《老桜》ステートメント

作品プラン

《老桜》ステートメント

人が老いを自覚するのはいつだろうか。

視覚や聴覚の衰え、年令を重ねるごとに体力が減退する「身体的要因」
記憶力や気力の減退といった「精神的要因」
職業からの引退や家庭内の役割交代、子の独立、愛する人との死別など「社会・環境的要因」

老いとはこれらの要因に加え、その人の国籍や価値観、生活史などが複雑に重なり、自覚されていくものであろう。

今や、日本人の平均寿命は男性80.5年、女性86.83年となった。
65歳上の高齢者の割合が26%で世界最高の高齢社会であり、少子高齢社会である日本の人口構造はもはやピラミッド形ではなく、つぼ型となっている。

こうした構造は社会保障制度に大きな影響を与えている。平成24年には社会保障給付費の規模は約108.4兆円を超え、国の予算である一般会計90.3兆円を上回った。あまりにも巨額であり、社会的セーフネットの破綻も危惧される現状となっている。

ここで「老い」という言葉を耳にした時、目にした時、あなたはどんなイメージを思い浮かべるだろうか?
プラス(ポジティブ)なイメージを思い浮かべ得るだろうか?

老いとは誰にでも訪れるものである。
誰もがいずれ老い、そして死んでいく。
だがしかし、人生の総括として訪れる老いが、そうも暗く惨めなものでよいだろうか。

看護師として普段から高齢の患者と向き合う機会の多い私は、老いにマイナス(ネガティブ)なイメージを抱いていない。

誰もが老いるが、その個人差は極めて大きい。
そして、それぞれが持つ能力を最大限に活かして自立し、豊かな老後を過ごす人を、私は沢山知っているからだ。

成熟した老いを迎えるためにはどうしたらよいのか。
私達一人ひとりが「老い」と向き合い、老年期において青年期以来2度目となるアイデンティティの再確立をいかに図っていくか。これが豊かで幸せな老いを迎えるための鍵となるのではなかろうか。

作品は「老い」のモチーフを散りばめた屏風の前に、私が想う『高砂』のイメージをスノードームで表現した、積極的な老いの肯定である。
「年を取るのも悪くない」
そんなことを感じてもらえたら…と望んでいる。

参考文献:2015/2016年「国民衛生の動向」

 

 

03_渡辺由佳_老桜

文字数:896

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