梗 概
ダイソンの作陶
二千年を経ても完成しないダイソンリング。千年前、フタシゲは建築事業に志願した。退職してからも故郷の天王星圏には戻ってない。居住者がほぼいないここで、作陶している。人格をメモリに移して乗り換えた八代目のこの肉体も老いてきた。生身は高価だが、これまでは恩給で賄えていた。今日も窯に火を入れる。
仲買人のジルダが久しぶりに現れる。出来上がった大半はフタシゲには価値が無い。なのでこの拝金主義者に引き取らせている。最初に会った時は土を探している最中に事故で死んだらしい、新しい肉体とバックアップの記憶でよみがえった。良い土は見つからないし、数カ月分の記憶は飛ぶし散々だった。
彼の情報で、エネルギー効率低下を理由に行政AIは一部区画の掃除を検討していると知る。リング上のゴミである土を使っているのだ。慌てて向かう。
土を探しながら思い出す。窯元に生まれた。内面が語り掛けてくる美と向かい合うことが作陶の本質であると考えていた。
父は多くの人の心を打つことが大事であり、社会に評価され、大勢を魅了する美を主張した。その背景に拝金主義を読み取り対立した。ベーシックインカムがあると言うのに、だからこそ金儲けとしてしか成り立たないと言う。若かった。その説得に陶芸自体を投げ捨てた。
新たに生の意味を求めリングの建築に従事した。美ではないが、職務に対する誠実さと向かい合えるように思えた。だが二百年で飽きた。退職後、脱法的にリングに居座ると、作陶に向く土があることを知る。窯もジャンクから作ることができた。地代も不要である。ここでは作陶はビジネスではない。存分に自分と向かい合うことができる。
対象の区画で最高の土を発見する。運べる限りを持ち帰り、ジルダを呼び寄せ手伝わせる。戻ると掃除が始まっている。運搬していく先をつけていく。行政ロボット達が廃棄用カーゴに載せている。
太陽に投棄するのだ。リングの外側に集積しており、ロボットは粛々と作業する。交渉の余地がない。昔の管理権限を利用して略取する。作陶に十分な土を得る。
しかし突如ジルダが裏切り銃を向ける。フタシゲがいた窯元の後継者が同じ土に高い金を出す、別のビジネスの種銭として独占したいと言う。迫るなんとかジルダを倒す。バックアップから蘇生し何年か後ヘラヘラと顔を見せるハズだ。
作陶の中、いまや着替えた別人の内なる声を聞いているのに気づく。それはつまり、他人の感性を取り込んで、多くの人間が美しいと感じる美を追求しているのと同じだ。気にも留めてなかったが、父は代を重ねて陶の道を連ねていくには金が要ると言ってたのではなかったか。
結局、自分も彼らと同じ山を登っており、そこに優劣はない。次にジルダが来たら、故郷に連れて帰らせよう。自らを陶冶する道は長い。リングの完成とどちらが早いだろう。そう自嘲する。
文字数:1174
内容に関するアピール
遥か未来の太陽系。ダイソン・リングで作陶する男。長い時間をかけて、テクノロジーと芸術が交差する中で、彼が探究する生の意味について扱ってみました。遠い未来を舞台に、SFガジェットによる補助線。それらを背景に個人の人生における真摯な問いかけと、一見純粋さを欠く様に見える社会の有り様の対立が、主人公の中で解消する話になっていれば、わたし基準では「これがSF」といえる事にしていいかなと思いました。
そうは書きかましたが、実際は「ダイソン球で陶芸やったら面白いんじゃない?」という所からスタートしてます。詰めていくと、あら不思議。テーマが立ち上がる。長谷敏司先生のお話をYoutubeで拝聴しまして、「ああ、これで良かったんだ」ってな具合です。
まだ文字数に余白あるので余談。最近あるチェーン店のモカ・イルガチェフェにハマって、頻繁に飲んでいます。日によって味の振れ幅があるのも楽しみ。
文字数:392
ダイソンの作陶
1
二千年経ても完成しないダイソン・リング。第一天文距離に置かれている。だから、ワシに見える太陽は、かつての地球圏からのソレと距離的には変わらないはずだ。もちろん大気が無いので、地表からの光景とは大きく異なるだろう。
出来上がっているのは弓形の巨大構造物である。断面は楕円形。幅500キロ、厚さ200キロ。長さは実に2億4千万キロに及ぶ。
未完成ながら、かつて物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した理念を実現すべく、太陽が放出する大量のエネルギーを最大限に人類が使える形に変換している。
