秋の公園の罠

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梗 概

秋の公園の罠

 深見スグルは三十代の独身一人暮らし。仕事で大失敗して落ち込み「この世から消えてしまいたい」と思い悩みながらあてもなく歩く。
 気がつくと公園に来ている。遊歩道やランニングコースがある大きな公園だ。気分転換によく来る公園だから思い悩みながらも無意識に足が動いたようだ。
 五月の日曜日で公園の中央広場では多くの人たちが余暇を楽しんでいる。スグルだけが異分子みたいだ。そんな人々の中で、絵を描いている男の姿がスグルの目に入る。春なのに真冬のような黒い服に黒い帽子、そして、サングラスをしている。その男を見てスグルは幼いころの記憶がよみがえり恐怖を感じる。子供の頃に見た悪夢の中に現れた男に似ている。
 スグルは男に気づかれないように近づいて絵を見る。それは色鮮やかに紅葉している秋の公園の風景だった。今は春なのに、どうして? とスグルが不思議に思っていると、男はスグルの視線を感じたのか、ゆっくり振り返ってサングラスをはずしてスグルを見る。次の瞬間、男の両目が光る。その光を見たスグルは眩暈がして気を失ってしまう。
 意識が戻ったスグルは夕暮れのベンチに横になっている。あたりを見回すと、さっきまでは春の公園だったのに、紅葉している秋の公園になっていた。

 その日からスグルはこの秋の公園に捕らわれてしまう。どんなに歩いても出口が見つからない。携帯電話は繋がらない。何日が過ぎたのか分からない。昼と夜はくるけれど、その間隔は一定していない。スグルの時間感覚は崩壊した。
 公園の周りを取り囲んでいる柵の向こうの道路を行き交う人や車は見える。でも、行き交う人にスグルの声は聞こえないようだ。スグルの姿も見えないようだ。おそらく、この公園そのものが見えないのだろう。スグルは柵によじ登り向こう側に飛び降りてみた。眩暈のような感覚がして、次の瞬間にはスグルは再び公園の中に立っている。
 ここにはスグルの他に誰もいない。いつまでも、秋の紅葉が続いている。落葉樹は、いつまでも葉が尽きることなく落ち続けている。ここはあの男が描いていた絵の中なのか? とスグルは考える。「この世から消えてしまいたい」という思いを、あの男は叶えてくれたのか? 余計なことしやがって!とスグルは憤る。

 スグルは、自分がこの公園に捕らわれていることを誰かに伝えたかった。そこで、無駄だと思いながらも自分の運転免許証を落ち葉の中に埋める。持っていたボールペンで「絵を描く黒帽子とサングラスの男に気をつけろ」と書いて。

 数ヶ月後の八月、近所の住人が公園の落ち葉(真夏なのに何故か落ちている)の中からスグルの運転免許証を見つけて交番に届ける。 巡査は行方不明届を提出していたスグルの恋人の杉本アヤカに連絡する。アヤカは公園の中をくまなく探す。しかし、スグルは見つからない。アヤカは公園で怪しい黒ずくめの男に出会う。スグルのことを話すと、男は不気味に笑う。

文字数:1200

内容に関するアピール

現代の日本で普通に生活している普通の人が、ちょっとしたことがキッカケとなって、
不思議な異常な怖い体験をする、というストーリーも私の中ではSFです。
科学性がまったくないので異論はあると思いますが。
今回の梗概も科学的な説明は無しで不思議で不気味で面白い実作になるように仕上げたいと思います。
連続受講しているので今回で55本目の梗概です。まだ1本も選出されたものはありません。
何処ダメだったのかを過去に書いた梗概と向き合って考え直して、8期こそは選ばれるように頑張ります。

 

文字数:233

課題提出者一覧