知らぬが。

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梗 概

知らぬが。

思考、深層心理、脳内の情報といったものをフィルムに投射して抜き出す思考投射装置が普及し、フィルムを変換する様々なソフトが巷に溢れかえった時代。
ベースデータが公開されているため、サードパーティー製の物も含め変換ソフトは多岐にわたり、フィルムの内容次第では小説や映像作品を出力できるものも多かった。
特に文字媒体への変換ソフトは比較的安価な上、恋愛系、エッセイ、純小説等バリエーションも多くアマチュア作品が投稿サイトを賑やかしていた。筆者体験を基にした(とされる)恋愛小説から「作品のことを考えて投射した」二次創作『黙れメロス』『吾輩はツモである』なんてものまであった。
八高文芸部に所属する坊野も、学校にある投射装置を使って日々自分のアイデアをアウトプットし作品を投稿していたが、今年になってから投稿ペースが落ちていた。
学校にある思考投射装置はVRゴーグルのセットされた椅子で、事前にセットされた設定を基に視覚・聴覚から使用者が望む方向へ思考を誘導し、思考投射を行う。
ある程度気が散っていても思考投射できるのだが、年度初めのクラス替えで隣席の夏目に一目惚れしてから気もそぞろとなり、どう思考投射してもあらゆるものが恋愛に帰結するようになってしまった。
望む作品が作れなくなった坊野は夏目への想いを消化しようとするが奥手で行動に移すことができない。
見かねた坊野の友人、情報処理部の才門はオリジナルの恋愛系文章変換ソフトを作りその気持ちを作品にして消化しろとアドバイスを行う。
坊野はアドバイスに従い、妄想である夏目との仲睦まじい日々、日々高まる夏目への想いを織り交ぜた小説の投稿を始める。
ネットに溢れる数多の「痛い小説」だったため、特に注目されることもなかったが、投稿を初めたおかげか、ようやく坊野は自分の書きたい作品にも手を付けられるようになっていった。

ある日、坊野はひょんなことから夏目と接点を持つようになる。
徐々に仲が深まるにつれ一層夏目に恋焦がれるようになった坊野の作品はより混とんとし、前にもまして思考投射は乱れていった。
坊野の夏目とのエピソードと作品が作れない悩みをセットで聞かされることに呆れた才門は「さっさと告白してしまえ」とけしかけるが、坊野の「自分が妄想していたことばかり現実になる」という言葉が気になり夏目のことを調べ始め、前年に高精度思考投射技術を転用した脳への思考転写に失敗して入院していたことを掴む。
夏目を問い詰めると、入院中に坊野の作品を見つけた夏目はいたく気に入り、彼の作品に逆変換をかけて思考を抽出することを繰り返し、坊野の人となりを掴んでいったとのことだった。
退院後、坊野の目に留まるよう夏目は細工を凝らし、接点を掴んでからは彼が作品に描いた妄想に沿うように注力していたのだった。
経緯はどうあれ、坊野と夏目が両思いであることは間違いなく才門は二人が先々結ばれることを悟る。
才門は坊野の幸せのために何も伝えないことにした。夏目が齢150を超えている高齢でクローン体への思考転写を行っていることも。

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内容に関するアピール

思考投射はフィルムの状態だとなにが投射されたのか不明なので基本的に変換ソフトにかけて作品に仕立て上げて初めて内容がわかるようになってます。だから同じフィルムでも変換ソフト次第で内容が異なるんですが、変換ソフトと思考の合致率が低いと出力された内容が滅茶苦茶になります。

夏目のクローン体への思考転写は法的にも認められているのですが、高額なので一部の富裕層のみが行ってます。思考転写を行っている人間はそこまで多くないので坊野は怪しんでいません。
ただし、クローン体への転写は期限付き(16歳の体で10年間等)なので、最終的には別れます。夏目は何度か転写を繰り返している状態です。
作品を逆変換して思考に抽出するのは脳みそに直接内容を叩き込むイメージです。自分の考えたことか抽出された内容なのか判別することができないので普通はやりませんが、夏目は達観してるので火遊び感覚でやってます。

文字数:386

課題提出者一覧