SNS自体に内在する意識と愛に関する研究

印刷

梗 概

SNS自体に内在する意識と愛に関する研究

 大学の授業でニューロコンピューティングについて講義を受けるユキコ。シナプス同士が結合を強化して学習してゆくことと、ニューロンが興奮状態と抑制状態に大別されることを知ったユキコは、食堂で友人のコウジにこれはどれだけニューロン同士が愛し合っているか、また欲情しているかの問題とし「ニューロン擬人化BL」の概念について興奮して語る。コウジはBLについては一蹴、それよりもいかにAIが脳細胞に似ているのか驚いたと語る。
 話はコウジが友達を作れたかという話題に移り、ユキコはお前にはいきなりリア友は無理だからSNSでネッ友を作れと指導。既にSNSでも人間関係があって割り込むのは難しい、と愚痴るコウジ。ふむそれもBLだ、と何でもBLに例えるユキコにいやSNSには男も女もいるから、とぞんざいに返事するも、それはSNSの個々のアカウントがニューロンに類似しているということではないか、とコウジは閃き、つまりSNSも一種の脳である、SNSには意識がある、とコウジは言い出す。
 二人は、ユキコがコウジに巻き込まれる形で、SNSの意識はどのようなものでいかに観測できるかの考察を開始。個々の関係性はリプライの多寡で決定でき、双方リプライ数が釣り合っているものを相愛、偏っているものを偏愛と定義すると、順方向と逆方向で全く別の脳マップが描けることになり、これはSNSは原理上二つの意識を持つと言えるのではないかと判断。これをSNS意識A、SNS意識Bと規定すると、AとBは果たして互いに会話可能かと考察が始まり、実験で確かめるべきだと結論づけた。
 二人は既存のSNSからデータを引っこ抜き、実発言データをそぎ落とした関係の強さだけを持つデータをコンピュータ上に再現し、意識のスナップショットと命名。そして両者が会話をしているという確認実験は、Aが順方向に対して投げたキーワードがBにおいて復号される現象が観測できた時に成功とする。
 多数のキーワードを投げてある時成功した。キーワードはユキコが仕込んだ「バームクーヘンエンド」というBL用語で、コウジがなんだそれと言うと用語の定義をユキコが滔々と語り、呆れたコウジはそれは無視してともかく実験は成功と結論づける。SNSが持つ知識とはAと意識Bが二人きりで会話しあっている独自の、一種孤独な世界であることが述べられる。
 ラスト、コウジのことを心配する両親の会話で、ユキコは現実には存在せず、コウジの脳内のもうひとつの人格で、ただ両親とも会話がないので人格の詳細は不明、ただフジョシとか、などと語られる。結局コウジには全く友達もおらず、孤独であり、ただ勉強だけはできるようであるが、そんなことではまともな人生は送れない、と全否定される。読者には「ユキコとコウジ」と「SNS意識A/B」の類似が示唆される。

文字数:1165

内容に関するアピール

 私がSFに必要だと考えているのは、ロジックが物語を牽引するということです。ロジックだけでも物語だけでも不足で、両者が絡む必要があります。この条件だけだとミステリも当てはまりますが、それにサイエンス要素があるのがSFではなかろうかと思います。そしてその物語によって、既存の価値観を揺さぶるようなトリップを読者に与えたいという思いがあります。
 本作では、今を時めくAIを導線として、BL・社交・愛といったあまりSFらしからぬ要素をサイエンスとロジックによって有機的に結合し、最後に物語性の発露としてどんでん返しを与えて、最終的に「何人も独りでは生きられない」→「二人だけで生きる意識の在りようがある」という価値観の揺さぶりを意図しています。
 それでは一年間、よろしくお願い申し上げます。

文字数:342

課題提出者一覧