神は天にありて

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梗 概

神は天にありて

主人公は猿である。言葉は通じないが人間と交流している。

その集落は四方を山で囲まれた盆地の中にあり、山からの豊富な水源によって田畑を耕し、生けとし生けるもの全てに神を見出しながら暮らしている。猿は時折集落に顔を出しては気紛れに人を助ける為、そこそこ好意的に捉えられている。

猿が久方ぶりに山から下りると集落の子であるミニギがそろそろ祭であることを教えてくれる。

集落には『おいき様』と呼ばれる生き神がいる。5歳くらいの子供に神を降ろし、神の言葉を伝える代弁者の役割をさせるのだ。元々『おいき様』は村の権力者の子供が勤めていた。しかし先の戦に巻き込まれ、今は山向こうの土地の子供がその任を勤めている。伝統の変質を危惧した人や戸惑いを感じた人も少なくはなかったが、大半の人々は受け入れていた。おいき様に仕える神官の役は今まで通りであったこと、また『おいき様』の役を任じられたのが幼いながらに美しい少女であったからだろう。この神事は任についた時点から15歳頃になるまで高所に作られた社の中で神の依代として生きなければならない。そこから出られるのは集落の四方を固めるように置かれた社を巡り、祈りを捧げる祭事の時だけである。今回の祭は少女の任が解かれる最後の年である。

猿が集落をミニギと共に回っていると様子が常と違う。猿が来る度に果物を分けてくれる婆さんの姿が見えない。ミニギが婆さんは流行病で死んだのだと教えてくれる。集落では最近、不幸が多発しているという。石を神と毎朝拝んでいた老人は踊りながら死に、山に祈りを捧げていた若者は山に入ったままついに帰ってこなかった。

消えた人々は集落の中でも特に信仰心の篤い者たちだったため、残された者たちは神の意図はなんなのかと混乱し始める。するとそこに神官によって神託がおりる。『おいき様に宿る神こそ真の神。他は偽の神である』

祭事は粛々と進み、神輿に座るおいき様の笑みは慈愛に満ちている。おいき様への信仰を人々は強く感じるようになったが猿は違う。おいき様のその姿に並々ならぬ畏れを感じ、これを殺さねば人間は駄目になると確信する。それはミニギも同様のようだった。

猿は山に帰り、友人の蛇に話を聞きに行く。すると近年になって山の蛇どもが山向こうの人間たちに狩られ、その毒を石に塗り、祈った者を殺すところを見たという。この企みは山向こうの人間たちがこの集落を一つの実験台として、果てはもっと大きな土地を内部から破壊するための模擬訓練を行っているのではないだろうかという仮説を聞く。人間は信仰によって共同体を作る。『おいき様』という神はやがて山向こうの神と習合することになるだろう。

集落に戻るとそこでは幾つかの派閥ができていた。おいき様を敬愛し時に畏れ信仰する人々、おいき様こそ全ての邪悪だとする人々、そしてこの集落を見限り新たな土地へと旅立つ人々。ミニギは外に出るといい、猿もそれがいいと頷く。猿は真実の大半を理解していたが、言語が共通ではないので伝えられない。

グループのリーダーである男は山向こうの出身だというが数年前からこの土地に住み着いた善き人間である。見知らぬ土地に対する怯えをぬぐえない人々を「おそれるな」と勇気付ける。鼓舞を聞きながら、猿はミニギがいないことに気づく。

高台にある社に向かう途中、地震が起きる。どこかで火の手が上がり、煙が辺りを覆っている。高台に登ると案の定、ミニギはおいき様と呼ばれた少女と相対している。猿の目にはすでに少女に神の気配はなかったが、ミニギは畏れから恐慌状態に陥っており、猿が止める間もなく少女を殺してしまう。

文字数:1483

内容に関するアピール

神は人間を精神的に結ぶ標なのだろうと思っています。宗教によって結ばれる共同体。見姿や思考が異なる者たちが、それでも同じ時間を生きる隣人たちであると気付くための精神的繋がりを得る手段。

しかし人間は幸福も不幸も神のみわざにしたがる傾向にある。そういった思考から、自然全てに神を見出す集落の中に、起こる不幸の全てを退けてくれる唯一の『神様』が現れたら?を想定して梗概を作成しました。直前に諏訪大社に行く機会があり、そこの原始信仰があまりにも興味深かった為にネタとして使用しましたが正直SFの自信がなく、SFになるにはどうすればよかったかをご教授していただけると幸いです。

猿は山の神使もしくは猿田彦、ミニギは瓊瓊杵命、蛇はミシャクジ神から発想しました。グループのリーダーは実作を書いてみての判断になりますが、おいり様の実兄で妹を取り返しに来たが集団を助ける為に妹を犠牲にしました。「おそれるな」の言葉は申命記、モーゼが約束の地へ向かう際に神が仰せられた言葉から。おいり様は現時点では神というよりも神であろうと努力し、トランス状態に陥っていた少女という想定です。言葉を実際に発する神の姿が思い浮かばない為、おいり様が喋り出すときは彼女が人間に戻ったときです。

文字数:524

課題提出者一覧