梗 概
夢の中で
【経過時間:現実の時間→1日、夢の時間→12時間、現実の時間×1/2=夢の時間】
1
夢をみた。僕は高層ビルが立ち並ぶオフィス街を歩いていた。夢の中で空間が不安定なのか、辺りのビルはぐにゃぐにゃ揺れており、僕の歩く道も僕が歩くたびに形を変えて変化していた。そのまま歩いていると、道の向こうから金髪の男が歩いてきて僕に話しかけた。
「チバは夢の中にいる。チバは自身をチバとして認識できないと永遠に夢からはでられない」
僕は男にチバが何者なのか聞こうとしたがそこで目が覚めた。
2。
時計を見ると朝の8時だった。どうやら、昨夜遅くまで職場で働こうと意気込んでいたら、そのまま職場で寝てしまっていたらしい。いつから寝ていたかは記憶がないが体感で7時間ぐらいは寝ていたようだ。
夢の中で空間が歪んでいたのが酷く印象に残っていたせいか、起きたあとも暫く部屋の天井や壁が歪んでいるように見えた。夢の中で男はチバという人名をあげていた。チバはどこにいるのだろうか。しかし、夢の中でできた人名だ。どうやら、寝起きで僕はまだ夢と現実が混同しているようだ。僕は眠気覚ましに高層ビルの立ち並ぶオフィスの外へ散歩にでることにした。
散歩をして暫くすると、僕の進行方向から、どこかでみたことのある男がこちらに走ってきた。
それは、夢で見た金髪の男だった。男は僕と目が合うなり、安堵した表情で僕に駆け寄り話しかけてきた。
「見つけたぞ、チバ!」
この男は僕のことをチバと呼んだ。チバは今日の夢の中ででてきただ。この男は人違いでもしているのだろうか。僕は自分の名前を言おうとしたが、寝起きで記憶がとんでいるのか何もでてこなかった。
男は喫茶店でも行って状況を説明しようと僕を誘った。僕も気晴らし中だし、せっかくなのでついていった。
3
男は喫茶店の席につくと、ニックと名乗り、僕に時系列をさかのぼって事の経緯を説明し始めた。
「俺は、現実世界でお前と企業の研究所で脳波の研究をしている。そして、研究所は数日前、脳派を一定の波長に合わせ他者と夢を共有化し、夢空間をデザインできる技術開発に成功した。お前は最初のテスターとしてオフィスの周辺地理を模造した夢空間へダイブしたんだが、テスト開始後にお前の身体に刺激を与えても全く起きず、原因を分析したところ当初の夢空間の強度の設定に計算ミスがあることがわかったんだ。とりあえず、俺は同僚であるお前を現実世界に連れ戻すためにお前と同じ夢空間にダイブしたんだ。」
僕はニックと話しているうちに少しずつ現実と夢の区別ができるようになっていき、研究のことも思い出してきた。
僕らの研究では夢空間の強度と理性の強度は比例すると仮定している。つまり、夢空間の強度が高まり、夢の中での空間の自由度が低下すればするほど、理性が高まる。その強度が一定水準を超えると、主体は夢と現実の区別が完全につかなくなり、外部から刺激を与えても目覚めることはなく、夢の中から出られなくなる。これは、リアルでは意識を失っている状態になる。
テストで僕が夢空間へダイブした時は、夢空間の強度の見積もり計算にミスがあったようだ。そのため、僕は極めて強度の高い夢空間の中で、夢と現実の区別がなくなっていき、夢の中で閉じ込められてしまったようだ。夢空間の強度の高い空間では人の理性はリアルと同等の強度を持つが、常に短期記憶障害のような状態になり、自分の名前や行動の認識があいまいになってくる。だから、僕はニックからチバと呼ばれても、自分の名前を認識できておらず言い返すことができなかった。
また、ニックがこの夢空間にダイブした時、僕はこの夢空間の中でさらに夢をみていた。そこで、ニックも僕のみていた2層目の夢空間までダイブしたが、2層目の夢空間は1層目よりも確実に強度が低くなるため、僕は2層目の夢空間でニックと殆どコンタクトをとることができなかったようだ。
ニックはその後、僕が夢から脱出する方法について話した。
「強度の高い夢空間から脱出するには2つの手順を踏む必要がある。まず、主体がみている夢を夢だと自覚すること。そして、自覚した上で主体が夢の中で死ぬことだ。お前は、今俺がこうしてここが夢であることを説明したことによって1つ目の条件はクリアしている。後は2つ目の条件だけだ。」
ニックは手元から銃を取り出し僕に渡した。
「その銃でまず俺の頭を撃ってから、その後自分の頭を撃て。俺もこのままこの夢の中にいるとお前みたいに現実の区別がつかなくなっちまう。悪いが時間がないんだ。」
僕はちらっと喫茶店の時計を見た。時刻は昼の13時になろうとしていた。
僕は息を整えて、彼を撃った。銃声に周りの客が悲鳴をあげたが、その悲鳴を最後まで聞く前にすぐさま自分の頭も撃ちぬいた。
4
目を開けると僕は研究室のベッドにいた。そばにはニックがたっていた。
「ようやく起きたか。俺は4時間、お前は1日寝てた感じだな。なんなら、今も夢の中だったりしてな…冗談だ。」
ニックは、僕に体を動かした方がいいから外へ出て散歩でもして来いと進めた。僕もいつまでもベッドにいたら身体が動かなくなってしまうと思い、ニックの言う通り外に散歩にでた。
外は例によって高層ビルが立ち並ぶオフィス街だ。長く寝ていたからか、身体に大きな負荷をかけてしまったのだろう。僕は何度か視界がぼやけて、こけそうになった。
「今も夢の中だったりしてな」
僕の頭にさっきニックが言った言葉が過った。
文字数:2226
内容に関するアピール
今回の課題では時間に制約をかけるとのことでしたので、時間にトリックを入れてみようと思いました。具体的には、夢と現実世界の時差を利用することで、冒頭に掲示した時間が物語を読み進めることで明らかになるという形にしてみました。
夢と現実の時間の差異については、夢を見ているときの脳波の高低とそれに伴う脳の情報処理速度に関係します。そこで、今回は脳波の高低を「夢空間の強度」という概念で置換し、その空間に対する情報速度によって現実との時間に時差が生まれるという設定をおきました。
本稿では、1層目夢の時間(1:00~13:00の12時間)の速度が、現実の時間(1日)の速度の1/2という単純な設定で物語を進めました。
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