海と星空のメルカトル

梗 概

海と星空のメルカトル

「世界が大きな球体だったら、水平線はどう見えるのかな?」
 島でのバカンスを終え、港に近づきつつある連絡船の甲板で、中学生の娘が真顔で聞く。父親は少々虚を突かれた。
「そんなこと考えたこともなかったな。」
 まったく、娘の発想はいつも突飛だ。
「大きさによるだろうけど、ええとそうだな、やっぱり少し弧を描いて見えるんじゃないかな。」
「もしそうなら世界はずっと小さかったはずよね。」
 大人びた口調で少女は言った。父親は内心きょとんしたが、それを顔に出すまいと曖昧に首をかしげた。

 ここ熱海は、”世界の果て”を目指す西征族と東征族が日本で最初に出会った場所で記念碑もある。今でも東、西といえばありふれた苗字だ。遅れて南征族と北征族もこの地にたどり着く。連絡船の親子も南家の人間だ。

 中国は四つの家が集結したことを誇って麻雀を作り自らを名付けたが、それは早とちりでお隣の日本を含め四つの方角を示す家系は大抵の国にあった。例外はアメリカ東海岸や、イギリス、ポルトガルなどの辺境の国々である。

——大海原を超えて旅を続けて来た人類。大陸間の戦争も起こったが、旅には果てしがなく、星を道しるべとして海を進めばいずれ新たな大陸にぶつかり、そこには同じように人類が栄えていることを知った。近隣の大陸間では貿易も栄えた。

 文明の進行度には大きな格差が生じた。交易のハブとなった大陸はますます繁栄し、孤立した島々は取り残された。やがて発展した国々には、孤立した島を天然記念物として保全し、観察する趣味が発生した。彼らがみずから外洋を超えて文明大陸にやってきたときに大歓迎しようと待ち構えることにしたのである。

 ずっと小さい?

 父親は少し混乱して娘に尋ねた。
「みれい、ちょっとおさらいさせてくれ。”球体”ってのは確か丸いものだよな。みれいが言ってるのは海が丸かったらということ?」
 みれいは娘の名である。
「違うわパパ。球体というのは円(マル)より”次元”が一つ多いのよ。パパの答えはあってる。でもそれは円の端っこが見えるということじゃないの。もう、いいよいいよ。早く海鮮丼食べに行こう。」
 父親は弁護士である。自分の論理的思考力には自信があるのだが、娘の数学的な会話にはちょっとついていけないのだった。

 みれいはアメリカ東海岸の高校に進学するといって聞かない。
「私の計算によれば、あと八年、つまり私が大学を卒業するころに、原子力船が就航するわ。私はそれに乗るの。」
 アメリカがこれまで威信をかけて送り出した東征船団はすべては未帰還か、成果なく海原を漂い戻って来ていた。年単位で航行できる原子力船なら新大陸を発見できるはず。それがみれいの”計算”だった。

 周囲の大国が既に知っていた通り、その計算は当たっていた。

 ”宇宙の地平面”と呼ばれる、みれい逹のいる二次元世界には次元の畳み込みによって宇宙の全情報が記述されていた。

 みれい達が海鮮丼を食べている”熱海”からほぼ鉛直方向、数億光年の位置に太陽系第三惑星地球が輝いている。八年後、地球から一隻のレーザー核融合宇宙船が旅立った。

文字数:1276

内容に関するアピール

SFの王道、大仕掛けの”バカSF”に挑戦します。

夏休みに家族で初島に一泊し、熱海に戻る船上で、娘に「もし海が水平だったら、水平線はどう見えるの?」と聞かれ、すこし考えてしまいました。そして、いいネタをもらったような気がしてきたのです。それから締め切り日まで悶々と苦しみ続けた結果この梗概となりました。

果てしなく続く海と大陸の水平世界は、全宇宙の投射図になっています。一見普通の家族団欒の夏休み旅行風景に、違和感のある会話を置き、そのままメルカトル図法の地図のようなトンデモ世界に読者を引き込もうと思います。

この作品で「宇宙は知的生命体でいっぱい。実はにぎやかだった。」という話が書きたいです。メルカトルとは”商人”の意味だそうです。最後はホログラフィック原理の香りで落としたいのですが、途中に描く大航海時代から無限のグローバル化への流れが、宇宙探索の希望への余韻につながるような作りにしたいです。

文字数:398

課題提出者一覧