絶えず日の光を受けている太陽面にワシは立っている。そこに敷き詰められた量子ソーラーパネル。素材であるグラフェンの黒色が平原となっていた。
エネルギーの吸収効率が優先されており、反射は極端に抑えられている。なので視認性が劇悪である。いつも遠方の星々が輪郭を浮かび上がらせてくれる訳じゃない。赤外線とレーザー対物測定センサーの情報を視界に合成し外界を把握する。光は高効率にエネルギーに変換されるため、太陽面の温度は想像するほど上昇しない。
盗電しているパネルを一枚ずつ周り、整備口を開く。診断ランプのグリーンを目視する。他にも宇宙を漂うゴミ、多くは地球だったデブリが付着することがある。衝突してこびり付く。微弱な重力に引かれ接してそのままとなる。など理由は様々だ。時には何トンもの岩や土がへばりつく。こういうモノを放置すれば発電量も弱まる。そういった場合、管理庁が対応するまで、異なるパネルから引きこみ直すこともある。
エアロックを通って内部に入る。住居とさだめ、長年にわたり不当に占拠しているエリアに戻る。一歩入ると床の発生させる人工重力に引き付けられた。さらに狭い通路を進むと開けた空間がある。ワシは中庭と呼んでいる。
薄青い天井からさわやかな光がさす。故郷を思い出す。遠く離れ太陽の恵みに乏しく、その光を取り込むことが期待できない。密閉型コロニーが主流の天王星圏ではよく使われていた色彩である。
その他は床も、壁もリングの内部では一般的なくすんだ金属材だ。幾つかの開口部があり、それぞれ目的の違う空間に繋がっている。
宇宙服を脱いで、納屋呼ばわりしている部屋に投げ込んだ。行政AIは人類の基本的人権を保護するため、ワシにベーシック・インカムと恩給を与える。加えて、中庭の端にある自動販売機。ボタンを押すと、ワシのうなじに埋め込まれた〈人格メモリ〉をスキャンする。それで支払いが済んで棒状のレーションが吐き出される。
この辺りは、5日歩いても、他に誰も住んでいない。だが食料を供給するために、こんなものまで設置する。ご苦労なことだ。封を切って、食いながら、成形室に向かい、ろくろ場に腰を下ろす。
土が両手の中でまわる。僅かに残る、ざらつきが滑らかになって、しっとりと絡みついてくる。そうすると先ほどよりも、その冷ややかな温度が伝わり出す。
張り付かないように、左右の指を沿わせる。器になろうと手の中で悶える土を立ち上げて行く。ここから聴くべきは自分の内面。内なる聲(こえ)である。
何を引き出したいのか。どんな出来上がりをイメージしているのか。はたまた、何を叩きつけたいのか。回る土を感じた体が語り掛けてくるものに耳を澄ます。ここでどれだけ内なる美を器に宿らせることができるかが勝負である。本質が決する。先々の良し悪しはここで見える。もちろん焼成を経て、化けるモノなのだが、基礎がダメなものは結局ダメで伸びない。
「フタシゲ、お前は土に耳を傾けすぎる。読むだけで良い。自分の内面の聲(こえ)をもっと聴け」
祖父に言われたのは、ここに来る前。すでに千年以上の昔である。あの日、教えを翻しワシにそう強く釘を刺した。忘れもしない。隠居していた奥座敷の八畳間。黒檀の座敷机に無造作に茶碗を戻しながらである。神妙な面持ち。口角の少しあがった笑み。それはいつもと変わらないように見えた。ろくろを回していると稀に頭に浮かぶ。
在りし日の記憶を脇に置き、器となったソレを台から切り離して持ち上げる。その時、ろくろ場の戸口に見慣れぬ男がいるのに気付いた。ここを訪れるモノはまずいない。なのだが、黒髪に黄色とオレンジのつなぎ。細身で手足が長い。腰には金飾りが入った最新のレーザー銃。色彩センスの悪さと〈カラダ〉の趣味に覚えがある。似合わぬ上品な顔つきだ。だが下卑た性根からでるモノも変わらない。基礎がダメなものは結局ダメで伸びない。
「ジルダか。10年ぶりだな。また〈カラダ〉を変えたのか」
「最近じゃ、30年も経てば着替えるのは普通ですぜ。ダンナは小汚くなって来ましたな。ヒゲぐらい剃られては」
「前の持ち主が長期人格収容刑になってワシに払い下げられたのが20代。それから延命を繰り返して100年ぐらいだからな、年季も入る。それにコレは伸ばしているんだ」
今のところ恩給のおかげで賄えていた。だが生身は正直、値が張る。
「〈カラダ〉の記憶はデリートされ再利用される。〈人格メモリ〉は長期保存され、出て来た時は無一文。味気ない機械の義体だ。ぞっとしないですな」
そういって笑う。ゴロツキ紛いの仲買人が相変わらずの調子の乗りようである。ワシは器を棚の空いている場所に慎重に置く。
