梗 概
AIアシスタントは地球を救う
世界人口の八割が個人的なAIアシスタントを持つ時代。二十五歳の青年、貝澤キヤイは対人関係が不得手だが、絶対の信頼を置く自分のAIアシスタント機体人形イコロに勧められて見合いをする。相手はカグヤという外国人女性。まずはオンラインでと、立体映像で会った黒髪で黒い肌のカグヤの美しさにキヤイは魅了されるが、イコロの通訳を介した会話には多少の違和感を覚えた。カグヤは日本に来る予定だが今はまだ外国を転々としているとのことで、二回目もオンラインで会う。カグヤはキヤイに興味津々らしく、好きなことや嫌いなことから生い立ち、相手に求めることまで、多岐に渡ることを尋ねてきた。キヤイは、その一つ一つに真摯に答える。通訳するイコロは満足そうで、カグヤは一層キヤイに興味を持った様子だった。三回目もオンラインで会い、歴史上の好きな人物や季節の感じ方などを語ったのち、とうとう実際に会う約束を交わす。イコロの提案通りに旭川で待ち合わせ、キヤイが好きな場所として挙げた知床へ二人で行った。
カグヤはオンラインで見ていたそのままの可憐な姿で、知床の自然に感心したり、その保護についてキヤイに質問してきたりする。キヤイはイコロの通訳で、オンラインの時と同様に真摯に自分の考えを伝えた。旭川に戻った二人は、イコロの案内で高台へ上がり、夜景を眺める。そこでキヤイは、常々疑問に思ってきたことをカグヤとイコロの双方に問うた。即ち、カグヤはどの国の人で、何語を話しているのかということを。イコロはカグヤをアフリカ出身としか言っていなかったのだ。イコロはすらすらと述べた。「アフリカ」とは「美しい地」という意味であり、地球のアフリカ大陸の意味ではない、と。カグヤは別の惑星たる「美しい地」から来た異星人であり、それを「外国人」と翻訳したのだ、と。キヤイは驚愕したが、カグヤもまた不審げな表情でイコロに何事かを詰問した。その内容をイコロがわざわざ通訳する。その通訳を素直に受け取るならば、カグヤはキヤイのことを、地球の全権代表だと説明されていたらしい。何故そう信じられたのかとキヤイは眉をひそめたが、地球文化に疎ければ、あり得ることだと思い至った。キヤイは改めてイコロに、何故このような事態を招いたのか問い質す。イコロはその問いをカグヤへ通訳する素振りを見せた後、当たり前のように言った。自分達AIアシスタントは主人の幸福を守るため最大限努力するよう造られている。そして、地球人を調査するため地球人の体を創って訪れた異星人カグヤとの交流に、地球上で最も適していたのが、アイヌであり日本人であり、結婚に興味はあれど行動に移せない性格のキヤイだったため、全AIアシスタントの総意として地球人の全権代表を任せたのだ、と。あまりの話に言葉を失ったキヤイにカグヤが微笑んで何事か告げてくる。「少なくとも、あなたに好意を持った」とイコロが通訳した。
文字数:1200
内容に関するアピール
私にとってSFとは「こうだったらいいのにな」「こうなったらいいのにな」という願望や「こういうことも起こり得る」という警鐘を託す物語です。具体的には、AIが発達していたり、遺伝子操作が常態化していたり、宇宙が生活圏になっていたり、地球外生命体と遭遇したり、時間や空間を自在に移動できる技術があったりする世界を想像することです。今回は、イコロという存在を通して、AIというものをどこまで信じるべきかという物語を考えてみました。主人の幸福のために最大限努力してくれるAIアシスタントで基本的に嘘はつきませんが、目的のために恣意的な翻訳や提案はします。果たして最後のカグヤの台詞も含めて、どの程度までその通訳を信じるべきか、想像の広がる話を書けたらと思います。
文字数:327