クリスタルボールの外

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梗 概

クリスタルボールの外

あらすじ

漫画原作の国民的アニメ『ちび刑事トラ』の最後の劇場版が上映されたあと、製作委員会の口座にそこそこの製作資金が残っているため、原作者・白波の提案によって一時間弱のスピンオフ映像の制作が決定された。さらに、製作委員会の面接を経て監督は有名なコンテンツ紹介Youtuber ・渡鳥に決まった。渡鳥は原作の長年のファンであるため、プレッシャーを感じつつも、仕事仲間である情報学者・東山と共に脚本に取り組んだ。東山は独自の可視化データベースを駆使し、原作及び関連作品をすべて調べたうえで、これまで以上の新しい展開はもう書けないと告げられた渡鳥は、とりあえずスタジオに行ってみることにした。そこで彼が目にしたのは、空気入れただけで小さい透明なボール状態から適切な大きさに膨れ上がる最新型のバーチャルプロダクションシステム「クリスタルボール」だ。監督が欲しいと思う背景がリアルタイムにスクリーン上に生成され、かつスタジオの大きさ自体も調整できるという。渡鳥はそこで、主人公のトラと彼の腹違いの兄弟・怪盗チラとの会話を主調とする寸劇というアイデアを思いついた。

その後、渡鳥は東山を招いて、スタジオに住み込みで創作を始めた。物語のあらすじは、トラが、警察に逮捕された怪盗チラを社会復帰させようとして、さまざまな職業訓練プログラムをさせるもうまく行かず試行錯誤を重ねるコメディものだ。渡鳥と東山は、クリスタルボールの恐ろしい生成能力を駆使して自分たちの仕事体験をバーチャル空間で次から次へと再現し怪盗チラにやらせるが、それだけで終わるのがオチとして弱いと東山の指摘を受け、渡鳥は原作者の白波に電話をして、そこで「むりやり社会復帰させようとするのは良くないんじゃない」とアドバイスされた。それを聞いた渡鳥と東山は、クリスタルボールを取調室サイズに縮ませ、バーチャルカメラを通して向かい合って座り、それぞれトラとチラを演じて会話を始める。最適なオチを探すために二人が導く答えは…  (831字)

文字数:840

内容に関するアピール

今日の僕たちは、取り憑かれたようにさまざまな映像を見(せられ)ている。特に近年ではバーチャルプロダクションの技術などの進歩によって、観客と作り手の境界線さえ無くなったように思う。この時代に生きる人間はスクリーン画面を意のままに操作することに慣れている。つまりみんながプロデューサーあるいは監督となった。このことは我々にとって一体なにを意味しているのか?スクリーンの中の出来事に常に注意を払っている我々の人生はどうなるのか?

近未来の映像技術が使われる映像作品が出来上がるプロセスで一本のエンタメ中編小説を仕上げたい所存です。

宇宙に行かず、異星人に出会わず、異常自然現象も起きない。身近なところで日常的に触れられるスクリーンと人間の関係を描くことで読者に楽しいひとときを提供できればと思います。 (349字)

文字数:352

課題提出者一覧