《リアリティについて》

作品プラン

《リアリティについて》

現代までの美術の始まりとしてギュスターブ・クールベが挙げられる。彼は当時の主流である神話の神々を扱った絵画や、皇帝などの当時の有力者を理想的に描く絵画ではなく、何一つ有名ではない農民や労働者をそのままの姿で神々や有力者とまるで同列かのように描いた。クールベが目指したものは1855年に発表した「レアリスム宣言」で記したように「生きた芸術」をつくることだった。彼にとってのリアリティは幻想や有力者の理想像などではなく、貧困や、労苦に耐えながら逞しく今を生きている名もない人々の姿にこそあったのだ。

今日においてクールベの表現は芸術において、とても大きな転換を与えている。なぜなら、クールベは芸術がただ人々の理想や、幻想の世界を描くものだったところから今を生きている現実、その時代においてのリアリティを描こうとしたからである。それはクールベ以降に現れた表現者たちに変わらずみられる思想であり、クールベがつくりあげたものでもある。

しかしながら現代までクールベが築き上げた表現者としての思想は得難いものとなってしまった。なぜならクールベが生きた時代と違い、今日では様々なリアリティが生まれているからだ。多くの人々の社会、政治、環境の変化や、情報社会の発展やSNSによって個人同士での様々なコミュニティの横断が可能になった。そしてとりわけネットという別の世界の出現によって顕著なように、個人個人が全く違うリアリティを見つけられ、クールベが見た厳しい現実の世界から人々は離れていっているからだ。

誰もが自分の居場所のようなものを手に入れられ、その居場所がある現実のようなものの中にリアリティを得ている。様々な進歩によってただひとつの厳しい現実のリアリティから一歩引き、自分たち一人一人が心地よい優しい嘘のリアリティを見つけ出すようになった。

生きた芸術として唯一だったリアリティは、今日では別のリアリティとして多くの人々が持つものとなった。そしてこの別のリアリティのまみれた世界では、クールベが求めた唯一のリアリティすらも別のリアリティとして存在する。

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