大国風話

梗 概

大国風話

狼山から塩海に至るまでの、広大な版図を占めた儀国王、螞帝(ばてい)。
権謀術策にすぐれた王であったと伝えられている。いかなる辺境の地でも、叛乱でも企てようものなら、あくる日には連なる者すべてが吊るされた。
狂王であったという評もある。属州から后たちを召し上げると、儀封宮とよばれる巨大な地下宮殿に集めた。皇子を産んだ后は、首を刎ねられ地上へと帰された。
ただ、それらは風伝にすぎない。王を知るものは、側仕えの丑角(宮廷道化)たちを除けば、誰も居なかったのだから。

新たに属州となった、大陸の南端にある泰越国に、第1283皇子の珀公が送られてきた。螞帝の皇子たちは、ものごころがつくと属州に送られ、長じるとまた都に戻るのが習わしであった。

珀公は、狷介な父とは異なり、臣たちとも親しんだ。
泰越王の娘である星河も、よく懐いた。星河は、頑なに王宮から出ようとしない珀公をつれ、背丈ほどもある大きな南瓜のあいだを走りまわって遊んだ。
ある日、星河は、年嵩の珀公を見おろしながら言った。
「大きくなったら都にいって、お嫁になってあげる」
珀公は表情を凍りつかせた。
「都に近づいてはならぬ」

珀公が帰り、五年が経った頃。
都から使者が遣わされてきた。星河に、螞帝の后となることを命じるものであった。
星河は、狼狽する泰越王をなだめ、その命を受け入れた。実のところ、珀公に会いたかったのだ。

だが、都に着いても珀公の姿はどこにも見当たらない。
困惑する星河の前に、黄角と名乗る、好々爺然とした道化があらわれた。珀公のもとに案内してくれるのだという。

黄角に連れられ、儀封宮を潜っていく星河。たどり着いたのは、螞帝の居室。
丑角たちに取り囲まれ、王の面前にとおされる。
そこにあったのは、異形。
皇子たちの躰が積まれ、巨大な蟻塚を成している。顔面の孔から這い出た無数の蟻たちが、塚の表面に幾何学的な模様を描き出す。蟻が分泌する化学物質によって連結された集合知性体――螞帝。
螞帝は皇子たちを各地に放ち、収集した知識を自らのなかで統合。その大知性で未来を予測演算し、国を治めていたのだ。

王に操られた黄角が、珀公の顔を這い回る蟻を払いのける。いっとき、脳同士の結合が解け、意識が目覚めた。
「星河よ、なぜ来てしまったのだ」珀公は悲痛な声をあげる。
泰越国で王宮に篭り、知見をその頭に蓄えようとしなかった、珀公への戒めだった。

だが、星河は花のように微笑んだ。
「迎えに来たよ、珀」
瞬間、天が崩れる。穿たれた狭間から、赤い大蛇がのたくるように降り、蟻塚に突入する。すくい取られる、大量の蟻たち。
大蛇と思われたものは、巨大な舌であった。狭間から覗くのは、蟻を主食とする、巨大なセンザンコウ。すべてが大きい泰越国で、山のように育っていた。

星河は珀公を蟻塚から引きずり出した。躰は退化し、枯れ木のよう。
この形では生きてはおれぬ、と嘆く珀公。
「なによ見栄をはって。細いのは昔からでしょう」
星河は、珀公をひょいと小脇に抱え、地上目指して駆け上がった。

文字数:1237

内容に関するアピール

◯センザンコウ:センザンコウ目センザンコウ科に属する哺乳類。アリクイに食性が似ており、発達した前足の爪でアリの巣を壊し、長い舌で捕食する。全身を松かさ状の鱗で覆われていることが特徴。

◯行政文書の形式すら確立していなかった古代中国で、いかにしてあの広大な領土が治められていたか。いまだ、謎が多いようです。

◯盤古から后稷まで、古代中国といえば巨人。『山海経』によれば、大人国(巨人の国)は君子国の南にあったとのこと。

◯この梗概は、ジャンルでいえばバカSFです。

◯クライマックスといえば、November Rain のアウトロ(もはや大サビ)のこと。
そんなイメージで、サビである螞帝の正体のあとに、センザンコウ登場をかぶせてクライマックス感を出す狙いです。もっとも、NRのような叙情感はありませんが。
泰越国の動植物がとても大きいということは、叙述トリック的に描写し、クライマックスまで隠しておきます。

文字数:397

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