そしてふと思い返す。新しい〈人格メモリ〉に書き込まれ、リングの蘇生室から帰った。あの日、ジルダはワシの住居を物色していた。危ぶんで当時のコイツの〈カラダ〉を殺したハズだ。
「馬鹿ヤロウ。あの時は、お前も居ただろう。なに言ってやがる」
「そーいえば、あんときは、ダンナの電子端末で〈カラダ〉なしに、〈人格メモリ〉だけで再生されて詰問されましたな」
「蘇生されて記憶が飛んだ直後だった。何しろ相手がお前では、慎重にもなる」
破顔して、へらへらと、おどけている。何がそんなにおかしいのか。あきれる。死亡が承認されバックアップからの蘇生が許可されるのに半年かかった。保存をさぼっていた分と合わせて、2年分の記憶が飛んだ。狙っていた土はリング管理庁のAIに掃除され、無くなっていた。最悪だった。
事実上無法地帯なので、この〈カラダ〉の持ち主も、リングに住んでいれば罪に問われていない可能性はある。
「そういえば後から気づいたんだが、当時タダトモの記憶も半年ごっそり消えていてな」
言いかけるワシを遮って、ジルダが聞く。
「そういや、ダンナは〈カラダ〉は何回乗り換えられたんですか」
ひーふーみ、と数え、そういえば8体目だなと思った。だが教えてやる道理もない。なので、ねめつけて問う。
「それで用向きはなんだ」
「ツレないことを言わんでくださいダンナ。いつもの品を持って来たんですよ」
持って回った言い方をする。とぼけた会話である。回りくどいのは好きではない。開口部に向かうと、塞いでいたのを察して端による。
中庭に出ると、さっきまでは無かった、重力制御推進の宇宙用トラックが停車している。無警戒な様子のロボットが三体、周りに棒立ちしていた。目鼻の無い、のっぺり、つるりとした顔をぶら下げている。しかも、贅沢にもジルダと揃いの黄色とオレンジのつなぎ姿である。制服か何かのつもりだろうか。しゃらくさい。納屋に寝かしてあるタダトモと比べると真新しく小ぎれいでもある。
その背後では、天井パネルの一つがノイズと共に明滅している。つい舌打ちをした。
隣の開口部に入る。設置してある窯。その中の各部の温度を示すモニタをチェックした。まだ十分に冷えてはいない。この部屋は資材置き場と完成品の保管室に通じている。ジルダがしまりのない顔でついてきて勝手にその二つを覗き込む。
「なに勝手なことしてやがる」
声を荒げる。だが、まったく頓着しない様子だ。
「置き場は変わってない様子ですな。じゃあ、いつも通り運び込ませますぜ。頼まれた消耗品に加え、火星圏の藁でトラックを一杯にしてきたんでね」
「いつも、その程度で、恩着せがましく言いやがって。お前の目当ては、ワシの廃棄品だろうが」
吐き捨てながら。つい、また窯の温度を見る。
「持って帰りやしょうか?」
「せっかく持って来たんだ。置いていけ。いまさら、宇宙に投棄するのも手間なんだろうが」
それを聞いたジルダは外にいるロボットどもに合図をした。そいつらが資材置き場に運び込む脇を、保管室に浮足立って入っていく。リングでも窯の中で緩衝材に仕えるゴミは見つかる。だが、100年ぐらい凝っている緋襷(ひだすき)。砂色の器に赤色が流れるように踊る美しい窯変。コンピュータのよる火の管理でかなり狙った模様が出せる。なのだが、これを作るのにそもそも巻きつける藁がいるのだ。腹立たしい限りである。
「じゃあ、拝ましてもらいますよ」
出来上がって仕舞えば、大半のモノはワシには価値がない。なので、この拝金主義者に引き取らせている。あまつさえ、打ちこわして捨てずに残してさえある。だが顔を見ているだけで何故かカンに触る。それを知ってか知らずか。むしろ、だからなのか。代金代わりに、様々なものを用立ててはくれる。それが実はシャクに障る。
「藁だけじゃなんだから、帰りぎわに天井パネルを用立てて立ち寄りますぜ」
保管室から出て来たジルダは上機嫌にそう言う。こいつは太陽系外惑星で商売をしているが、何年かに一度、この辺鄙な場所まで顔を見せる。リング上には他にも商売相手がいるらしい。
「まかせる」
「いつも通り、手前の棚の作品は処分させてもらいますね」
「かまわん。持って行け、それは廃棄品だ」
どこから用立てたのか、適当なサイズの木箱を持ち込んで、ジルダ自身が丁寧に詰め込む。
ロボット台車に5つ6つ積む。ワシは目を離さないようにしながら丸椅子に腰をおろす。台車が自走してトラックの近くに置きに行っては戻る。ジルダはそいつにまた木箱を乗せる。
「ダンナ、いつもの礼といっちゃなんですがね。SHP13番区画から27番区画の太陽面」
言いかけて黙る。顔色をうかがってから。あらぬ方向を見て続けた。
