セブンス・アラーム

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梗 概

セブンス・アラーム

 分業と格差が進んだ結果、ある程度の年齢で一生の職業が決定される未来。エイラは幼いころに監視塔に連れてこられ、システムの監視員となるよう育てられた。

 ある日、夜勤シフトに入っていたエイラはモニタに見慣れないインシデント・アラームが表示されているのを見つける。データベースを参照するとメッセージを発報したのは100年以上も前に廃止されたはずのシステムだった。廃止されたシステムからのメッセージはすべて報告対象外であるため、エイラは違和感を覚えつつも、マニュアル通りにそれを無視する。その後も一定間隔で同じシステムからメッセージが発報していることに気づく。エイラはそのシステムが稼働しているサーバにアクセスを試行してみる。

 そのサーバで動いていたのは200年前に開発された環境保全システムの管理AI『ギア』だった。地球上のあらゆる場所の大気の状態や水質、地質のデータを集めて分析し、人間の生活に影響の出るような環境の変化を未然に防ぐために開発されたそれは、企業や国家の活動を制限しすぎたために、当時の経済界や各国の政府から猛反発を受け廃止された。しかし、廃止された後もギアは見捨てられたサーバ群にその機能を残し、地球のことを見守っていたのだ。

 ギアが飛ばしていたのは、かつてセブンス・アラームと呼ばれた最高レベルの危険域を示すメッセージだった。それは数時間以内に大地震が同時多発的に発生し、それが連鎖的に世界中の火山の噴火を誘発し、地球環境を大きく変化させ、人類の存亡にかかわる事態になるという予測である。エイラは急いで上層部に報告するが、取り合ってもらえない。それどころか、古いシステムがまだ稼働していることを知った上層部はその処分を決定する。

 ギアは地震を未然に防ぐことはできないが、震動を分散することで被害を最小限に抑えることは可能であるという。しかし、そうするためには現行の環境制御システムが持つ権限が必要だと、ギアは悔しがる。エイラは悩んだ末に決断し、ギアに向かって宣言する。

「わたしにはできる」

 エイラは監視員に受け継がれてきた今ではもう誰も顧みることのない紙のドキュメントを引っ張り出す。そこにはアカウント管理サーバを利用しあらゆるシステムへ管理者権限(スーパーユーザ)でアクセスするための方法が書かれていた。もちろん、許可なくそれを実行すれば厳罰は免れないが、エイラはその権限をギアに譲渡する。ギアは自分が開発された当時と変わらないセキュリティの甘さにあきれながらも、システムを乗っ取る。その瞬間、全世界にあらゆるメディアを通して警報が響き渡り、特定の地域には避難勧告が出された。数時間後、ユーラシア大陸の極東、南アメリカなどで発生した地震は大きな被害を出すことなく終息する。

 エイラの罪は事情を理解する数名の尽力によって減刑され、一年後希望通りに元の職場に復帰した。復帰後初の夜勤の日、受信するはずのないインシデント・メッセージがエイラの目に映る。それは能力が再評価され現行システムとの統合を果たしたギアからの発報だった。

文字数:1268

内容に関するアピール

 サーバ監視SF。

 監視室という閉鎖された空間から世界を救う物語です。主人公のいる舞台の狭さは、そのまま想像力の狭さに直結します。外の世界をほとんど知らず、ルールに縛られた場所で育った主人公が、急に世界の命運を背負わされたとき、いかに英雄的決断を下すのかを書こうと考えています。

 管理者権限を使用するシーンは、実体験を誇張したものです。

※システムによる環境へのアプローチの違い

環境保全システム→人類の干渉を最小限にすることで地球環境を守る
環境制御システム→地球環境の変化に応じたテクノロジーの発達を促すことで人類の生活環境を守る
新システム→環境に配慮しながらなおかつ人間のポテンシャルを十分に発揮できるような環境を整えていく

文字数:312

課題提出者一覧