梗 概
事故調査レポート:甲斐国始末記
文政二年。甲斐国の侠客、鍾馗寅吉と小安の二人は化外星系監察官、つまり異星人である。連合非加盟の星系を保護監察し、文明の健全な発展を促す仕事に携わっていたはずだった。
ことの始まりは、調査任務中の事故だった。山中に墜落し二人だけが生き残り、かろうじて持ち出せたのは壊れかけの送受信機と緊急用サバイバルキットのみ、救難信号は正しく発信できたかどうかすらわからない有様。救助隊が木星軌道ゲートから最速で駆けつけたところで、どう計算しても約50日間、自力で生き残る必要がある。
このままの生還は不可能と判断した二人は策を考える。彼らの身体は、任地に合わせて作り変えられており、幸いなことに地球人にそれなりに近い。顔は若干爬虫類に似ており、体中に斑紋が走っているが、ある程度誤魔化しは効きそうである。諸々の状況をシミュレーションし、政府、宗教、農村、裏社会のうち、保護条約をギリギリ遵守でき生き残れる可能性の高い裏社会に庇護を求めることにした。
転がり込んだ先は西保(にしぶ)という一家。名前を変え一宿一飯の恩を受けた彼らは、親分やその奥方、武辺の領兵衛、ひょうきん者の駒蔵と知り合う。そして脳に埋め込まれた演算装置や、元々人類よりも優れている感覚器官を頼りに、博徒として救出まで身を立てることになる。
西保一家は、賭場で近隣の古谷左京の一家と勢力争いをしていた。武官出身の寅吉はその能力を活かし古谷一家との博打に勝利し、領兵衛や駒蔵と意気投合する。彼らに体の斑紋を見られ、それを見事な入れ墨と褒められて鼻高々である。
一方、技官出身の小安は、人類を未開拓の原始人と見なし打ち解けようとしない。斑紋も、任務のための人工的な体の器官であり、オリジナルの体にはないものだったため、褒められても良い気がせず逆に怒ってしまう。だが親分やその奥方と酒を酌み交わし、彼らが意外にも開明的で、武田家滅亡後の甲斐国で、行き場を失った者を養ってきた度量を知る。
30日目、受信機が信号受領を告げた。救助隊到着まで残り19日。涙を流して喜ぶ二人。そんな姿を目撃された二人は真実を話すか迷うが、条約もあり誤魔化す。
ある日、路上で賭博をしていたひょうきん者の駒蔵が、古屋一家と争いになり殺害される。寅吉は出入りに参加すると言い出し、小安は原始人同士の争いと取り合わず、肩入れする寅吉に反発する。
出入りは双方に死傷者が出る結末となり、寅吉は抜群の働きで双方から名を知られる存在となった。しかし、これは明らかな星間条約違反である。
このままでは共倒れと、両者のシマを決める手打ち式が行われることになる。またも参加を表明する寅吉に、小安はこれ以上の条約違反を看過できず口論するが、寅吉は行く。
手打ち式。西保親分、領兵衛、寅吉が出席したが、その式場で騙され、西保親分と寅吉が殺害される。
生き残った領兵衛から顛末を聞いた小安は激怒する。が、領兵衛や奥方との話のなかで、打ち解けられない小安を無事に返すべく奔走した寅吉の思いを理解し、亡くなった親分に対する愛惜に気付かされる。
報復を主張する家中の連中を、小安は一喝。策を持って仇の古屋左京を捕らえ、捕り方に引き渡すことで古屋一家の名声を失墜させることに成功させた。
領兵衛と和解した小安は、かつて西保親分が愛用していた盃を彼から受け取り、二人の本当の名を告げる。
領兵衛は、寅吉の斑紋を象った入れ墨を自らに入れていた。
49日目。救助隊が甲州に着陸する。小安は、盃を握りしめながら地球を離れるのであった。
文字数:1444
内容に関するアピール
かなり悩んだのですが、第三回課題「自分の得意なものを書きなさい」で提出した梗概「事故調査レポート:甲斐国始末記」をリライトし、最終課題として提出したいと考えています。
このジャンルは比較的得意なものであると考えている点、2万字のプロットとしては元々長く、最終実作の長さで馴染みそうな点、選出はされませんでしたが比較的評価をいただいていた点が理由です。
前回提出からの差分は下記のとおりです。
- 寅吉と小安の立場を固め、フワッとしていた目的を明確にしました(藤子不二雄感の軽減)。
- 斑紋にまつわる身体的特徴を、任地に合わせた改造を理由にし、終盤にかけてつながるようにしました。
できれば、ここから伸ばすためにはどのようなポイントに留意すればよいかご助言いただければと思います。
よろしくお願いいたします…!
文字数:345