激辛リポートは不要です

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梗 概

激辛リポートは不要です

 ホイッスルが鳴った。
 何故だか今日はラッパーの様ないでたちをしたたべちゃんが、ゆっくりとフォークを口に運ぶ。どんな味がするかと待っていると、突然の激痛、痛つつつつつつつ。激しく頬の裏側を掻き毟られているような痛みに囚われ、一気に体温が上がり、そして体中が嫌な汗に包まれる。実験が成功しているのかどうか、それどころではない。辛いとか辛くないとか、そんな話じゃない。痛いし熱くて痛いのだ。
 人ごみの中、俺は歯を食いしばってその幻の痛みに耐えていた。

「はい、ここは東京三鷹、激辛パンケーキのお店、ホットディスク三番館さんに来ています。ごらんください、こちら」
 実況アナウンサーのさわやかな笑顔から、画面切り替わると禍々しくも真っ黒な皿の中央、言われてみればパンケーキに見えなくもない形状の、だけれどその色彩が尋常ではない鮮やかな赤色の物体が、何やらどろりとした粘液にまみれて異彩を放っている。
「-本日、この超特盛火炎鬼火皿后枚攻めを、制限時間3分以内に食べていただくのが、はい、この面々」
 テーブル向かって左から、激辛芸人ゴルゴ松崎、中央に激辛アイドル鈴木詠美、しんがりがグルメロボットのたべちゃん。平成最後の激辛バトルが始まろうとしている。
  辺りの空気を嗅ぎ、いきなり悶絶するゴルゴ。
「ダメ、何だこの、目に沁みる感じ」
「あたしコンタクトだからへーき」
 そんな人間二人の言動に一切反応せず、たべちゃんがぶちぶちと呟いている。
「いわゆる辛さというものは、それはつまり五味とは無関係な痛覚によって感知されるものでして、グルメなものをコメントすべき私のようなナイーブなものには、これまた全く縁のない野蛮な感覚でございまして」
 うるせーな、分かってるよそんなこた。そんなもんを遠隔感知させられる、俺の身にもなってみろよ、たべちゃん。しかも、まだ極秘扱いだってんで、俺はただの見物人、変なリアクションをとる事もできない。たまたま居合わせた三鷹でテレビの撮影を覘いている態でってんだからな。お前は初めての痛覚、俺はその情報のご相伴にあずかる。シンプルだけど、どうだい、くだらねぇだろ、まったく。
  片足で立って両手を斜めに下した例のポーズで「激辛命」とゴルゴと鈴木が決めた後、二人と一機の前に何故だか必要以上に湯気の立つ、先ほどの黒い皿が置かれる。
「覚悟の方はいいですか、皆さん」
 アナの無関心な一声、両手のカテラリーをクロスさせ見えを切るゴルゴ、鈴木はうっすらと口元に笑みを浮かべ両手を合わせている。その口が、いただきますの形に動いている。たべちゃんはおなか痛そうな顔。
 ホイッスルが鳴って、食べ始める二人と一機。そして、俺の三分間の受難の始まり。
 

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内容に関するアピール

  三分間。
  三分間、耐える話である。ゴルゴ松本さんに捧げたい。
  どうして『俺』がそんな実験台になったのか、味覚とか痛覚をどのようにして遠隔通知させるのか、をきちんと盛り込むべきだった。
  グルメロボットのたべちゃんは、多部未華子ではなく、たべしんぞーである。だからと言って、どうこういう話でもない。

文字数:148

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