茜と遙香の最も暑い夏

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梗 概

茜と遙香の最も暑い夏

 2025年、世界的企業の変人CEOが何を思ったか、『第二のボイジャー計画』(以下『V2』)的な太陽系外探査計画を敢行。『V2』探査機には、異星人へのメッセージと世界中の映画、ドラマ、コミックを数十万単位で記録したディスクが搭載されていた。
 件のCEOは有名なギークでもあったのだ。

 2045年、CEOが病死。後を追うように企業も倒産。『V2』の資料は散逸し、計画自体も忘却された。

 2180年。「クラル人」を名乗る異星人の宇宙船が、地球を来訪。初の異星生命体との接触に沸く人類。クラル人は地球の言語を完全に解していた。何故なら、クラル人は深宇宙で遭遇した『V2』探査機を回収し、母星に持ち帰っていたから。『V2』探査機で知った地球のエンタメに、はまるクラル人。
 中でも3人の青年が、希代の音楽家が遺したミュージカルの主演の座を巡って争うコミック『暁のステージ』に、熱狂するも、ディスクには『暁~』の最終回が入っておらず。彼らは『続き』を求め、遙々、地球へ。

『暁~』は2015年に描かれた回が最後で、未完のまま、作者は逝去していた。

 人類は最新の超生成AIに描かせた『続き』を何十パターンか、クラル人に渡すも「偽物」「魂が籠もっていない」と却下される。「人間の描いた『続き』を読みたい」と要求するクラル人。しかしこの時代、超常的な発展を遂げた生成AIが普及しており、商業メディアから人間の作家は一掃。完全なデジタル時代に、なお紙の同人誌に拘る、ごく少数の同人作家たちもいた。全盛期の数千分の一の規模に縮小したコミケ会場から、国連軍に拘束&軟禁され、『暁~』の続きを描くよう強要される彼ら。
 無理難題に、筆を折る者、燃え尽きる者、脱落者が続出。

 最後に残ったのは、八城茜と末永遙香の二人の少女。奇しくも共に17歳で、実は二人とも『能力者』だった。 
 茜は、膨大な『暁~』の生原稿に直に触れ、過去視能力で、作者の想いをたぐり寄せる。
 遙香は、作者の郷里料理を取り寄せ、読んだと思われる書籍、作者のブログなどを読み込む。超絶的なプロファイリング能力で、作者に成りきり、『暁~』の最終回を模索する。

 ~茜と遙香が到達した結論は、作者は『行き当たりばったりで、結末を考えてなかった』 

 軟禁から解放されたかった二人は画策し、共作で『暁~』の結末を描き上げる。幻のミュージカルの主演は、3人の青年の誰か一人が務めるのではなく『トリプルキャスト』という玉虫色な結末で。確かに、超生成AIはこの結末は描いてない。「こんなオチでいいの?」と首を傾げる地球側だが、最終回を渡したクラル人は、何故だか感動し、母星に持ち帰ると旅立つ。

 軟禁から解放され、地球軌道を離れていくクラル宇宙船を、地上から見つめる茜と遙香。何年か、または何十年か後に、クラル人が再来し「パート2を描け」などと迫ってこないことを祈りながら。

文字数:1195

内容に関するアピール

 ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』シリーズやガーンズバックの『ラルフ124C41+』の児童向け翻訳『27世紀の発明王』に、かつて心躍らせた少年としては、「ヒーローが宇宙を冒険!」「多彩な科学的ガジェットの登場!」「脳天気なまでの科学技術万能主義!」な作品を今回、書くつもりでしたが、力足らず。結局、何かおかしな方向の作品に。
「日本の数十年前のロボットアニメ『ボルテスV』が、フィリピンで大ヒットし、実写化されて日本へ凱旋」「『ガラスの仮面』がネットで無料公開されて、新たなファンを生み出した」なんて、最近のニュースに明らかに安易な影響を受けてますね、これは(苦笑)
 とはいえ「現実を加工し、エンタメに落とし込む」のも、SFの作劇法の一つだと思いますので、これはこれでありなんじゃないかと。色々と不備もあり、お粗末な限りですが、反省し、次回に活かします。これから一年よろしくお願いします。

文字数:397

課題提出者一覧