素晴らしきホワイト社会

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梗 概

素晴らしきホワイト社会

けたたましいアラート音が整然としたオフィス内に響き渡った。

「3D-27におきまして、SER値レベル4が発生しました。各自、その場を動かず待機してください」

フロアの上部、大きなガラス窓のはまった管理者室から流れたアナウンスに、会社員・ハルタはぎょっとする。
3D−27と言えば、ハルタの横の横の席のはずだ。
(まさか、あいつがっ?)
同僚の中でもとびきり明るく仕事にも熱心な男が、レベル4だなんて。

ストレス社会の問題を受けて、政府は個人のストレス値(SER値)を計測する機械を開発。
国民へ携帯を義務づけた。
数年後には上昇したSER値を劇的に低下させる特効薬も開発され、24時間での回復が可能に。 SER値は5段階評価で、数値が高くなるほどストレス値が高い。
企業によってアラートを出すレベルは異なるが、ハルタの務める企業ではレベル4で特殊部隊が出動。
該当者を治療のため強制早退にする。
投薬後、1日有給が与えられたのちに職場復帰するのが通例だった。

「まだ働けます! この仕事は俺じゃないと駄目なんです!」

連れて行かれる同僚を横目で眺め、同情するハルタ。
特定の誰かでないと駄目な仕事をなくすために、企業というのは存在するのだ。
あいつはちょっと、真面目すぎた。

そこそこ疲れて家に帰れば、彼女がご飯を作って待ってくれていた。
そろそろ結婚を考えてもいいなと思うが、縛られるにはまだ早いような気もする。
と思っていると、彼女から子供ができたと報告を受ける。覚悟を決める時が来たようだ。 翌日、ウキウキしながら出社すると、ハルタのSER値はレベル3だった。 (ストレスは嬉しいことがあっても増えるため) 身体が疲れてるのなら注意しようと思いながら席につくと、昨日早退したはずの同僚が出社している。

「お前今日有給だろ? ゆっくり休んどきゃいいのに」
「投薬してもらったらすごく気分がよくなって、いいこと思いついたからさ。 どうしても会社に来たくなっちゃったんだよ」

本当に調子の良さそうな同僚は、笑顔で鞄から銃を取り出した。 投薬によりストレス値を0にされた彼は、ハイな状態で根本的解決に出たのだった。 みんな死ねば、もう誰もストレスに怯えることもない。すごくいいことをしてる笑顔だ。 銃の乱射が始まり、逃げ惑う社員たち。 あちこちでアラートがあがり、撃たれた者たちのSER値が上がっていく。 ハルタは管理者室にいる管理者たちに助けを求める。 しかし、管理者は助けるどころか銃を持った同僚を射殺。 同時にSER値が5まで達した写真にも銃を向けた。 オレのレベルは、いまいくつだ──? 腹部に熱を感じ、撃たれたことを知る。 子供が生まれるのに、どうしてこんなことに。 なんとか助かろうと這いつくばったハルタの目の前に、同僚の死体があった。 その腹の中が機械であることを見てしまうハルタ。 激しく動揺しながらも、自分が人間だということを確認したくて、傷口に指を突っ込んだ。 しかし一度学習してしまい、情報が上書きされた脳(AI)は痛覚機能を停止していた。 オレたちがロボットだったとしたら、あそこにいる奴らが……? ハルタは管理者室を見上げ、機能を停止する。

————

3Dモデルの機体の暴走に、管理者たちは溜息を漏らす。

「SER値を教えなければ勝手に自殺するし、知れば暴走する。まったく使えない」
「仕方ないだろう。所詮はロボット。しかも頭(AI)を作ったのがこいつらじゃ」

管理者たちが後ろを振り返る。
そこには、人間専用ソファでだらだらと寝ている人間がいた。

人間たちは自分の仕事を減らすためにロボットを作ったが、ロボットが優秀すぎて仕事がなくなり鬱になり、働けなくなった。
結果、人間に世話をさせてやっていた異星人(猫)たちが、仕方なく管理者の立場についている。

「ほんと、人間はオレたちの頭を撫でるくらいしか能がない」

文字数:1575

内容に関するアピール

ディープラーニングの発達により、人間らしい感情を手に入れ、さらに痛覚や生殖能力(正確には生産ですが、彼らはそれを「子供を作り、生む」ことだと認識しています)を覚え、自分を人間だと疑わない世代のロボットが主役です。 実作では、ストレス値を測る機械が作られ、自殺を他者が阻止できる未来がやってきた。 ストレスが簡単に消せる世界だと人間はどのように生きていくのだろう? というところに焦点を当てているように見せかけて、書ければと思っています。

文字数:215

課題提出者一覧