Hello America, again

梗 概

Hello America, again

パロ・アルトはV8の鼓動に覆われていた。
死屍累々のアンドロイド。炎上する自動運転車。星条旗を纏った屈強な男たちはテック企業を破壊し、自動キオスクを打ち壊し、大学を蹂躙していた。ニューロチップを埋め込みARグラスをつけた移民たちが血まみれで倒れ、悲鳴をあげて逃げ惑っていた。マックス・イーストウッドはそれをハマーのサンルーフから満足げに眺めた。
「ゴッド・ファーザー」
そう呼ぶ部下の声にマックスは目線をやった。マックスはイタリア系ではなく、レザージャケットを着ていたが、その呼び名に満足していた。
「チャイニーズが来ます」
マックスは引き上げの命を出した。部下たちはハーレーに飛び乗り、大行列をなしてシリコンバレーから撤収した。

二二世紀も目前となった未来、華美な宇宙開発の裏でアメリカの白人たちは貧困にあえいでいた。第二次インドシナ戦争で発生した大量の帰還兵は特に不満を燻らせていた。彼らに職はなく、犯罪を繰り返し、治安を悪化させた。マックスのような退役軍人が彼らをまとめあげ、ギャングを組織したのは当然の帰結だった。彼らはヴァイパーと名乗った。
ヴァイパーは議会に影響力を及ぼし、警察を買収し、中国系マフィアと抗争した。違法化された銃取引、ガソリン取引、煙草取引から利益を得た。白人の若者に職を与えるよう企業を脅迫した。彼らは愛国者だった。

あるとき、企業連合がヴァイパーの息がかかった警備員たちを一斉に解雇した。企業連合はヴァイパーのガソリン裏取引が企業利益を損なっていると考えており、潰しにかかる腹づもりだった。マックスは脅迫で事を収めようとしたが、企業連合の新しい委員長であるシャマランは断固として譲らず、州警察を使ってヴァイパーの構成員を検挙し始めた。
ヴァイパーは大規模な抗争へとなだれ込んだ。報復としてパロ・アルトを襲撃し、重要人物を人質に取った。報復の応酬はとどまるところを知らなかった。企業連合は警備員を増強するだけでなく、中国系マフィアに武器を提供し、ヴァイパーを潰しにかかった。戦力差は明らかだった。
マックスは各地のガソリンタンクと兵器庫を抑えられ、幹部の裏切りに遭い、妻を銃殺された。組織は瓦解した。西海岸のギャングを招集して会議を開いたが、彼らの総意はヴァイパーを見捨てることだった。
やがて、マックスは隠れ家に追い詰められた。もはや数人の幹部と家族しか残っていなかった。息子のウォルトが言った。「新天地を目指しましょう」マックスはその言葉にはっとさせられた。「メイフラワー号の祖先たちのように。偉大なる西部開拓者たちのように。自由の国アメリカの血脈を荒野に捲くのです」マックスは深く肯いた。
彼らは火星へと旅立った。

文字数:1113

内容に関するアピール

課題に対する私のアプローチは、「作品を総括する、最高のヴィジョンを最初に提示すること」です。ヴィジョンは単に読み進めることを促すだけでなく、繰り返し読まれ読解されうる強度を持った象徴的なシーンとします。そのために時系列も変え、一番いい場面を最初に持ってきています。
梗概の最初の数段落がヴィジョンの圧縮版になります。このアプローチは第一回に選外から提出した実作でも実践しており、私が常に気をつけていることです。

これは政治イデオロギー小説ではありません。プアホワイトを題材にするにも関わらず現代小説でなく近未来SFであるのは、客観性を得るためです。「1984」のように、現実と適切な距離を取ったSFにしたいと思っています。

題名はバラード「Hello America」から。「ゴッド・ファーザー」などのギャング映画、「マッド・マックス」や現実のオルトライト団体などを参照しています。

文字数:388

課題提出者一覧