「管理庁のAIは近々掃除を検討しているらしいですよ。エネルギー効率の低下が理由のようですな」
つい唇をかむ。最後の廃棄品を乗せた台車が出ていった。
「なんで、お前がそんなことを知っている」
「いや倉庫を拝見したとき、寝かせている土の量が減って来てるなと。それでお急ぎになったほうがいいかと思いましてね」
質問に答えない上に、こっちを見透かすような真似をする。
「それじゃダンナ。失礼しますよ。人手がいる時は呼んでください」
ワシが憤りを抑えていると、咎める前にジルダは中庭へ出ていく。腹立たしいが、気持ちは急く。あそこのは良質で、なんども採土しに行っている。すぐ様どうということはなかろうと自分をなだめる。ワシが納屋に入ると、トラックが中庭から出ていく音が聞こえた。
念のため、忘れずに納屋にある専用の端末で〈人格メモリ〉のバックアップを取る。これで、死んでも必要な額が自動で引き落とされ、リングに幾つかある蘇生室で目を覚ます。本来は建築事業従事者のための設備である。
土探しの行く準備も整えた。宇宙服を着こみ、二つあるリュックの一つを背負う。それから、床に寝かせてある、タダトモのスイッチを入れる。ジルダのヤツと目鼻の無いのっぺり、つるりとした面立ちは同じだ。ただワシが油性ペンで顔を描いてある。
ダイソン・リング上で、管理庁のAIが統率しているロボットの余剰部品をくすねたり、廃棄されたジャンクをレストアして組み立てある。そのため見分けが付かなかったための対応である。確かに、こうしてみると愛嬌がある。
仰向けで床に倒れている。だがコードは繋いだままだ。充電はされているだろう。ちょっと待つと、左右をゆっくり見る。それから両手を床について、上半身を起こす。
「フタシゲ様、おはようございます。内蔵の時計が正しければ半年ぶりですか?」
「そうだ。無駄口は叩くな、ホレ」
リュックを顎で指す。
「承知です。土探しと理解しました」
タダトモは立ち上がって、リュックを手に取る。横目に、蘇生室で以前くすねた、未使用の〈人格メモリ〉が目に留まる。六角形のコイン状の物体で、直径7センチ程である。
棚から取ってポケットにねじ込んだ。本来なら、正規の認証装置でなければ書き込み出来ない。だが、プロテクトを破ればいろいろ、使いようがある。暇な時これをイジるのは、実用を兼ねた、やりがいのある娯楽なのであった。
次に、中庭の自販機に向かった。往復に必要なレーションを購入して詰め込む。複数ある味の中に新作が混じっていた。それも買う。そして外へ続く開口部へと向かった。
2
ワシの住居は、盗電しやすいように太陽面近くにある。だが交通網はもう少し内部になる。
リングはニーヴンの愛称で呼ばれる建築用の巨大重機で延伸される。その固定に使った円筒の空洞が複数、全体を貫いている。だが、中心部のメイン・シャフトまで降りる必要はない。サブや補助の小径のモノがある。
目指すのは現在、ロボットや資材運搬に利用されるリニアの線路になっているヤツだ。住居に一番近いエレベータに向かう通路に入る。重力がなく、薄明りの中、ムービング・グリップをつかむ。握りこむと、壁に付けられたレールを進み始め、つかんでいる人間をけん引する。1キロ程度の通路を三つ通り抜ける。HRS402319番。大き目の重機の搬入出可能なサイズのエレベータホールである。近くてよく使うので長いが覚えてられる。顎をしゃくる。
「はい、フタシゲ様」
タダトモは返事をしてパネルを操作する。作業ロボットの共通部品が認証をクリアする。30分待って、到着した籠は金属の網でおおわれている。乗り込んで、慣性で流されぬようブーツのマグネットを入れる。壁面が流れだす。リングの内部へ下っていく。相変わらずの怖い速度。加速していく。
10キロほど地下。エレベータを降りる。そこから、また少し移動した。線路を挟んで分かれた相対式ホーム。補助シャフトを通る資材運搬用のリニア用だ。かつての地球の公転方向が上りである。
「次の下り列車は?」
「1時間後でございます」
タダトモはリング内のロボット用の情報インフラに無線でアクセスして答えた。三日に一本止まれば良いようなダイヤである。今日の列車に間に合ったのは幸いだった。無重力のホームで胡坐を組んで、ジルダの思惑を思い測る。まあ、利害関係を前提にした善意なのだろうと。頭を振る。
リニアが滑り込んで来る。停車すると、のっぺり顔ども。作業ロボットが降りて来る。貨物車の扉を開けて荷降ろしを始める。
ワシらは、そいつらが降りて来た車両に乗り込む。
