返答腺が腫れた

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梗 概

返答腺が腫れた

友栄党党首千田川直美は街宣車を駆け下り、まばらな拍手を背に岐阜駅名鉄名古屋本線のホームに駆け込んだ。次は名古屋駅で応援演説。
2035年統一地方選で友栄党は苦戦中。LLMのせいだ。現代の選挙戦はAIを活用していかに有権者の意見を効率よく集計しリアルタイムに感じのいい回答をするかの勝負だ。つまりAIにお金をかけた政党が勝つ。特に地域ごとのチューニングに莫大なお金がかかるため、資金力のある大政党ほど地方選に強いという現象が起こっていた。
千田川直美は地方の討論会に出席するたび悔しい思いをする。国内最大政党である国和党陣営はどんな質問にも地域に合わせた巧みな答えを即座に返すからだ。

岐阜県の中学一年生の堀皇輝は悩んでいた。留紫亜になんと謝ればいいのか。二人は幼少期からの親友だった。小学校の卒業式、皇輝はほんの冗談で、名古屋の女子中学に進む留紫亜に「お前は俺たちを見捨てて行くんだもんな」と言ったら留紫亜に顔面を蹴られそれ以来没交渉。そろそろ一年経つ。皇輝の家は貧しく高価なLLMをサブスクする余裕がない。ChatGPT無料プランでは上手い言葉が見つからない。

名古屋本線が強風のため運休(本当によく止まる💢)。ホームで途方に暮れる千田川らを見かねた皇輝は犬山線から迂回する方法を教える。暇だからついていってあげることに。
電車内二人の会話。皇輝は千田川の頬に埋め込まれたデバイスについて知る。外部サーバーにあるLLMの声が骨伝導で聞こえる、政治家の必須ツールだと。高性能なLLMを使える身分を羨ましく思う皇輝。「そのAIに留紫亜への謝り方を聞いてくれ」とねだるが「それは自分で考えなさい」と千田川。そこで皇輝は取引を持ちかける。

南美濃市中学校生徒会連盟主催タウンミーティング(MTM)と南美濃市長選討論会が同日に行われる。MTMには国和党の大物議員が来る。MTMは非公開。皇輝はMTMに潜入。討論会での友栄党候補に対する質問を、MTMで国和党議員に答えさせるというスキームで、討論会において友栄党候補が優位に。なお横槍が入らぬよう「控え室です」と言って国和党スタッフらを理科準備室(電波暗室)に閉じ込めておいた。事態を察した国和党議員は「その質問は〇〇問題における友栄党の責任を挙げよという意味ですね」などと質問を捻じ曲げるプロンプトハックで対抗。

一方、一年生から生徒会役員に入っていた留紫亜はMTMを邪魔され怒り心頭。国和党スタッフを解放すべく理科準備室へ。ばったり皇輝と会い口論に。だが準備室に入った途端LLMが繋がらなくなり、うまく言い返せなくなる。「お前の本当の言葉を聞かせろ」と怒る皇輝をつい殴り飛ばしてしまう。戻ってきた国和党議員が止めに入ると、邪魔するなとその頬に肘打ち。議員の骨伝導デバイス破損。
「ずっと友達に決まってるでしょ」。留紫亜は皇輝を踏みつけて出ていった。

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内容に関するアピール

僕にとってのSFといえば『電脳コイル』や『涼宮ハルヒの憂鬱』です。

最近読んだ『アリアドネの声』と『サーキット・スイッチャー』が面白かったので、この作品では社会派路線から攻めてみました。

AIは雑多な文章から意味を抽出することが得意なので、今後政治家の聞く力がもっと伸びるかもしれません。そこまではいいことだと思います。ところが、そのAIを作るのに膨大なお金がかかるとすれば、資金力のある政党がひたすら勢力を伸ばし続ける気がします。その舞台装置として地域ごとの最適化にはお金がかかるという設定を導入しました。
さらに、高額なLLMを使える子ほど当意即妙なトークで人気者になれるという学校世界を交わらせます。

そんな世界で、AI難民たちの抵抗を描きます。

文字数:322

課題提出者一覧