梗 概
駆動都市の魔女
二一世紀中葉。未踏の大深度地下生物圏から、生命の起源が異なる珪素生物が発見された。生存競争に人類は屈し、適応放散した珪素生物に生態系が置き換わり数世紀がたった。地上に残った人類は一〇〇〇平方キロほどの面積を持つ駆動都市に搭乗し旧来の生物種を保護していた。
薄紅色の二酸化珪素の結晶に覆われた大地を踏みしだく駆動都市「鎖羅門」。その競技場から少女たちの歓声が湧く。学園の制服に礼装のケープを羽織った統堂来果が選抜戦決勝を制した。魔法で出現させた全身鎧の騎士が、前回優勝の生徒会長を破った。次の「夏戦争」の出場者五名は準々決勝までの進出者から選ばれる。
鎖羅門は女性の魔女のみで構成される学園都市だ。学園の生徒会が独裁体制で都市を運営する。魔法の才能を持ち戦争に貢献した者のみが生徒会に評価され、十八歳までの生命制限を解除される。出生機構に遺伝子を登録できるのも「卒業」できた者だけ。子供は生産されるもので、動物のように交配で生まれるものではない。一方、来果は捨て子だった。都市の逸脱者たちが占拠する聖域に空から落ちてきたと養母は笑う。来果は聖域の守護者にして都市の最長老、マザーハーロットに育てられた。
戦争は天空都市「上都」が都度集結地点を指示する。道すがら鎖羅門は珪素生物の群体「竜」に襲われる。振り切れずにいると、煙の尾を引く鏑矢が連続して飛んだ。その先に竜は進路を変える。後続の駆動都市「薩哈連」が矢を放った。かつて駆動都市は多くあったというが、この百年はこの二つの都市の記録しかない。
高みに上都を仰ぎ、駆動都市の連結部に戦場が設営される。来果たち五人の魔女は、薩哈連の五人の獣人と勝ち抜き戦を行う。薩哈連もまた獣化能力を持つ男子学生が統治する学園都市だ。勝ちにこだわるのは理由がある。駆動都市は雨水と日光のみで持続可能だが、消耗した駆動部品など技術が失われた物資の補給は空の上都に頼らざるを得ない。
夏戦争は鎖羅門の魔女の勝利で幕を閉じた。獣人並の身の丈の騎士を具現化する来果の戦法は攻守を併せ備え敵を圧倒した。騎士に貫かれた傷ももう癒えたのか、大狼の変身を解いた薩哈連の大将、南方留生(みなかたるい)が来果に握手を求めてくる。決勝戦を戦った二名は上都に招かれる。光に包まれ消える来果と留生。
同じ姿をした若い女たちに出迎えられ、導かれるままに王と面会する。統堂禅定と名乗った男は、来果をわが娘と呼ぶ。養い親のMHから内密に父親の素性を聞いていた来果は捨てられた訳を問う。禅定は自分の霊的素養を色濃く受け継いだ来果が邪魔になったと言う。わかるように話せと叫ぶ来果が騎士を出現させると、禅定は城の頂上の決闘場へ二人を転移する。生身の人間の力のみで戦う禅定に来果の魔法は通じず、加勢した留生も太刀打ちできない。これが人間の到達しうる境地だと言う禅定。上都の頂上から弾き飛ばされる二人。
来果は獣と化した留生に抱かれ鎖羅門の地面に叩きつけられる。来果は擦り傷もなく、驚いたことに留生も軽傷で立ち上がった。MHに相談した来果は世界の真実を告げられる。上都にいた女たちはMHのクローン。来果は遺伝子的には禅定とMHの娘だった。
珪素生物との全面闘争の最中、救世主として信奉を集めた禅定は世界政府を打ち立てた。人類の最後の砦として駆動都市に人々を避難させた。しかし、悟りを開く中で未来予知能力を得た禅定は、珪素生物を駆逐するには星を壊す道しかないと知った。禅定は重力兵器を全て墜とし、唯一上都のみから全人類を支配した。救世主としての霊能力を発現させた遺伝子を特定し、人々の遺伝子を改変しその生活も変えた。男女の交わりと家族の形成を禁じ、命に時間制限を設け世代交代を加速した。魔法や変身能力を競わせ才能を見いだした。それらはすべて、全人類を悟りに導き肉体を捨てるというゴールのための手段だった。
それは独善ではないかと問う来果。私にはわからないと空を見上げるMH。手元に置けば娘を愛してしまう。その執着は悟りへの妨げになる。だから禅定は来果を手放した。MHは来果の手を取り目を見て言う「父親を止められるのはあなただけ。捨てられた半身には意味があるの。思うままになさい」
留生も引き連れて、生徒会長を始めとした夏戦争の選抜メンバーと話し合う来果。理不尽な生活もこの世の理だとあきらめていた。それが全て一人の男の独断と知り憤る女子たち。上都に乗り込み改心させることで話はまとまった。空へ上がる手段については留生が薩哈連にいい物があると言う。
獣人の男しかいない薩哈連を五人の魔女が闊歩する。歴史的な光景をよそに、博士と呼ばれる男を紹介される。竜を逸らすのに使った鏑矢が並べられる。さらに焼夷弾と、蓋を開けると刺激臭のする壜。珪素生物は熱を加えれば活性化し群体を作る。そして壜の中のエタノールに珪素生物は強い嗜好性を示す。竜を追い払った時と同じく、活性化させた群体にエタノールを嗅がせて上都まで矢を飛ばせば即席の橋を渡すことができる。あとは登るだけだ。
禅定との総力戦が始まった。選抜メンバーは次々と倒れ、来果と一対一になる。戦いの中で霊能力を引き出される感覚に来果は深入りした。その隙を逃さず殺意を露わにする禅定。瀕死から回復した留生が身を挺して庇う。致命傷に体から離れていく留生の魂を見る来果。輪廻転生の意味を悟り、過去と未来の記憶を俯瞰する。「そういうことか」そうつぶやき時を止める来果。父と静止した時間の中で全能力を傾け未来を奪い合う。時が動き上都の全動力が停止した。父の望む未来を否定しその企てを否定しその存在を否定した。墜落する上都と共に滅びを受け入れる禅定。
墜ちた上都は三分の一が圧壊した。そこから禅定の遺体も確認された。動力が止まっていたのが幸いして、残りの機能は回復できるとわかった。墜落した上都の前で停戦協定が結ばれる。鎖羅門と薩哈連は互いを共に歩む隣人として認め合った。
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内容に関するアピール
好きな世界設定で派手なバトルものをやりたいという衝動をぶつけてみることにしました。多分にライトノベルを意識しています。実作では十代の読者にアピールする内容を意識して作り込んでいきたいと思います。
ちなみに駆動都市の大きさの一〇〇〇平方キロは札幌市とほぼ同じです。東京都区部の六〇〇平方キロから、沖縄本島の一二〇〇平方キロくらいまでの間でイメージしています。
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