碧月ブルームーンにフラを捧ぐ

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梗 概

碧月ブルームーンにフラを捧ぐ

 空に浮かぶ青い月。
 人々は五百年もの間ブルームーンを禁忌タプとした。その理由も忘れ果て、惑星間航行する意志を失った。
 神酒の海マーレ・ネクタリス》にあるセレネシアは、六つの大型帆島からなる島国。美しい島々は、海流に乗り楕円を描いて巡航帆走し、昼夜を作り出す。
 セレネシアでは、ポセイドニオス市からの観光客を迎えるリゾート開発が進められた。
 レジャーの中で一番人気は重力サーフィン。±1Gの間で、重力に局所的な差が生じる空間、《ビーチ》では、立体的にうねる水塊でアクロバティックなサーフィンができる。
 だがスリリングなスポーツには危険がつきもの。特に《ビーチ》上方は大気圏外に露出しているため、ライフガードが設置され、レジャー客の安全を確保する。
 マカーニは、肉体美を誇るベテランのライフガードで五分以上無呼吸活動できる。女キャプテンのイオラーナたちとともに、鍛錬された体で単身用小型宇宙艇ウェーブ・ボードを乗りこなし数々の命を救ってきた。
 彼らはフラダンスの名手でもある。フラは、セレネシア人が神々と対話する言語であり、生き方そのものである。ライフガードの仕事に誇りを持つマカーニたちだが、《ビーチ》での観光客向けダンスも生活のためには欠かせない。だが保守的な若者グループとの間に確執がある。
 イオラーナたちは、ある日、《ビーチ》で小型艇から一人の男を救助する。男はブルームーンから来たという。
 男は禁忌を犯しマカーニたちに月の歴史を語る。
 かつて徹底的なルナフォームが行われた。「海」に水が浅く満たされ、表面面積の六割を覆った。
 地下の巨大熱源が、火山を再活性化した。
 地球の潮汐力により、潮流と波が生まれ、原核生物の光合成により酸素が供給された。
 だが月の大気圏は地球よりはるかに薄く、雲は数百メートルの高度で発生する。
 五百年前、ポリネシアをテーマとし新たな《島々の女王》を乗せた大型恒星間クルーザーが月に寄港。大破沈没する大惨事を起こした。島の巡航は、救助活動が儀礼化・神話化したものらしい。《ビーチ》空間は、半永久的に稼働する重力発生装置の異常によると判明する。
 イオラーナは、自分のルーツがブルームーンで海面上昇により水没した島国にあると知る。
 男は、月の大気圏から大気が流出し危機が迫っていると告げる。
 なぜ地球と月は断絶したのか。ブルームーンの男は、秘密を語らぬまま、禁忌を破られて逆上した保守派に殺される。
 セレネシアは、月を救うためにブルームーンを訪れるか否かで分裂。
 対立する二つの派閥は、フラの舞い比べで決着を付けようとする。マカーニたちは、見事な舞で人々を魅了、鼓舞し、果てしない宇宙の闇を越える勇気をかき立てる。
 マカーニたちは、クルーザーを修復し謎のブルームーンに飛び立つ。それは宇宙望遠鏡ミラーの虚像でしかなく、地球はあるべき場所になかった。
 マカーニたちは宇宙のさらに先に行くことを決意する。

文字数:1221

内容に関するアピール

 一行でまとめると「気候改造され、地球との接触を断った月のライフガードたちが、南洋航海種族としての衝動を鼓舞され、謎の星となった地球に飛び立つ」話。
 本作では、ポリネシア文化とフラダンスにより「月らしくない月」を目指す一方、「それでもやはり月」の要素を取り入れた。「タブー」はポリネシア語を起源とする。
 地球からの訪問者を迎える本作は、「逆かぐや姫」的構造とも言えよう。月と(地球の)海が潮汐力によりつながるように、月の海も地球とつながる。
 本作の読みどころは、《ビーチ》での立体サーフィン、無酸素救助活動(レスキュー・ダイブ)、フラ合戦である。男性フラダンスの力強さと豊かな表現力は、マオリがラグビーなどの前に演じるハカ、さらには相撲の四股にも通じ、既成概念を破るものがある。
 なお月にかつて火山活動があり、水が存在することはいずれも事実である。

文字数:374

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