子は母親に置き去りにされて、自分がまたそれをするのかと思うと、依羽はたまらなかったが、自分はその程度の人間なのだった。

 

 

 家に急いだ。

 途中消防車に追い抜かれ、家に急いだ。

 

 この日家が燃えたことを、依羽は偶然とは思わなかった。

 漏電と判定されたけれど、偶然では無いと依羽は思った。

 偶然のはずが無い。

 何しろ漏電したコンセント周辺は、引っかき傷で露線していたというのだから。

 そして燃えた家からは猫の死体が出てきたのだから。

 依羽は息子になった信也の言葉を間に受けてはいないが、猫は確かに信也を守ったと思う。

 炎を上げる家に依羽が飛び込んだのは隠し通帳のためだったけれど、親類は依羽が子供を助けるために身を呈したと思い込んだし、そんな依羽ならと金を依羽に渡して惜しまなかった。

 依羽は気まずい借金を返した。

 

 信也は猫が死んだことを認めない。

「にゃあは僕に入ったから、僕と一緒なの」

 そんな風に言う。

「猫は人間になって嫌じゃないの?」

「おじさんお魚美味しいからいいって」

「そう」

 そうであるらしい。

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