時間図書館

梗 概

時間図書館

近未来の10歳の少年が、母親が応募したVR仕様の図書館にモニター当選する。
 VRの世界に一人で入り、 複数の本の世界を旅し、その過程で離れた友達との絆を
再確認する。
主人公のソーダは毎月とっている子ども科学雑誌『コカトゥーン』のVRモニターに懸賞応募し
当選した。これで新しい図書館を試用できるのだがソーダは今、すべてのことに乗り気ではない。
大好きだった友人モンレに誤解を受けたまま夏休みを迎えてしまい、なお悪いことに、 モンレは
 先日引っ越してしまっています。
母のイスアから読書感想文を書くのにちょうどいい、と強く勧められ、しぶしぶ時間図書館の案内状に目を通すソーダ。
 紙媒体で印刷されたカード。城を模した図書館の外壁図及び全体像。
 見慣れない小さな直方体の箱。珍しくて不思議な匂いがする。
 ソーダは紙の匂いを嗅ぐ。このインクの香りも城が造られた18世紀の
 ものが再現されているのだろうか。
シュッ!善は急ぐもの。とばかりにイスアが直方体の箱に向かって右手を振った音を聞いたと思うと、これまで嗅いだことのない匂いがソーダの鼻をつき、瞬きすると辺りが暗くなった。
蔦の絡む城の外壁に文字が浮かび上がる。
”ようこそ。時間図書館へ”
大きな門をくぐると、物理的な本をめくって読書をしている女性ガイドがいる。通常の登録とログインを済ませた後、静かに埃が舞うなかをガイドについて歩きながら、ソーダはモンレとのやり取りを思い出す。
ガイドがVR図書館ならではのオフラインガジェットについて話す。
自分の現在考えていることからそこに関連する情報を学習し、方向性を明確化できるのだそうだ。
空間が暗転し、女性ガイドが白い箱を渡す。
 「例えば、あなたが時計を作りたいとします。そんな時、あなたは
  ホワイト・ノヴァに、こうやって、その事実を伝えるだけ。」
  ガイドの言葉とともに、文字盤、針、金属板、歯車、ねじ、ゼンマイ、ガラス板が 現れて宙に浮かぶ。
 「伝える時、それを言葉にできなくてもイメージで構いません。
   機械を組み立てる際のVRワークショップもその場で体験することができます。」
 「それから、この図書館における次世代への成果、”ダイブ”は是非、体験してください。専用のガイドがご案内します。 」
目の前に大きな扉が現れ、ガイドは歩き去る。
その歩き去った傍から白いエレベーターが滑るようにやってきた。音を立てて透明化したばかりのエレベーターのドアから、今別れたばかりのガイドと同じ顔ではあるものの、髪型や嗜好がだいぶ違う女性があくびをしながら出てくる。会話は交わせない。彼女は身振りでソーダの持つ白い箱を示す。箱ごと手を差し出すと、ガイドが手を箱につっこんだ。箱の中で握手した途端に思考が流れ込んでくる。
「飛ぶ。」
 緑色の蔦に覆われた柩のイメージがソーダの頭をかすめた途端、
次のシーンでソーダは海賊フック船長の懐中時計の目線から世界を見ていた。
緑色の影がひゅんひゅんと白い切っ先を振りまわしている。船長は応戦し、
 時計は宙を舞って鰐の大きな影の揺らぐ海面に落ちる。そこで生まれた水しぶきが玉となってさらに波の上にミルククラウンを形成しながら飛び出した部屋の天井は真っ白なガウディのカサ・ミラの波打つ海岸の造形をしていて上下を反転させたその場所から落ちていく中で、目にした窓の外、モンレが一冊の本を抱えながら歩いていた。
「モンレ!モンレ!」叫ぶけれど、
モンレはこちらに気づかず振り向かない。
落ち続けながらソーダはモンレの持つその題名を目に焼き付け続ける。
『星界の報告』ガリレオ・ガリレイ著
ソーダはガリレオの部屋に落ちた。
本の中の登場人物たちの物語に同行したのちVR図書館を後にしたソーダは、興奮とともに最後に会ったガリレオが 話していた地球照による月の明るさのことを思い出し、空を見上げる。
「この度は、時代図書館のモニターへのご応募ありがとうございます。
 ノスタルジック・スプレンディド。懐かしいとはどういうことか。
  当図書館を是非、お楽しみください。
 また、ご観覧の後は、添付のアンケートにて、ご意見をお聞かせください。」

文字数:1702

内容に関するアピール

この『時間図書館』は、人の知へのアクセスと脳と人間の感覚においてのシミュレーション、そしてそれを円滑にするためのガイドとしての特化型AIを置いてお話を作ることを目的としました。
また、図書館にあるアーカイブや作品と利用者のマッチングをする特化型AIと利用者の思念の観念化や具体的な視覚化を助けるガイドとしての対話と嗜好収集分析を統合した特化型AIの活躍を想定しています。
知の技巧の集積知としてのSFを、拙い私の脳みそで追えるところまで臨む。という視点から、図書館という舞台を用意しました。
人類の英知の集積地が、どのように新しい技術と接続して人に及ぼすのか、技術を超えたところでどのように人の普遍性につながるのかをクライマックスの描写とし、SFらしいセンスオブワンダーとして表現したいと思いました。

文字数:347

課題提出者一覧