パラレルワールド独立戦争

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梗 概

パラレルワールド独立戦争

三峰吉郎(みつみね よしろう・29)は見た目も中身も平均的な、いわゆる量産型人間。SNSで知り合ったオカルト好きの友人からは、ドッペルゲンガー現象に注意しろと言われてきた。世の中には自分そっくりの人が自分以外に二人いて、出会った途端に死んでしまうらしい。

だが吉郎は自分のことを、唯一無二の、世界一虚無な人間だと悩んでいた。自分が人生の主役だと感じたこともなく、押しも弱い。子供の頃はロックスターや宇宙飛行士を一瞬夢見たものの、とっくに諦め、無難に就職。大手商社傘下の金属加工会社で肩書は営業部チーフだが、実質は苦情処理係だ。不条理なことが起こるたびに、自分を殺して謝罪してきた。歴史解釈をねじ曲げるのが特技の上司から「だから言っただろ!」と、いつも初耳のことで怒鳴られるが、いまだに会社も辞めていない。唯一の心残りは、不条理に残業を命じられ、喧嘩別れしたまま父の最期を看取れなかったこと。

この日訪問予定の、西武池袋線秋津駅近くにある工場では、「地震が起きて機械が故障したのは吉郎のせいだ」と、工場長が不条理に怒っていた。天気が急変し雷鳴が響く中、電車を降りた吉郎が工場へ向かう途中、車のクラクションと共に不意に誰かとぶつかり転倒。ずぶ濡れで頭を強打した吉郎は近くのコンビニのトイレに入り、オカルト好き友人にSNSで愚痴ると、「世の不条理はパラレルワールドで起きた歴史の改変による反動だ」の返信。ついでに東村山市・清瀬市・所沢市に跨がる秋津駅は、オカルト界隈で「パラレルワールドの入口」と崇められ、「ニュートリノ」なる物質も検出されたらしい。

吉郎がトイレを出ると、コンビニ店長が「犯人はお前だな」と襲いかかる。店長が指す防犯カメラ映像には、服装は異なるが吉郎に似た顔の男が、ナイフを万引きする姿が映っていた。

「人違いです」と外へ出ると、吉郎に似た男が車のドアを開けて待っていた。助手席に乗ると、男は吉郎の首元にナイフを突き出し、「俺の身代わりになってくれ」

男は病気の子供を救うために強盗し、逃げていた。そして吉郎に、代わりに捕まって欲しいと頼む。吉郎は迷うが、男の話を聞くにつれ、今まで自分に降りかかった不条理の数々が、自分そっくりの男が歴史を変えた反動で割を食っていたと知る。

吉郎は不条理な状況に人一倍強かった。男を説得し、強盗以外の手段で子供を救った上で、吉郎は元の世界に帰還。だが今度は、第三の世界にいる自分が暴漢に刺され、死亡したと知る。その三番目の男こそが、秋津で吉郎とぶつかり、車に轢かれるのを防いだ人物だった。

吉郎は、今こそ自分らしく生きると決めた。不条理に立ち向かい、決死の覚悟で第三の男を救う。成功したら、元の世界に戻って人生をやり直す。吉郎は無理を承知で、宇宙飛行士を目指すつもりだ。他人は変えられないが、自分は変えられる。その波紋がいつか誰かに伝われば、何かが変わるかもしれない。

文字数:1200

内容に関するアピール

普段はSFとは縁遠い、制限だらけの文章ばかりを書いている会社員です。年齢と経験の割には、いつも後先考えず行き当たりばったりな書き方で、締め切りギリギリの作業を長年続けてきましたが、そんな自分に嫌気がさし、どうせなら全然畑違いの世界で一から自分を見つめ直そうと、誠に勝手ながら本講座に申し込みさせていただいた次第です。

この一ヶ月間、慌ててSF小説をいくつか読もうとしたものの、難解すぎて脳が全く受け付けず、自分の中にSF的素養のカケラもないことは確認できました。今回の課題も、普段の自分の仕事ぶりと寸分違わず、締切直前まで一文字も書けない有様でしたが、一年後には皆様の最後尾になんとか追いつけるよう、己と向き合っていく所存です。

どうかよろしくお願いいたします。

文字数:329

課題提出者一覧