ネットで作られたほぼ垂直に立ったハンモックがシートだ。人間用ではないケーブル類を脇にどけてベルトで固定する。タダトモも倣う。顔が書いてあり、他のロボットと区別できる。目的とする駅には、まる一日はかかるだろう。リニアには窓が無い。だが滑り出す加速は感じる。
手持ち無沙汰なので、持ってきた未使用の〈人格メモリ〉を端末につなげてイジり始めた。
暗いトンネルを進む中。いつの間にか眠り、若いころの夢を見ていた。祖父の葬儀が済んで半年頃。父と言い争いをしたあの日である。
「これじゃダメだな。難しい」
成形室の棚に並べた作品を見て父は呟いた。
「十分焼けますよ。うちの大型窯の制御に必要なパラメータもかなり練りこめています」
「技術的な話ではない。お前がやっているのは、一握りの人間の為の美だ。これではダメだ」
「何がいけません。作陶の本質は内なる美の発見と追及のハズです」
「芸術とは遍く多くの人間の心を打つものでなければならん。分かるものの為だけの美では、社会的に高い評価は得られない」
作務衣姿が遠く感じられる。その時、はじめて父との埋まらぬ溝を感じた。
「先代は、自分の内面の聲(こえ)を聴けと厳命されました。亡くなる直前には、その出来に感心してくださっていたぐらいで」
言いよどむのを父は遮る。
「フタシゲ。長い間、目をかけてやれず済まなかったな。悪いが父の考えは違う。理解する才に恵まれた、一部の特権階級のモノであってはならんのだ。大勢を魅了する美を求めろ」
その思想は到底受け入れられないものだ。
「内面が語り掛けてくる美と向かい合うことが作陶の本質です。それを捨てよと言うのですか。それに父上は世間を馬鹿にしていませんか」
「もっと楽な作陶をしろ。先を行き過ぎても報われん」
「お言葉ですが、それは怠惰な拝金主義にしか見えません。今は行政も労働も、ほぼAIにとって代わられ、働く必要はない。ベーシック・インカムだってある。もっと作陶の本質を突き詰めたいし、それは可能だ。窯元であればこそ絶えずさらなる美を追及すべきです」
「だめだ。ヤツミネ家を継ぐ者は、そんなに視野が狭くては困る」
父に数日の作陶の謹慎を言いつけられた。この後も何度も言い争った。「ベーシック・インカムがあるからこそ金儲けとしてしか成り立たない」とまで言う主張が受け入れられず。出奔、つまり作陶も家も、かなぐり捨てたのだった。ゆめうつつで、我ながら若かったと嘆息が漏れた。そこをタダトモに揺り起こされた。
リニアが減速し、ゆっくりと止まる。自動で扉が開き、SHP17区画のホームへと降り立つ。ブーツのマグネットを入れた。近くの資材置き場を物色する。組み立て式の小型コンテナを三つ。くすねてタダトモに持たせる。エレベータ番号も思い出させて先に歩かせた。
籠がおりてくるまで今回は20分で済んだ。太陽面側の表層部まで上がり、エアロックから外に出た。一面に広がる量子ソーラーパネル。
へばりついているゴミの多くは岩や土くれだ。記憶を頼りにするには、心もとない情景である。タダトモのガイドに従い、目的地周辺に到着する。
「視界に以前に打ち込んだ、発信機の位置を表示してくれ」
「はいフタシゲ様」
ヘルメット内部のマイクと無線で会話し、ワシのバイザーに地図を表示させる。巨大な丘を成した土の塊にたどり着く。量子ソーラーパネルと違い降り注ぐ陽射しで視認できる。
発信機付近の土を採取して、背負ってきた荷物の中から成分分析器を取り出す。サンプルケースに入れて組成を確認した。前回同様の良質さである。
持ってきた小型コンテナを組み立て、タダトモと一緒に、スコップで詰め込めるだけ詰める。長年真空にさらされて乾燥しており、粘り気には乏しい。この後、年単位で寝かして仕上げる。実際ここの土で焼いた作品の出来を思い出すといい気分だ。トラックを調達したくなり、ジルダの顔が浮かんだ。
これで暫くは大丈夫だろう。残りは諦めるか、いやしかし。思い返す。長年の性分で、丘を一回り見て回る。途中で「内面の聲(こえ)をもっと聴け」と言う祖父の言葉が頭をよぎる。なんでこんな時に。だが、察するところがある。目の前の土を掘り返す。変わったことはない。いやまて、更に何度かスコップを振るう。明らかに土の質が違って見える。左右に掘り広げる。かなりの層になっていそうだ。
成分分析器で確認して驚く。手の上においてマジマジと見て、さすり、摘まんでみる。ここ百年、ひょっとしたらリングに住み着いてから、こっちお目にかかったことがないぐらいの奇跡的な土だ。これで作った作陶土はどれだけ、想いに答えてくれるだろうか。興奮を禁じ得ない。
タダトモを呼び、スキャナで層の奥行を測定させる。その結果をバイザーに映して舞い上がる。つい口にでる。
