梗 概
山怪に相対す
徹也の祖父は若い頃猟師だったという。辺りの猟場の奥には怪が出ると言い伝えられていた。よくある言い伝えだが、祖父は実際に遭遇した。ある時、祖父が一人の仲間と山中で休んでいると、奇妙な声が聞こえたそうだ。目を閉じて頭を抱えていると怪は去ったが、仲間は死んでいた。仲間の悲鳴は恐ろしいものを見たものだったようだ。以来徹也の祖父は山を下りた。父も地元で勤め人になった。徹也は進学を機に都会に出てそこで就職したが怪の話が心の奥に残っていた。祖父から山を奪った原因だと。そのせいか地元を離れても山に関わっていた。猟友会に入り、都会に近い山地の猟隊にも所属した。そんな折、祖父が死んだ。脳溢血による、入院生活もない死だった。葬儀の後、徹也は郷里に帰って暮らすべきだと感じた。大学まで出してくれた恩を返していないし、猟だって地元の山でしたい。だが山には怪がいる。進学する前は一人で故郷の山を歩き回った。その時に祖父が怪と遭った場所を見つけ、そして怪に遭遇していた。声と、襤褸を重ねたような足先を見た。とっさに目を閉じ伏せると怪は去ったが、その時の恐怖が残っている。側で友を殺され山を去った祖父の無念も心にある。自分の恐怖と祖父の無念。それらを動機に、怪を倒そうと考える。
徹也は今いる猟隊の頭に、故郷に戻るため除隊の挨拶に行く。その折に怪に挑む話を口にした。頭は興が乗ったらしく、送別会に山の怪に詳しい人を呼んだ。その中に秋本という名の大学教員の男がいた。秋本は徹也の話に興味を示し協力を申し出た。徹也は断りたかったが、具体策がないことを指摘されて協力を受けることに。故郷の古い猟師らに改めて話を聞いたが、怪を見なかったため助かった話が多かった。徹也自身もそうだ。怪は正体不明で目視が危ない。罠も銃も許可は都道府県毎のため使えない。どうするのかと秋本に問われ、徹也は目隠しで祖父の山刀を振るうと答える。その無策さに反対する秋本には考えがあった。
地元には目的を隠し徹也たちは山に入った。空振りも覚悟のテストのつもりだ。祖父が怪と遭った場所は少し開けた場所だった。秋本は大量の機材を持ち込み、場所を囲む形で光学、赤外線式併用の動体センサを設置した。徹也はバイザー式ディスプレイを付けさせられる。衛星通信で大学のワークステーションと結び、センサのデータから再現したモデルを表示する。カメラ映像を直接表示する形は簡単だが徹也が拒否した。センサのテスト前に怪が現れる。徹也のバイザーには迫る何者かのフレーム映像が映る。応戦する徹也。一進一退の中、秋本は怪を直視する。目にしたのは化け物ではなく襤褸をまとった異常な人の如き者だった。怪は秋本の視線に反応したが、その隙に徹也の山刀に捉えられる。怪は去り、後には大量の血が残った。怪が熊より弱い、実体があると知って徹也は満足したが、秋本は血のサンプルを取り、怪の来歴を考察する。
文字数:1200
内容に関するアピール
最初からガチガチのサイエンス的なものに挑むと心理的な方向付けが強化されそうな気がして、変則的な物語にしてしまいました。
現代が前近代の山と交差し、対決する話です。
「令和の益荒男VS山の怪」にご期待ください。
あと梗概に書ききれませんでしたが、山刀はナガサと呼ばれるタイプで、主人公の祖父の形見です。
秋本の考察では、実はソニー・ビーンの一族的なものか姥捨ての子孫かみたいなことが挙げられる予定です。
文字数:200