梗 概
君が好き
ムイは33歳のサラリーマン。モテない。人生で一度も彼女ができたことがない。
ある晩ムイは酔っ払って歩けなくなり道端で寝てしまう。そこへ光る小人が近づきムイに何かを渡した。すぐに逃げたがったが立ち上がることができない。
「顔にはめてごらん。モテるから」
渡されたのは透明なお面だった。酔った勢いもあってお面をはめてみた。お面はぴったりと顔に吸いついた。小人はいつの間にか消えていた。
家に帰って眠り、翌朝。起床したムイは顔に違和感を感じた。お面がはまっている。鏡で確認すると、見た目に変化はない。夢じゃなかったのか。そういえば、モテるとか言ってたな。このまま出勤してみるか。ま、モテるわけがないけど。
その日からムイはモテ始めた。通勤の電車で女性からの視線をいくつも感じた。会社に着くと受付の女性がムイを見る目が違う。今まで無視されていたのに今朝は満面の笑みだ。職場でも周りの女性がやたらと話しかけてくる。ムイはお面の効果を信用し始めた。
ムイはマッチングアプリで女性と会ってみた。信じられないくらいモテた。最初から女性の目がトロンとしている。そのうちの何人かと付き合った。以前は話すらできなかったような美女とも。ただ、長続きはしなかった。何か退屈なのだ。モテるというのは、こんなものなのか。最初はうきうきしたが、段々と、まとわりつかれるのがわずらわしくなってきた。人間は勝手なものだ。
あと、このお面は、カユい。一日中つけていると我慢ができなくなる。風呂で外して顔を洗う毎日。モテる状況にも飽きたので、素顔でそのまま暮らそうかとも思ったが、やっぱりどうしてもはめたくなる。その繰り返しだった。
何人か目の彼女と別れてしばらくしたある日、ムイは取引先の人たちと食事をすることになった。その中にシゼンという女性がいた。よく笑う人だった。くしゃっとした笑顔が印象に残った。久しぶりに自分から人を好きになった。
シゼンと仕事で会話をするたびにムイの心は高鳴っていく。ムイはデートに誘ってみた。他の女性同様、シゼンはすぐにOKしてくれた。二人は付き合い、結婚した。
結婚生活は幸せそのものだった。だが、お面はカユいままだ。いつもシゼンのいないところで、お面を外して顔を洗っていた。ところがある日、顔を洗っていると、遅くなると言っていたシゼンが急に帰宅する。ムイは顔を洗っていて、気が付かない。振り返るとシゼンが立っていた。素顔を見られた。
「これは違うんだ、違うんだよ」
慌てて、よくわからない言い訳をした。もうダメだ。すべて終わりだ。
「私もよ」
シゼンが顔からお面を外した。中から、本当のシゼンの顔が現れた。悲しいような、嬉しいような、くしゃっとした笑顔だった。ムイは、何がなんだかわからなかったが、その笑顔が、一番美しいと感じた。
二人は、どちらともなく、笑い始めた。本当に二人が結ばれた瞬間だった。
文字数:1196
内容に関するアピール
テッド・チャン作品のような短編を書きたい。チャンの小説の大ファンだが、出会ったばかりで、まだ一作しか読んだことがない。短編集『あなたの人生の物語』の一作目「バビロンの塔」だけだ。その1作で、我慢している。次が読みたくてしょうがない。でも、18作しかないのだ、ゆっくり味わわなければもったいない。
今作は、52歳にして初めての小説。結末まで出来たアイデアは3つだけ。アイデアが出ると、妻に話す。普段はあまり小説を読まない妻だが、アイデアを膨らませてくれたりする。他人になってモテモテになってみたい人の話というのは、いろいろ議論した後に出てきた妻のアイデアだ。
なんとか課題が出来上がって嬉しい。妻に感謝。休日の残りの時間は、チャンの作品の続きを読むことにしよう。
いつかチャンみたいに、科学的アイデアでもストーリーでも人を驚かせたり感動させられる小説を書けるようになりたい。
文字数:387