パワードスーツ老人 五反田に立つ

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梗 概

パワードスーツ老人 五反田に立つ

平均寿命が100歳まで延び超高齢者が人口の多くを占めるようになった近未来年の日本。労働力不足や、年金額が減り定年退職後も働かないと生活できない超高齢の単身者が増え続けていることが問題視される近年、新しい保証人代行サービスが誕生する。企業が住まいの契約保証人となる代わりに、超高齢単身者にパワードスーツと新しい職場を斡旋する仕組みで、利用者は右肩上がりに増えていた。

主人公のオオヌキは五反田の大手不動産会社で働く30歳。街では老人と介護用アンドロイド、非人型産業ロボットがまばらに行き交うが、彼女と同年代の若者は少ない。そもそも人口が少ないのに加え、2020年以降リモートワークが画期的に進んで以降、若年層は地方都市へ大幅流出したからだ。

ある日、彼女の職場に筋骨隆々の老婆モモが現れる。パワードスーツを着る彼女は120歳の超高齢単身者。工事現場作業の仕事に就いたため、現場近くの部屋を探しているという。近頃、モモのように肉体労働で雇われるパワードスーツ老人の部屋探しが増えていた。オオヌキはスーツにどこか胡散臭さを覚えたが、家賃を支払えるなら問題ないとモモに目黒川沿いのマンションを紹介する。

超高齢者が一人暮らしをする場合、孤独死を防ぐため身元の定期巡回が義務付けられており、オオヌキは週に一度モモを訪問するようになる。路肩に乗り上げた車をヒョイと小指でひっくり返したり、家に入り込んだ蜘蛛を全力で潰し壁に穴をあけるモモへの接し方がわからずオオヌキは戸惑う。

ある日、モモが室外機にたかる蜂に殺虫剤をかけ室外機を爆発させてしまう。怪我で顔面包帯巻きになったモモを世話するオオヌキ。風呂でモモの身体を洗っていると、「肉体は戻せても知的能力の衰えの不安は拭えない」と彼女はこぼす。認知症と診断された老人へパワードスーツ返納を呼びかけるニュースを耳にしたばかりだった。この日を境に二人は徐々に打ち解けていく。

その頃、オオヌキの不動産会社が若者を都に呼び戻すことを目的とした五反田周辺の再開発組合に参画することに決まる。若者向けのテーマパークを建てるという。建設に携わるパワードスーツ老人たちは計画に猛反対。自分たちの姿を見せ物にする気かと怒り狂い労働を放棄。モモもそのうちの一人だった。

オオヌキはモモを訪れ説得を試みるが、二人の対話は平行線を辿り過激な罵り合いにまで発展。折り合いのつかぬままオオヌキは立ち去る。

再開発組合はサボタージュを続ける老人らを無視して工事を強行。彼らはこれに立ちはだかり、ついにパワードスーツ老人軍団vs企業の非人型産業ロボットたちの闘争が始まる。

事態を収束させるべくオオヌキが争いの現場に駆け付けた頃にはすでに日が暮れていた。彼女はモモに訴えかける。しかし老人たちの暴走は止まらずついには火災が発生、城南五山にまで燃え広がる。混乱を極める中、建設材料の鉄筋がオオヌキの頭上に降りかかる。思わず目をつぶったその時、彼女をかばったのはモモだった。自分が助けたわけじゃない、パワードスーツが勝手に動いただけだとニヤリと笑うモモ。二人は火事を止めるべく高台へ急ぐ。消防隊のホースでは届かない域にまで火は移っていた。モモは火消ポンプロボットを抱え放水しようとするが、老眼でロボットの操作がうまくできないため、オオヌキが操作を代わる。モモはロボットを掲げるオオヌキを肩車して跳躍、高速旋回して水をまき散らし鎮火に成功する。

滴り落ちる水で辺りが煌めくなか、高台から五反田の街を見下ろすオオヌキとモモ。オオヌキはこれから始まるだろうモモとの新しい共生の在り方に思いを馳せる。空には朝日がのぼりつつあった。

文字数:1503

内容に関するアピール

不動産×超高齢者SFです。「超高齢社会のなかで老人が超人になったらどうなるのか」というテーマでもあります。実家が小さな不動産会社を営んでおり、わたし自身も不動産業界に勤めていた経験があるため、この経験を活かした不動産の話をSFで書けたらと思いました。

不動産業界では単身高齢者の賃貸契約における保証人が見つからないことが避けては通れない課題で、それを解決しようと模索する未来の方向性はないかと考えました。また、生まれてからずっと近くで過ごしてきた身近な街であり、一年間このSF講座で足を運び続けてきた街でもある、思い入れ深い五反田をリアリティを持って描きたいと思い舞台にしました。

一年間講座を通じ、自分の小説と向き合ってみて、やはりわたしは強いけれど弱い者、弱いけれど強い者たちが、ドタバタがんばって生きているものが書きたいのだと気づきました。実作では、主人公オオヌキの仕事や苦悩、老いに対するモモの葛藤や心情をもっと深く書き込みながら、爽快感のあるラストを目指してがんばります。

文字数:439

課題提出者一覧