「この先、数年は使える量じゃないか」
とりあえず、三つのコンテナを新しく発見した土に入れ替える。エアロックの中まで運び込んだ。通路の途中。脇道の奥に使われていない空間に拠点を設ける。十五分ほどかけてタダトモにハッキングさせ、重力床も起動した。
荷物を整理し床に座る。体を休めながら、気の進まない思いつきについて考える。シャクに障るので、一度もこちらから呼び出したことはない。なのだが、リング上にいるなら、連絡のしようはある。以前作った、通話用アカウントが生きているハズだ。自分の端末を取り出す。機能を立ち上げて、メッセージを打ち込む。タダトモに思い出させたので待ち合わせ場所をSHP173588番と正確に書けた。
その夜、寝袋に入った後も眼が冴えて仕方ない。つい、千年前を、若い頃を思い返した。リニアで見た夢の続きである。
当時は、家を出てもベーシック・インカムのおかげで食うには困らなかった。生きるために食べ、食べるために生きる人生は、若いワシには退屈だった。生を意味立たせ、自分と向かい合わせてくれる、打ち込むべき何かを欲した。それで、ダイソン・リングの建築従事者に志願した。
初期は大型バッテリを輸送していたらしい。当時既に、量子エネルギー転送で一瞬に外惑星に送電できた。太陽系のハブ港としてのリングの役目は終わっていた。簡単に言えば地方の過疎地である。
大抵の候補者は、当時まだ一般に普及されていなかった、〈人格メモリ〉用スロットの施術。およびその、常時同期。高額な恩給などが動機であったようだ。
事案によって細則が違うが、制度上AIの意思決定には人間の確認と承認が必要である。なんなら人間にしか許されない作業もある。そのような労働に憧れた。仕事に誠実に向き合うことに自己陶冶のロマンを感じた。だが、結局は200年ばかりで飽きてしまったのではある。
その間に、大体の悪いことをやった。暴飲暴食。酒、タバコ。薬物やあれやこれや。最初の肉体はそれで寿命を縮めたようなものだ。
管理用コンピュータに非正規アカウントも作った。散々データをのぞき見して、イタズラもした。その時、作陶に向く、地球の土が手に入るとも知れた。
ダイソン・リングに不法居住することも覚えた。この無法地帯でお笑いぐさだが、行政AIはロボット三原則と基本的人権を最優先する。幾つかの条件をクリアすれば逆手に取るのは容易だった。
窯もジャンクから作れた。地代も不要である。ここではソレはビジネスではない。存分に自分と向かい合えるのだった。
目を覚まして時計を見る。朝だと分かった。千年の過去に想いを馳せながら、気が付けば寝ていた。壁にもたれて、床に座るタダトモがゆっくりこちらに顔を向ける。のっぺりした面に書かれたそれと目が合う。描いたのを少し後悔する。寝袋から抜け出した。朝食にレーションの新しい味を試す。わざわざ、ゆっくり食べた。そもそもが、そんなに旨いものでは無いと再確認することになっただけだ。
端末には、昨日の段階で、ジルダからの返事が届いていた。2日後の昼頃。つまり明日、到着可能だそうだ。ワシとタダトモは念のため、太陽面の土のある場所に行く。まだ掃除が始まる気配が無いのを確認した。
暇な時間が出来た。持ってきた未使用の〈人格メモリ〉イジりを再開した。もうちょっとで解除出来そうである。
3
翌日の昼。ホールに行くとエレベータが動いている。一時間後、出て来たのは黄色とオレンジのつなぎ姿の人影が4体とトラック。ジルダ達である。おおよその事情を説明すると意外と、真面目な顔をしてみせる。そして言う。
「ダンナ。つまり、荷物を降ろして、土を運べと言うわけですかい」
ようやく理解が追い付いたのだろう。思案気に表情を変える。口を歪め、目を右にやったり左にやったり。ワシはコイツの荷物より土が大事である。だいたい別に放り出しておいても、誰も盗みやしない。無法地帯であるが、普通にしていれば数年は別の居住者にも出会わない。それがダイソン・リングの実際だ。
それはそうと、いったい、どこで誰とどんなビジネスをしているのか。しかしそんなことはどうでもよい。荷台に勝手にあがり、積まれているコンテナを降ろそうとした。
「なんだコレ。お前、今はリングの職員相手にも商売しているのか」
手に入りにくい嗜好品。合法スレスレの薬物。真新しいドライバー、レンチ、バーナー、リベット・ガン。他にもそれらと交換したのであろう、横流し品らしき、リング内でしか流通していない電子回路。他に天井用パネルもある。
「いやね。リングには偶にしか来ないので、色々やるべき取引があるんですよ」
