梗 概
聖なる盾泣き笑い
50 命の形は楕円体だ、という友人がいた。天命を全うする幾年も前のことだ。
49 そもそも命とはもともと大陸では令と書いた。半径7センチメートルもある巨大な繭を玄宗が求め、
48 日本から桑の葉を大量に食べ続る蚕を輸入せよと、交易時に要請したという記録もある。
47 大石内蔵介記念館でも討ち入りの前に主税と交わしたといわれる楕円の盃を目にした。
46 防衛庁に勤務する三等海佐の友人によれば乃木希典将軍が殉職する直前に夫人に取ってこさせたと言われる
45 サファイアの指輪もまた珍しく滑らかな楕円のカッティングを施され、大海原を恋うる将軍の魂を鎮めたという。
44 戦後はるか海を越えて英国から訪れたジョージ・アレン卿は
43 東久邇宮稔彦王の境涯についても哀悼を示し、かの国では死にゆく魂が向かうのは
42 オリオンの大星雲のなかであるという言葉を残した。楕円の傘を広げ
41 かの鬼才モーツァルトに最後の交響曲を書かせた星々のきらめきは
40 燃えるルビーの輝きをもってその命の形を示すと。
39 Thank you for this earth ellipsoid. 書物に残されたその言葉に力づけられるように
38 板門店に向かったのがつい昨日のことのようである。
37 そこでは犬が非常に大切にされていたのが印象的だった。ものものしく武装した兵士たちの
36 醸し出す空気は万一の事態には逃げるに如かず、という決意を促されるものだったが、
35 折しも猛暑のさなかで、楕円を描いて隊を為す兵士たちの一定の運動にも多少の乱れが見えた。
34 その熱さはなぜか、スペイン南部のアンダルシアに赴任していた頃、
33 フリーメイソンの最高位にあるという男と毎日のようにオーバルの
32 チェス盤を挟んであおっていたオルホが喉を灼く感覚を思い起こさせた。
31 あの熱風を記録として和歌に詠んだ日々の中にも確かに楕円が存在していた。
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内容に関するアピール
自動的に書かされる、というのに強い憧れと欲求があったので、ある主体が高層ビルのエレベーターの中に閉じ込められ、ひまつぶしに50階から1階までズラリと並んだボタンを見ながら連想による創作が行われる、という設定を考えてみました。
ルールは、一行ごとにその数字から連想する単語を入れねばならず、その単語にリードされながら整合性のある文章を創っていく、というものです。梗概なのでわかりやすく行番号を振ってみましたが、実際には入れないつもりです。
また、50階から1階までなので、だんだん下に行くにしたがって重力加速度がつく(ような印象を読者に与える)というのを実作ではやってみたいです。他に思いついたルールである「ソネット形式」と「韻を踏む」も可能なら文章にリズム感をもたせるために入れてみたいと思っています。
文字数:349