上へ参ります、上へ参ります

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梗 概

上へ参ります、上へ参ります

人類の建てた塔は、意外にもその土地の神の怒りを買わず繁栄し続けた。完成の後、天に届くかと思われるほどの巨大な塔に移り住んだ人類は、初めは互いの交流を続けていた。だが、時代が下り、塔の中での栽培・畜産の技術が確立され、外から食べ物を運び込まずともよくなると、遠い階の人間との交流は少しずつ減っていった。やがてそれぞれが自分たちの住む階で安住するようになり、数少ない人を除いては近隣の階以外との交流は断絶していく。言葉や宗教、果ては外見までもが分かれていくのに、寛大なる神の怒りも異なる土地への離散も不要だった。

巨大な塔は荷物を運ぶのも一苦労なため、上へ上へと建設していく途中から昇降機が設けられていた。横に連なる昇降機は、近隣の階を行き来するための小規模なものから、遠くの階に向かう寝台昇降機まで様々だ。
主人公のソコトラは、500~1000階の長距離を担う八両編成の特急寝台昇降機の車掌だった。塔に設けられた昇降機の操作には技術が求められる。扉のレバーを巧みに操作し、昇降機の全ての「箱」を安全に、かつなるべく安定させた状態で上へと運んでいく必要があるからだ。定期的なメンテナンスや改修が行われているとはいえ、太古の建設時から使われている昇降機には古い技術も使われている。500階の間で使われている言葉もそのほとんどをマスターしなければならない。
独り立ちして早十年。すっかり技術も安定し、その日もいつも通り運転をしていたソコトラの特急昇降機に、ある日500階より下の階から逃げてきた大勢の人に乗り込まれる。ソコトラには分からない言葉混じりに口々に話すところによると、200階以下で大洪水が発生し、水がどんどん押し寄せてくるのだという。突然の乗客に追い立てられるように彼らを1000階まで送り届けたのに続き、迫る水に気付いた500階以降の人々が次々とソコトラの特急昇降機を含むあらゆる昇降機に乗り込むようになる。

大多数を1000階に送り届けた頃には、水は500階のすぐ床下まで来ていた。これ以上下れば昇降機どころか乗っている車掌も危ないと言われる中、逃げ遅れた人の話が問題になる。自身の身の危険を感じ下るのにためらう車掌たちの中で、ソコトラともう一人のベテラン車掌が名乗りを上げる。500階に辿り着いた彼らは、乗り遅れないよう各階で声をあげ、階民たちを助けながら、水に追われて上へ、上へと避難していった。

文字数:1000

内容に関するアピール

日本橋の高島屋だったかと思うのですが、とてもレトロなエレベータがあり、制服姿のアテンダントさんが「上へ参ります、上へ参ります」と案内しながらレバーをガチャガチャ操作していたのがそれはそれは格好良くて、いつかこの人たちが活躍する話を見てみたいとずっと思っていました。
 正直に話しますと実作でヒイヒイ言ううちに話の流れを練る時間がほとんどなくなってしまったため、実作では世界観は残したまま展開が大いに変わる可能性があります。
 課題が難しくて天を仰ぐことも多々多々ありましたが、学ぶことばかりの一年でした。学んだことを還元して、自分が「面白い」と思ったバベルの塔のエレベータの設定が、他の人が読んでもちゃんと面白くなるような小説に書き上げられるよう、ここから最後の一か月、頑張っていきます。

文字数:342

課題提出者一覧