へらへら笑うのは変わらぬ。だが反射的にバツ悪そうにする。ワシにも覚えがあるので咎める理由はない。とはいえそれを教える気はない。時間も勿体ない。とりあえず放り出し始める。
「ダンナ、丁寧に扱ってくださいよ」
無重力だ。かまうものか。結果ワシとタダトモが、コンテナを投げ出す。必然とジルダと配下のロボットが、それをエレベータホールに並べた。
手近な大型エアロックから、土のある丘までたどり着いた。
「一足遅かったですな。太陽面の掃除が始まっていますぜ」
トラックの外に出てすぐジルダが言う。だが、管理庁配下の作業ロボット達が重機を操りながら丘を切り崩して、巨大コンテナに詰め込んでいる。
「昨日まで、この辺りは掃除なんてして無かったのに」
「仕方ありませんな。諦めますか」
「ワシに考えがある」
ジルダは口笛を吹いて驚きを示す。歩み寄るとのっぺり顔が振り返り、ワシのヘルメット内のスピーカから声が聞こえる。
「こちらは管理庁ダイソン・リング開発事業局です。作業中につき危険ですのでお近づきにならないでください」
「このゴミの山から土を譲ってくれんか」
いつもこれで通る訳ではない。細則の更新状況で様々である。とりあえず聞いてみるわけだ。
「IDの照会を許可頂けますか?」
「やってくれ」
すこし間がある。これはダメそうだと、いままでの経験から直感した。だが結果を聞いて考えることにする。
「表面上の付着物。こちらは権利者が明確で無い場合、管理庁に帰属します」
「固いことを言うな。どうせ廃棄するんだろ」
「ダイソン・リング圏内の宇宙空間。その漂流物は開発事業局に優先権があります」
「ダンナ、つまりどういうことなんで?」
「ようは、俺たちに土はやれんとよ」
「で、次はどうでますか」
ワシはリュックから端末を取り出す。あまり使いすぎると、不正発覚のリスクが上がる。奥の手である。空の〈人格メモリ〉に偽のIDを書きこむのだ。権限を強く設定し過ぎないよう配慮する。それをテープでヘルメットの上から張り付ける。立ち去ろうとするのっぺり顔に再び声をかける。
「このゴミの山からワシに土を譲ってくれんか」
「表面上の付着物。こちらは権利者が明確で無い場合、管理庁に帰属します」
「もう一回、権利関係を照会してくれ」
長い間がある。トラックのあるあたりまで、後ずさりながらジルダが口を開く。
「大丈夫なんで?」
次の瞬間、のっぺりの声がヘルメットに響く。
「上級管理主任殿。どうぞ必要な物資をお持ちください」
「へへっ、こりゃすごいですな」
ジルダにもいつもの調子が戻る。正直、ワシ自身ほっとする。落ち着かんので、管理庁ののっぺり顔達は言いくるめて、追い払った。
なぜ手伝わせなかったと、あとから、ぶつくさ言われる。残された人間と作業ロボットでトラックに詰めた。一度エアロックに戻って、手ごろな空きスペースに土を降ろす。それを何往復かする必要があった。
* * *
すっかり、運び終わり。ワシは拠点に戻り、床に座り込んで、素手でレーションを食べている。白い頭髪、黒い肌。使い込まれた〈カラダ〉に疲労が見て取れる。宇宙服のブーツも脱いでいる。良い歳だ。けっこう堪えたのだと分かった。
商売目的で、外からダイソン・リングにやってきているジルダは自分で食事を持ち込んでいた。宇宙用トラック。その横で、黄色とオレンジのつなぎ姿のロボットが床に椅子を置き座る。目の前の電気コンロの前の鍋でシチューを煮込んでいた。つなぎの上半分を折り返し、袖を腰に巻いており疑問に思う。後ろから声を掛けられる。
「ところでダンナ」
振り返ると、うすら笑いを浮かべながら、腰にぶら下げているレーザー銃をさすっている。
「なんだ」
「この土、全部アッシにくれやしませんかね」
ワシは、顔しかめて立ち上がりながら答えた。
「売ってはやれんぞ。当然なんの見返りもなしでは分けられん」
「半分でもダメですかね」
「幾ら出す?」
本気ではない時間稼ぎだ。ジルダは指を三本立てて応じる。
「足らんな」
ワシは言う。
「話してないので知らんでしょうが。天王星圏ではダンナの作品はえらく高く売れるんですよ。ワビ、サビっていうんですかね。随分、稼がして貰っとるんです」
「それ、話してよかったのか?」
「まぁそれが窯元のタツミネ家の目に留まりまして」
よく知った名が出て来た。深い因縁に感じ入るぐらいだ。しかしまだ続いているとは。だが〈人格メモリ〉の一般化の時期を考えるにとうに父は亡くなっているだろう。
「最初は、優先的にお買い上げ頂いていたぐらいなんですがね。当主はダンナが使っている土が欲しい。そう言い出して結構な額を提示されているんです」
