赤羽二十四時

梗 概

赤羽二十四時

 〈ぺこ&りゅうちぇる〉を名乗るブロンドヘアの二人組がコンビニを襲う。店員二名、客三名。まず店員を一人撃ち殺す。同じ目に遭いたくなければ、床に座って手をあげろ。
 レジの金を獲り、金庫を開けるようバックヤードの店長を脅す。
 手際よく終わるはずだった。妨げたのは新たな来襲者だった。ジャンプスーツに身を包んだ美貌の三姉妹工作集団〈スリーエフ〉は、世界最大のコンビニ愛護団体〈24h解放同盟〉の同志だった。
 三姉妹は当該コンビニのシステムダウンを試みる。陳列されたチルド飲料を賞味期限ばらばらに並べ替える。中華まんをフライヤーで揚げる。エロ本の袋とじを破る。発注端末を操作して店に入りきらない大量のおにぎりを発注する。
 こうした喫緊の危機に単独で対処せねばならないことがフランチャイズ店最大の弱点だった。
 店舗は溜め込んだストレスをついに爆発させ、ファミリーマート赤羽西六丁目店は野生化する。
 コンビニは自身を大地に縛り付けていた拘束具を引きちぎり、起ちあがると、高らかに咆哮した。
 任務を完遂した三姉妹は、システムエラーによって不協和音に転じたファミマ入店音を後に残して、開きっぱなしの自動ドアよりパラシュート降下する。
 警察はテロリスト〈解放同盟〉を追う。現在赤羽の雑居ビルに潜伏している模様。
 野生化したファミリーマート赤羽西六丁目店がセブンイレブン蓮沼アスリート通り店を捕食する。セブンが抱える資材がファミマ体内になだれ込み、店内をシェイクする。三人の客が滑落する。
 ファミマの胃はセブンのプライベートブランド商品に拒否反応を示し、嘔吐する。コンビニのストレス係数はまたも上昇、板橋の住宅地を破壊し、首都高を手刀で割る。
 店長は嘆いた。万事休すだ。ニューヨークの学生だったドレーは、ラッパーを志すも親友からのディスに傷心し、道をあきらめた。この時読んだ『葉隠』に感銘を受けて日本へ渡った。想像と現実のギャップに戸惑いながら社会人になり、コンビニ店長になった。家に帰る間も惜しんで働いた。忙しい時は駐車場のマイカーで仮眠をとった。ブラック社会のニガーとは笑えねえ、日々自嘲の連続だった。それでも悪くはなかった。しかしその日々も終わりだ。
「ここって経験者優遇?」
「僕、大学の頃ローソンで働いてたよっ」
 ぺことりゅうちぇるがユニホームに着替えていた。
 久々にコンビニ魂に火がついた元銀行強盗二人の助力を得て、システム復旧に取りかかる。
 お客様の目にとまるよう、商品を前出しする。
 ウォークイン内の段ボールを開け、缶とペットボトルを補充する。
 賞味期限切れの商品を廃棄し、店内フロアとトイレをピカピカに磨き上げる。
 ストレス値が急下降して基準値に戻り、システムは復旧する。再び直方体型外殻に封じられ地上へ着地した時、ファミマ赤羽西六丁目店は既に二十四時間営業可能能力を取り戻している。
 ドレーは本件で〈コンビニしつけ法〉に牴触する可能性が高い。数年は臭い飯を食うことになるだろうが、後継の二人も見つかったことだし大丈夫だろう。ブロンドヘアのマッドカップルは店員一名を殺していたが、吊り橋効果で深まった絆を前にすれば、無能なバイトが一人死んだことなど些事に過ぎない。
 警官とともに思わぬ人物がやってくる。今回の野生コンビニ大捕物を見ていた世界最高の〈小売店捕獲者(コンビニテイマー)〉、ファミチキの銀さんその人だった。国内コンビニの店舗数がえぐいのは、ひとえにこの男の野生コンビニ狩猟能力の高さのためだった。
 銀さんは言った。「君達の運営手腕、見せてもらったよ。君達こそライトスタッフだ」
 その言葉に胸を焦がしながら、ドレーはお縄についた。

文字数:1516

内容に関するアピール

 世の中にはいろいろな怪獣映画がありますが僕はJ・J・エイブラムスの『クローバーフィールド』が割と好きです。あの映画には怪獣の大暴れを遠景で撮った絵がほとんど出てきません。怪獣の全容を捉えたニュース映像だとか、そういう絵も出てきません。「まさに今、怪獣による大破壊の渦中に巻き込まれている」というとき、僕たちは大暴れする怪獣の姿を正しく捉えることはできないでしょう。この映画はそういったリアルの視点に寄り添って、進行していきます。だから怪獣がどんな姿をしているのかさえ、終盤までまったくわかりません。その不明性が、映像に、不気味な不安感と、独特の浮遊感をもたらしています。
 今回はそういったことをやりたいと思いました。怪獣の姿を捉えるのが一番難しいのは怪獣の体の中にいるときです。それではどう頑張っても怪獣の全容など拝めるわけがありません。そういった絵を、「『大暴れするコンビニ』の店内」という限定された一つの場面を通じて描いてみたいと思います。これは、映像として撮ったら間違いなく面白みに欠けたものになるでしょう。しかし、言葉と文章でこれを行う場合は、ナンセンスなおかしみを持ったものに仕上がるのではないかと考えました。野生化したコンビニってのは一体ぜんたいどんな姿をしているのか。その姿が読み進めてもなかなかわからない。けれどもそのわからなさがもどかしくも楽しい、という小説にしたいです。
 加えて、今作では「シュールな笑い」を標榜します。お店の中も外も大混乱に陥っているなかで、システム復旧のために店員と銀行強盗が手を組み、ど真剣にコンビニの日常業務を行うという絵は、業務内容を詳細に書けば書くほどあじわいが出ると思います。僕が持っているコンビニアルバイト経験四年の知識を活かしてこれを丁寧に描写したいと思います。

文字数:759

課題提出者一覧