聖夜の立方体

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梗 概

聖夜の立方体

【経過時間の設定:主人公が注文した宅配ピザが、届くまでの20分間(立方体が降り終わるまでの20分間)】

それは、立方体のよく振る夜だった。「20分以内に届かなかったら無料!ピザーナお届けチャレンジ、スタート!」のボタンを押したユータは、しめしめとスマホの画面を見ながら、ベランダの外へ出る。クリスマスイブの雪に交じって降り注ぐ、色とりどりの立方体たちが、地面に触れるなり霧消していく。

おそらく、配達システムのバグか何かだろう。今でこそ人体に無害だが、予報ではそろそろ始まることになっている。1辺2mの立方体に押しつぶされる危険を冒してまで、ピザを届けようとする馬鹿がいるとは思えない。バリアつき家屋への避難命令も出ている。明日にでもクレームの電話を入れて、無料でピザをもらうとしよう。

しかし、ボタンを押してわずか1分後。驚くべきことに、スマホの宅配アプリに「ただいま出発しました!」と、配達人からメッセージが届いた。何かの間違いかと思い確認するが、配達人の自転車から発せられるGPS信号は、確かにピザーナ下高井戸店を出発し、ユータのアパートに向けて移動を開始したのだ。予定到着時刻は0:00。ちょうど、日付が変わる頃に届くことになっている。

そして、予報通りにそれは始まった。地面に触れては消えていた立方体が実体をもち、積もりはじめたのだ。下高井戸の町に連結立方体テトリミノ警報が鳴り響く。一個ずつ独立して降っていた立方体が、空中で互いにくっつき始め、4つでひと組の連結立方体テトリミノとなる。予定実体化時間は、20分。実体化時間は、平均して10分未満であることが殆どである中、20分は歴史的な長さだ。

色とりどりに美しく発光するミノが、ゆっくりと等速で落下しながら、町を痛めつけていく。バリアの古くなっていた隣町のビルが、倒壊したとニュースが伝える。とんだ大災害だが、ユータは
「記録を狙うチャンスだろうな……」
と、このビッグウェーブ・・・・・・・に心の奥底で少しワクワクしてしまう。プレイヤー・・・・・だったころの、悪いクセだ。

そんな中、ピザーナの宅配自転車は、ずんずんユータに近づいてきていた。この配達人、ただ者ではないぞ……というユータの疑念が確信に変わったのは、配達開始4分が過ぎたころ。下高井戸エリアに降り注ぐミノの落下スピードが、増したのだ。この現象の原因は、ひとつしか考えられない。誰かが、このビッグウェーブに挑戦しているのだ。
「まさか、この配達人、プレイヤー・・・・・か……?」

立方体の正体が一体何なのか。神よりの試練か、はたまた宇宙人の侵略行為か……専門家の間でもいまだ議論は尽きない。しかし、分かっていることもいくつかある。

実体化すると4つ一組の連結立方体テトリミノとなり、その近くにいる人間の精神に感応して、落下操作、回転操作ができるようになるということ。立方体を水平に10個連結すると、立方体が消えるということ。そして、消せば消すほど、当該エリアのミノの落下スピードは増していくということ。この性質を利用して、降り続ける連結立方体テトリミノの中で、何分間下敷きにならずに生存できるかを競うのが、流行りの非合法エクストリームスポーツ、連結立方体競技テトリスだ。

配達開始から5分。自転車はさらに近づき、ミノの速度もさらに加速する。雪も勢いを増しているようだ。信じられない。自転車に乗りながら連結立方体競技テトリスするなんて。

8分が経った。ますますミノのスピードは増し、ベランダの外から肉眼で見えるほどに、自転車は近づいていた。ユータは、その配達人の危険なプレイに息を飲む。なんと、わざと連結立方体テトリミノを、自転車の行く手を塞ぐ壁のように積み上げていくのだ。そして、そこに自転車が到達する寸前に、壁に一つだけ空いた穴にT型連結立方体T―ミノをはめ込み、壁を消去。それを、繰り返しながら走行を続けている。

そこで、ユータはハッと気付く。あの危険なプレイスタイル。特徴的なT型連結立方体T―ミノの使い方。それは、かつて連結立方体競技テトリス全国ペア大会の決勝戦で、ともに「15分の壁」に挑戦したかつての戦友、ジョーに間違いなかった。自分の操作ミスでジョーに大ケガを負わせた、大学2年の全国大会。あれをきっかけに、ユータは連結立方体競技テトリスプレイヤーを引退した。だが、ジョーはその間もピザ屋のバイトで生計をたてながら現役を続行し、虎視眈々と腕を磨き続けてきたのだ。

配達開始後、10分。気付くとユータは、表へ飛び出ていた。降りかかるミノを整列し消去しながら、彼はジョーのもとへと急ぐ。

開始12分。2人が合流した頃には、事故のあった大会と、ちょうど同じくらいの速度にまで、ミノの落下スピードは上がっていた。2人は、無言でうなずき合いながら、かつて交わした言葉を思い出していた。
「オレたち、なんで連結立方体競技テトリスなんてしてんだろうな、ジョー」
競技ゲームに意味なんてねぇよ。いいプレイをキメると気分がアガる。それで充分だろ」

前人未踏の15分の壁を越え、20分の予定実体化時間が終了した。地面に残された立方体たちが、淡く輝きながら、冬空へ還っていく。

道ばたに座り込んだユータがふと空を見上げると、ジョーの通ってきた道から、赤と緑の立方体・・・・・・・ばかりが空に昇っていくのが見えた。消さずにわざと残していたのだ。

「お前、キマってんな」

と笑うユータに、ジョーは得意気にピザを差し出すのだった。

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内容に関するアピール

時間が経過すればするほど、緊張感が増していく……という仕掛けをストーリーに持たせるために、テトリスを利用しました。

一見単純に見えるテトリスのゲームですが、突き詰めるとかなり深い戦略性や、テクニックがあります(あらゆる名作ゲームはそういうものかも知れませんが)。実作では、そのあたりも、面白く&カッコよく描けたらと思います。

ゲームルールは、ブロックが普通のテトリスと違って3次元に広がりを持っているため、多少調整が必要かと思われます。実作では、そのあたりの設定についても、もっと細かく描くつもりです。

 

文字数:249

課題提出者一覧