「ほう。なら売ってやらんでもないぞ」
「でも、計算してみますとね。窯元に全部売らないと新しい商売のタネ銭として足らないんですよ。やっぱりダンナ、ちょっと死んでください」
「そりゃ、聞けないな」
そう言った時、既に銃口は白髪の黒い肌の男に向いている。映像は二人に寄る。片方が飛んで転がり消える。視界が後ろを向く。慌てて追いかけるが、ワシはトラックの裏に隠れ気配を潜めたようだ。
黄色とオレンジのつなぎ姿がトラックのフロント側へ向かう。裏側を覗き込む。映像は荷台側の端から、リベット・ガンを構えて、ワシが出てくるのを捉える。
「それで、土をやれば、ヤツミネの当主には作品の献上はしなくてよいのか」
「いえいえ、まさか。まだまだ稼がしてもらいますよ」
答えながら振り返ったジルダに向かってリベットが飛ぶ。光線が瞬いた後、レーザー銃が床に転がる。
「ワシはもうお前と取引などせんぞ」
「ダンナを殺すの。コレが初めてだと思っていますか」
そう吐き捨てたジルダの蹴りでリベット・ガンが宙を舞う。だが白髪で黒い肌のワシが、床のレーザー銃を取る。黄色とオレンジのつなぎを着た男が倒れる。
「基礎がダメなものは結局ダメだ」
銃を放り出し、倒れた〈カラダ〉にゆっくり歩み寄る。よく見ると機械である。
「ロボット?」
市販品も開発局の作業用も人間には危害が加えられない。実際タダトモは見ているだけで、応戦出来なかった。だとすると軍用のソフトウェアが入れられているのだ。画面の中のワシは、首元からマスクを剥いだ。表情は作れる程度の人工筋肉とスピーカである。
画面が一瞬光る。ワシが倒れた。その後ろにレーザー銃を拾って構えたジルダがいる。つなぎの上半分を折り返し、袖を腰に巻いている。
「〈人格メモリ〉を破壊させてもらいますぜ。今の会話も土のことも忘れる。直近のバックアップから蘇えったダンナは、廃棄品を引き取らせてくださるって寸法ですよ」
言いながらロボット顔のマスクを脱いだ。
「おっと、忘れちゃいけねぇ」
レーザー銃を向けられた。視界の主。タダトモは後ずさりを始める。次の瞬間、画面が暗転した。
* * *
ダウンロードした映像を見終わった。大体は理解できた。前回の反省から、リング開発事業局のクラウドに領域を確保。タダトモの記憶を定期的に複製していた。流石にジルダも、それは気付かなかったようだ。
ワシ自身、バックアップした記憶から蘇生室で新しい〈カラダ〉に入れられ、帰ったばかりだ。鏡に映る自分にまだ慣れない。細く若い腕をさする。今度の〈カラダ〉は一見しただけではルーツも分からぬ。
六カ月前に冷やしていた窯から、作品を取り出す。幾つかの試みが上手く行き、他のいくつかは、あまり伸びていない。最も気になっていた、乱舞する緋襷(ひだすき)を狙った大壺は、満足できる出来だ。保管庫に並べ終わる。自販機に行く。レーションを取り出して封を切る。食いながら、成形室に向かった。ろくろ場に腰を下ろす。
土が両手の中でまわる。僅かに残る、ざらつきが滑らかになって、しっとりと絡みついてくる。そうすると先ほどよりも、その冷ややかな温度が伝わり出す。
張り付かないように、左右の指を沿わせる。器になろうと手の中で悶える土を立ち上げて行く。
ここから聴くべきは自分の内面。内なる聲(こえ)である。なのだが。若干の違和感を覚えた。細く若い腕が目に入る。ワシは自分の内面。つまり肉体が感じ意識に伝える情緒に耳を傾けて来た。だがモノの様に〈カラダ〉を交換し着替えてきた結果。本来の自分ではない。言ってみれば別人の内なる声を聞いている。
何代にも渡って、他人の感性を取り込んでの作陶の試み。これは多くの人間が美しいと感じる美を追求しているのと同じだ。つい腕組みする。
気にも留めてなかったが、父は代を重ねて陶の道を連ねていくには金が要ると言っていたのではなかったか。結局、いまや、ワシも父が目指したのと同じ山を登っている。こうなれば、そこに優劣はない。手元にある土は、以前のものより粗悪ではある。それはそれで良い。それも、やり甲斐の多い作陶である。
ジルダが次に来たら、一度、ワシを故郷の天王星圏に連れて帰らせよう。その日は遠くないはずだ。新しい商売はすぐ失敗するだろう。基礎がダメなものは結局ダメで伸びない。だが、天井パネルはそれまで待てない。自分で修理することにする。
自らを陶冶する道は長い。リングの完成とどちらが早いだろう。そう自嘲する。
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