ペーパー・プレーン

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梗 概

ペーパー・プレーン

直野愛音は嘘つきだ。北高丘小4年6組の生徒たちの間では、そう信じられている。彼女は家に宇宙人が来た話をした。彼女の家で宇宙人は、ゲームで遊んだり、折り紙を折ったり、塗り絵をしたというのだ。直野はいじめられる。
 
米国宇宙監視ネットワークは衛星軌道上のスペースデブリのいくつかが捕捉不可能であることに気付く。
 
休み時間、いじめられている直野に西島杏が話しかける。「ねえ、直野さんって宇宙人と遊んだことあるの?」
笑う。
「私ね、宇宙人とキスしたことある」
 
コロンビアのアマチュア天文家が自らの観測データをチェックすると、見えるべき星が見えない謎の時間があることに気付く。
 
西島はいとこの大学生と付き合ってる。彼との思い出、シルバークレイで作った紙飛行機のペンダント。
塾の帰りにこっそり会う。いじめられている直野の話。
「でもさ、杏はどうなわけ?」「え?」「お前も、クラスで浮いたりしてないかって。杏は大人だから」
「あたしは全然、平気」
嘘だ。
 
月の端が四角く欠けているのが世界中で目撃される。
 
クラスにいじめがあることに気付いた担任の中島映美は、直野が宇宙人の話をしていたことを知る。中島はかつて直野が宇宙の話に興味を持って、色々教えたことを思い出す。
スプートニク、ライカ犬、パイオニア計画、スカイラブ、スペースシャトル。
「先生、先生は私の話、信じてくれる?」
「ええ。もちろん」
直野がぼそりと呟く。「嘘つき」
 
NASAが地球上わずか十万キロを飛行する謎の物体の存在を発表する。その数、11。
 
直野が見せようと持ってきた「宇宙人の証拠」がいじめっ子に見つかる。
それは「エロい絵の彫刻」だった。
「え何、お前エロなの?」「西島と一緒だよね。西島って援交してんでしょ?」
西島は直野をかばうが、西島と一緒にされたくない直野は西島を露骨に避ける。
「西島さん、西島さんも嘘つきだよ。私が宇宙人と会ったのは本当だけど、西島さんのは、嘘だ」
西島は直野を金属バットで殴り、学校を飛び出す。
 
各国首脳による緊急会談が行われ、国連による地球外生命体へのメッセージが発表される。
 
西島はいとこの大学まで出向く。いつもの調子で甘えようとする西島に大学の同級生と一緒のいとこは本気で焦り、怒る。
西島は大学を飛び出す。
 
11枚の未確認飛行物体が、突如落下を始める。
 
幸いけがは大したことない。中島は直野を保健室で休ませる。
「直野さん、私は大人だから、宇宙人に会ったなんて、やっぱり信じられない。でもね、直野さんがそう思ってて、それがすごく大切なことだってのは分かる」
「先生」直野が 起き上がる。「そういうの、いいよ」
 
一片の長さが約300メートルにも及ぶ巨大な11枚の正方形の板。上空1500mで静止し、やがて動き出す。
 
中島は直野が持って来ていた「宇宙人の証拠」の「エロい絵」を見つける。
金属板に裸の男女と図形が描かれている。
パイオニア11号搭載の、地球外生命体へのメッセージ。
 
テレビに速報が入る。巨大な正方形は日本に向けて移動している。
到達予測地点は東京都。次々と情報が入る。
××区。
北高丘小学校。
 
人通りの途絶えた繁華街。テレビで西島はUFOを知る。
あの宇宙人は、直野が呼んだんだ。
そう思った西島はテレビを見ながら泣いてしまう。
何で、私の所には、宇宙人が来てくれないの?
あいつなんかより、私の方が、ずっと、ずっと、来て欲しいと思ってたのに。
何であいつなの?
 
11枚の巨大な正方形の板が、学校を取り囲む。
誰もいない校庭に、直野が姿を現す。
正面の三枚の黒い板が反応し、ゆっくりと形を変える。折れ曲がっていく。
紙飛行機の形になる。

文字数:1493

内容に関するアピール

宇宙人は存在します。

 
ジュブナイルとファースト・コンタクトの組み合わせで真っ先に私が思い浮かべるのはスティーブン・スピルバーグ監督の『E.T.』です。ですがあのラスト、E.T.とエリオットの感動的な別れ、その場面になぜぽっと出の母親や兄の友人が紛れ込んでいるのでしょうか? 幼少時の私は大きな違和感を覚えました。
孤独な者のファースト・コンタクトと言えばシオドア・スタージョン「孤独の円盤」がありますが、私がここで意図しているのはスケールがあまりにも不釣り合いなために孤独が孤独でなくなってしまう事態を描くこと、そしてそのような奇跡的なファースト・コンタクトが成立してしまうことによって傷ついてしまう心を描くことです。
コミュニケーションとは必ずしも心が通じ合うことではありません。人は不完全な妥協を抱えながら、それでもお互いの着地点を探るようにコミュニケーションを行っています。ですがもしここで、そのような前提を吹き飛ばしてしまうような身も蓋もない存在が現れたとしたら。
そのような者を前にして、なおも私たちは不完全さに、孤独に、耐えられるのでしょうか?
 
宇宙人は存在します。
ただし、あなたの前には現れません。
これがテーマです。

文字数:512

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