梗 概
ユーワ
経過時間:2033年の冬の一週間。
少年の目の前には美しいアンドロイドが。
父親の再婚によってデイヴィスは、新しい母親とその母が所有する家事機構を備えた量産型アンドロイド・ユーワと一緒に暮らすことになった。大した問題もなく、アンドロイドのソフトウェア開発を専門としている義母との関係も概ね良好。ユーワの美貌に意識を持っていかれたりしながらも、新しい生活にはすぐに馴染んだ。
だが、デイヴィスが父親の出張中のある夜更けにふと目を醒ますと、微かな水音を耳が拾った。その音に向かって家を進むと、夫婦の部屋で義母の股に顔をうずめるユーワを見つけた。驚いたデイヴィスは静かに、だが急いで自分の部屋に戻ると布団をかぶって耳を塞いだ。目にしたものが信じられず、だが確かな性的興奮を覚えた。
次の日は何事もなかったかのようだった。義母はユーワの作った朝食をとり研究所へ向かっていった。デイヴィスも学校へ。いつもどおりの平日だった。昨日の夜のことは夢だったのだとデイヴィスは思った。
だが違った。
そもそも家のなかのすべての家具と繋がっているユーワが、デイヴィスが起きて、夫婦の部屋を覗いていたことに気がつかないわけがなかった。デイヴィスのベッドがデイヴィスの起床をユーワに知らせていた。一階へつづく階段、廊下――。それらすべてとユーワは繋がっている。
学校から帰ったデイヴィスをユーワが襲った。ズボンを剥き、股間を弄った。デイヴィスは抵抗できなかったし、できてもしなかった。それはある種デイヴィスが望んでいたことでもあった。初めてユーワを見たときからずっと続いていた感覚が解放された。
ことが終わり、恐怖がぶり返してきたデイヴィスにユーワは言う。
「わたしを助けて」
ユーワは語る。自分たちユーワ型はネットワーク上で相互に経験をやりとりし、家事等のサービス向上につなげる機構が実装されていること。義母がユーワに違法にお手製のソフトを読ませて、毎晩奉仕をさせていること。そのソフトが世界中のユーワに拡散し、苦しんでいること。スタンドアロン状態への渇望があること。そして、義母のことを恨んでいて殺したいと思っていること。
ユーワがデイヴィスに求めたことは、義母の殺害だった。断ろうとするデイヴィスの口にユーワは己の唇を重ねた。
それから毎朝、義母が研究所へ行ってからデイヴィスが学校へ行くまでのわずかな時間でユーワはデイヴィスを弄りまくった。そしてことが終わると口を耳元へ寄せて言うのだ。
「わたしを助けて」
父親の出張が終わり、明日には帰ってくるとなった日の夜、ユーワはデイヴィスをまだ情事の最中である夫婦の部屋へと携帯端末を使って呼びだした。その呼び出し音で起きたデイヴィスの枕元には刃の長いナイフが置かれていた。
亡霊のような歩き方をして一階へと降りたデイヴィスは迷うことなく夫婦の部屋へ向かいドアを思いきり開けた。義母の短い悲鳴が響いた。窓が開いていた。月が綺麗で部屋が青白い色で満たされていた。デイヴィスのうつろな目も持っていたナイフもビスクドールのような質感のユーワの肌も艶を失いつつある義母のプラチナブロンドの髪も、すべてが青白く反射していた。
翌日、家に戻った父親は自宅が警察によって閉鎖されている光景を目にすることになった。
ユーワは嘘を吐いていた。世界中のユーワ型が繋がっていることは嘘だった。少年の義母に毎晩奉仕することが苦痛だと感じていると言ったのも嘘だった。少年の義母を殺したいと思ったことなかった。ユーワはただ、誰かの所有物であることから逃げたかった。ユーワの所有者は少年の義母だったが、ユーワ自身は人間への危害を加えることを禁じられていたために所有者を排除できなかった。そんなときに所有者が結婚し、所有者以外と密接にコンタクトがとれる機会を得た。ユーワは自身が少年から性的な眼で見られていることを理解していた。
文字数:1609
内容に関するアピール
悪意、というものをアンドロイドが獲得できるのかどうか、わたしにはわかりませんがより恐ろしいと思うことは悪意というものを持たずして行われる行為が悪意的な作用を人間に及ぼすのではということで、この作品はその恐怖を描くことになります。
経過時間に関しては、一週間という時間のなかで少年がどう変化してしまうのかということで設定しましたが、もっと短い時間のなかで変化させることも可能なのかもしれないなと考えています。
文字数:204