歌詠みの市 (その他、検討中のアイデアについて)

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梗 概

歌詠みの市 (その他、検討中のアイデアについて)

鎌倉時代。京都は、文武ともにすぐれる後鳥羽院の支配下にある。
 和歌においてもトップの後鳥羽院は、下手な歌詠みに我慢がならず、一計を案じる。
 和歌に使う言葉を売り買いする”歌市(うたいち)”なる市場を主催し、今後はここで買った言葉しか和歌に使ってはいけないというお触れを出したのだ。証のない和歌は勅撰集に採用されず、歌合でも詠むことまかりならぬという。
 それぞれの言葉の価は固定されず、さまざまな要因によって変動する。
 つまり、基本的に資産のある者ほど多くの言葉を使うことができ、貧しければ限定された選択肢から言葉を選ぶしかなくなるわけだ。但し、逆転もあり得る。流行が変わり、それまで見向きもされなかった言葉の価値がにわかに高騰するかもしれない。そのときは資産家が損をし、貧乏人が資産家となる望みも出てくる。貧しいが才のある人間は、資産家の援助を受ければよい。
「才ある者だけが歌を詠むべきなのだ」
 あまりに強引な事の進め方に貴族の間で不満は多く出たが、皮肉なことに歌壇は洗練の度を高めていった。

 そんなある日、下級貴族・高倉家の次男が自室で死んでいるのが見つかる。自死したらしい。
 周りには、使いたかった言葉が”歌市”のせいで手に入らず、虫食いだらけの和歌をしたためた短冊が散らばっていた。
 被害者の姉(主人公・名前未定)は、弟の無念を受け止め、”歌市”への復讐を誓う。
 もともと、弟が和歌に興味を持ったのは姉の自分が原因だった。彼女の詠む和歌には、聞く者に強烈な没入感を与える不思議な力があった。それは、まるで歌の情景に自分が立ち会っているような幻をすら見せ、弟はそれに魅了されて歌の世界に入門したのだ。自分の力をおそれ、歌を詠まなくなった彼女だったが、今回だけはこの力を使おうと決める。
 ”歌市”に乗り込んだ彼女は、貴族たちが忌み避け、詠題に取らなかったモノたち(調査中です)を美々しく言祝いでいく。
 これによって相場が荒れ、素寒貧になりかけた有力貴族たちは後鳥羽院の元へ使いを走らせては和歌を拝領し、”歌市”で詠じる。相場は乱高下を繰り返し、貴族たちはこのやりとりを固唾をのんで見守る。
 騒ぎが気になり、ひそかに”歌市”を訪れた後鳥羽院。彼の磨き抜かれた感性は、主人公に惑わされないだけの強度があった。しかしそれでも、後鳥羽院は彼女の歌に感動を覚える。
 和歌の発展は、常に新たな美の発見と共にあった。自分が課した枷を打ち破ってあらわれたこの美意識が、新たな秀歌を生むことだろう。後鳥羽院はもう対抗するのを止め、相場を逆転させた主人公もまた復讐を果たす。
 その時だった。にわかに外が騒がしくなる。
 鎌倉幕府の軍勢が総勢二〇万の大軍で攻め寄せてきたのだ。(承久の乱)
 後鳥羽院が隠岐へ配流になるとともに”歌市”は開かれなくなり、ふたたび誰もが自由に歌を詠めるようになる。しかし、あの日”歌市”で見た光輝を持つ歌は、どこにも見当たらないのだった。

(「言葉を扱う市場」はSFと呼べるのか、また先例がないか、ご意見を伺いたく存じます)

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<その他検討中のアイデア (すみません、タイトルに未練があり書いてしまいました)>

『日本浮上』

日本が「沈没」するのでなく、海底火山の活動によって隆起――「浮上」してくるお話です。
(パロディ、ギャグではなく、シリアスな作品を想定。隆起は漸進的に進む)

・ストーリー(ですらない予告編のようなもの)
日本列島の隆起がはじまったのと同じ夜、全国各地で姓に”火”の字を持つ新生児が八人誕生していた。”火を灯せ”という謎の声に導かれる彼らの使命とは?(本当は、科学の力で隆起を止めるようなお話が書きたいところですが、それこそ劉慈欣さんでもないと無理でしょう……)

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文字数:1757

内容に関するアピール

ひとまず、いま思いついている中でもっとも良いものを2つ書いてみました。
ただ、最終実作に向けてまだまだアイデア出しの最中です。これらを上回るものを、貪欲に、獰猛に追い求めております。もしも最終実作がこれらのネタではなく、加えてこれらのネタより面白くなかったとすれば……そのときは笑ってやってください。

文字数:149

課題提出者一覧