断末魔コンテスト

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梗 概

断末魔コンテスト

設定時間:15秒

 

「さあ、死んでください!お願いします!」
 司会者がそう叫んでから5秒の後に、半分ヤケになった俺は、手に持った錠剤を水で一気に飲み込んだ。同時にのどが焼け始め、腹の底からヘドロが上昇してくる。うっぷ。ここで吐き出すと失格になる。あと10秒で俺は死ぬ。10秒後のその瞬間にいかにヤベェ断末魔を上げることができるかが勝負になる。大丈夫、ここまでは練習薬と同じだ。

 

 練習薬は、本番の薬と同じ感覚を味わうことができる薬だ。法律には違反しているが、闇ルートでは高値で取引されていて、「断末魔コンテスト」の過去の優勝者はほとんど皆この薬を使って練習していた。3代目チャンピオンの故・中里まさるが最初にこの練習薬を使ったと言われている。確かに彼の断末魔は革命的だった。最後まで苦悩の表情を見せず、しっかりした腹式呼吸で会場の隅から隅まで彼の声を轟かせたのだ。素晴らしい。
 本来法律に違反している者は大会ルールで失格になるはずだが、この薬だけは黙認されていた。ただ、薬を飲む前の意気込みタイムで、とある選手が「俺は8歳でビールを飲み、10歳で女を孕ませた」と勘違いしてイキがっていたが、その選手は法律に違反している疑いがかけられ、その瞬間に失格となり警察に連れて行かれた、ということがあった。
 この出来事以来、死ぬつもりも無いくせに、ただ派手なパフォーマンスをして目立ちたいがために大会に出場する輩が増え始めたのだ。当然、俺を含めた大会の古参マニア達はそのような連中に対して否定的だったが、近年大会が大衆向けに走り出してから、多くのくされパフォーマーが前座として出演するようになった。意気込みタイムで自分のやりたいことだけをして、最後に法律に抵触することをしてその場で逮捕。そして連行。もはや茶番である。
 特に俺が嫌いなのは、外科手術によって体中に、人工培養した身体パーツを縫い付けているいわゆる「ボディヤー」だ。手が何本もあったり、左腕に女性器があったり、正直言って寒い。そのくせ、結局、毎回優勝するのは自分の体そのままで出場した人なのだ。そんなヌルい大会が続いていて、俺はもう耐えられなり、自分が出場することを決めた。
 案の定、今年の大会もヌルいやつらばかりだ。うわぁ、いるよいるよ、ボディヤーが控え室に。絶望したことに、今大会の出場者は、俺以外全員ボディヤーだった。どいつもこいつも、見た目ばっかり派手にしやがって。王道こそ最強と言うことを証明してやる。

 

 俺のひとつ前の出場者は、体中に口があり、その全てから声を出せるというボディヤー、通称『妖怪四口八口しくはっく』。全身の口を使ったハーモニー豊かな断末魔は、大会始まって以来の最高得点を審査員から引き出した。俺でさえも少しウルっときてしまった。これは非常にまずい。ここへきて王道の俺が窮地に立たされている。俺が勝たなければ王道が負けてしまう。そんなことあってはならない。だが俺には何がある?あいつには大量の口がある。自分の体ひとすじで死に挑むというのは、もはや王道ではないのか?
 薬を飲んでしまった今、そんなことを考えている暇はない。薬を飲んでから8秒。練習薬の時はここで0.5秒だけ全身から痛みが引く「間」がくるはずだ。ここで腹に力を入れて思いっきり叫ぶ。これで一番ヤベェ断末魔を上げられるはずだ。
 「間」が来た。一瞬だけ痛みが引く。息を吸うために目を上げると、カメラが目に入った。あのカメラを通じて、全国のお茶の間に俺の断末魔が届くのだ。俺も子どもの頃にテレビで見たことがきっかけでこの大会にハマったんだった。あれから随分と変わっちまった。今の子ども達はもう、俺みたいな地味なのは望んでないんだろうな。俺が最後の生き残りなんだ。
 ラストの1秒間、俺は思い切り叫んだ。

文字数:1566

内容に関するアピール

 「断末魔コンテスト」とは、文字通り各々の断末魔を競う大会です。「飲むと10秒後に死ぬ薬」を飲み、10秒間の間に最もヤベェ断末魔を上げた人が優勝です。優勝賞金は1億円。前もって指定しておいた口座に振り込まれることになっています。

 サイバーパンクっぽい荒れた世界ではどんなヤバイ娯楽があるだろうかと思い、「人の生命で遊ぶ」ような娯楽を考えました。「ボディヤー」のような倫理観ゼロのファッションが流行ったり、「断末魔コンテスト」のような大会があったり、そんな人の体なんてどうとでもなるというような世界でも自分の体に誇りをもって生きている人はいるんだろうなと思い、その人の話を書きました。

 実作ではもっとこの世界の日常を描けたらと思っています。

文字数:319

課題提出者一覧