「対戦よろしくお願いします」

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梗 概

「対戦よろしくお願いします」

三日月シグマと神野テオは未来文化学研究科の先輩後輩だ。未来とは名ばかりで、今年で100周年を迎えるその研究科は不人気を極めている。研究者として先行きの怪しい彼らは日々の生活費のために中高年向けの文化メディアへの原稿執筆に明け暮れていた。しかしこの頃はめぼしいネタが見つからず、このままではシグマが毎年欠かさず参加していたアイドルたちの超大型ライブのチケット代も捻出できそうにない。日に日に萎びてゆくシグマを見かねたテオが教授に助けを求めると、この頃若者たちの間で流行している「奇々快々」という名のアプリについて調査してはどうかという。

「奇々快々」は個人用のアプリで、一見するとユーザーの行動を元に映画や音楽、その日の夕食のメニューまであらゆるものを推薦してくれるだけのサービスだ。しかし特異なのは「奇々」というメニューを押すと再生される動画だった。その動画は視聴するとなぜかもっと観たいという欲求が押えられなくなる。さらに再生するためには時間経過を待つか、他のアプリ利用者と直接会ってアプリ間の通信を行い「勝負」をする必要があった。勝負にはプレイ要素は一切なく、通信だけで勝敗が決まる。具体的な判定基準は不明だ。
 
まずはアプリの解析を試みるテオとは対照的にシグマは趣味の友人に「対戦」に次々勝利していき、どっぷりと「奇々怪々」にはまり込んでいた。動画見たさについにテオにも勝負を申し込んだシグマだったが、勝ったのはテオだ。勝負に負けたシグマは体調不良に悩まされる。「奇々快々」の動画は一種の光学ドラッグで、「勝負」に負けると動画ドラッグ効果がなくなり、依存性の症状に苦しむように作られていた。
 
テオはシグマのためにもアプリの出どころを探る。途中、ファンコミュニティをアプリに壊されたアイドルのアミコと知り合い、彼女の仲介で流行の最初期にアプリを広めたグループと出会う。アプリの対戦でもっと勝利を収めていけば、開発者と対話も可能になるという。テオは勝負を進めていき、ついにアプリを介して開発者を名乗る人物からコンタクトを受ける。ロンと名乗った開発者は、このアプリを通じて彼の求める「質の高い」人間を選出し、集結させ、最終的に新しい国を作りたいのだと熱く語る。その選抜に適合したテオはロンのその思想に多少共感するが、シグマのことを思い出し動画の依存症状を緩和するようアップデートを求める。ロンは当然取り合わないが、テオはアプリの完成にはシグマが有用だと説得する。その理由にシグマが《推し》に捧げる情熱を挙げ、選ばれた人の国を作りたいなら参考にするべきだと主張する。回復したシグマとロンを引き合わせると、シグマの口八丁でロンはすっかり毒気を抜かれてしまう。

シグマはロンの技術力と光学ドラッグの作用機序を活用して、個人の抱える悩みや症状に合わせて最適なアイドルライブの配信サービスをプロデュースした。テオはこの騒動で出会った人たち一人一人のケーススタディを元に学位論文を書き上げようとしている。しばらくして、ロンは海外に移住し現地でまた知り合いを作って新しいことをするつもりだと絵はがきを送ってきた。

文字数:1296

内容に関するアピール

日常で愛好する文化の多様性が拡大する一方、ひとつひとつのコミュニティはたこつぼ化して分断が進む社会の中で良くない一体感が生まれるとしたらそれはどんなことが起きたときだろう、そしてそこから立ち直るために必要なことは何だろうというのを考えてみたくて書きました。

話の結末が弱すぎると自覚しているので、もう少し考えたいと思います。

タイトルも再考します。

不器用ながら活き活きとしたキャラクターが書けるように頑張りたいです。よろしくお願いいたします。

文字数:219

課題提出者一覧