少年サトシが生きている世界では、突然変異により、あらゆる人間が１８歳前後で寿命を迎えていた。死亡年齢に多少の個人差はあるものの、どうやっても肉体的に１８歳を超えた人間は死亡していく。多くは１１歳で義務教育を終了し、１２〜１６歳で働いて子どもを産み、１７歳で年金生活を送って余生を迎える。特に、経験が必要となる研究者や技術者、政治家や企業トップは育ちにくくなっていた。

結果、裕福な家庭では、死んだ人間の記憶を移植し、擬似的に１８年以上の経験を積む処置『記憶転移』が流行していた。通常は１０歳になったとき、男子なら父親の、女子なら母親の記憶や経験をうけつぐ。印象的な経験や失敗を受け継ぎ、実年齢より早期に成長するのである。転移は数世代続く場合もあり、祖父や曽祖父の経験をひきついでいる人間もいた。１０歳の少年サトシは、父親の経験や記憶を受け継いでいたが、人格はサトシであり、父親の人生をリアルなVRで経験したようなものだった。

サトシの幼馴染である、キュールとアランは記憶転移処置をしておらず、オリジナルのまっさらな１０歳だった。キュールは大金持ちと結婚して幸せな家庭をつくることにあこがれ、アランは総理大臣になる夢を持っていた。サトシとアランは馬が合わず、すぐに喧嘩してはキュールが仲裁に入っていた。３人には共通の秘密があった。山奥でひっそりと住んでいる人間、「ガロア」は、見た目も精神も、４０年以上生きた壮年だった。何らかの理由によりガロアは１８歳で死亡せず、政府の監視を避けながら生きているという。
　サトシたちは、生まれて初めて見る「壮年」に驚く。サトシは１０歳の自分よりも、４０代のガロアのほうがよほど生命力に溢れていることに目を丸くする。サトシは見た目は子どもながら、父親の経験を引き継ぎ、達観していた。

サトシ１２歳。父親が仕事人間であり、家庭も顧みず仕事に没頭していたため、反動でサトシは芸術家を目指す。仕事をしながら腕を磨くサトシだったが、なかなか芽は出ない。
　サトシ１４歳。彼は生涯独身を貫くつもりだったが、幼馴染のキュールが婚約者に絶縁され、キュールと結婚することになる。一方、総理大臣にあこがれていたアランは、記憶の転移処置をしていないにもかかわらず、政界で驚異的な出世を遂げていた。経済的にも能力的にも不利な、記憶の転移をしていない「オリジナル」の国民たちが、アランを支持したのである。サトシは、自分よりも幼かったアランが出世していくのを羨ましく思う。

サトシ１６歳。キュールとの間に子どもが生まれる。短い人生はあっという間に年月が過ぎていく。サトシは自分の子どもに記憶を転移させるかどうか、悩んでいた。こんな自分の人生など、引き継がないほうがいいのではないか。キュールと話し合い、子どもには余計な記憶を引き継がず、ありのままに生きてほしいと、子どもへの記憶転移を断念する。
　サトシ１７歳。キュールが早期に終身病棟に移送され、子どもたちは養育施設に入る。サトシは壮年の男ガロアに再会し、自分の生涯は何だったのかと疑問を持ち始める。

サトシはガロアに、自分の子どもたちの面倒も見てやってほしいと告げる。死が近づくなか、政治家として大出世を遂げていたアランが、ついに何十年ぶりかの、記憶転移をしていない「オリジナル」の総理大臣となる。そこでアランは衝撃の事実を国民にぶち上げる。実は１８歳で死ぬ理由は未知のウイルスのせいであり、数百年前に人口抑制のため、人間によって意図的にばらまかれたものだという。これらはすべて、ガロアからの入れ知恵であり、ガロアはウイルス対策の実験施設から逃げた人間だった。
　ガロアは告げる。アランが出世したのは、達観したサトシへの対抗意識がそうさせたのだと。世界の状況が一変し、ウイルスへの対策が加速される。サトシは、自分の子どもたちが立派な老人になる未来を夢見ながら、最期を迎える。