梗 概
天体使ポスと黄金の翼
翼の生えた生命体『天体使』は、岩石でできた天球の内側で天体の進行を担っている。極星の天体使ポスは星を動かす必要がなく、その翼は凍りついている。惑い星の天体使ベスとたまに話をするのが唯一の楽しみだ。しばらく太陽が昇らないのは、太陽の天体使が人間の住む円盤状の大地の裏側で力尽きたためらしい。ポスが消えてゆく灯を寂しく見つめていると、飛行機がふらふらとやってくる。操縦士のリグは人間の発明家だと自己紹介し、ポスを誘って近隣を飛び回る。リグに惹かれたポスは世界が終わるまで旅をしようという誘いを了承する。
リグは大地の裏側に回り込むと、太陽の近くに飛行機を寄せて太陽の天体使になってほしいとポスに頼む。説明を求めたポスにリグは人が変わったように懇願する。大地の中央に世界のはじめからある炉に人間が身体を投じる儀式で発生するエネルギーがこの宇宙を支えている。しかし、人間の死体を効率的にエネルギーへと転換して暮らしを良くするリグの発明が、儀式を廃れさせ太陽の天体使を殺したのだ。論争の末に「私と旅をすると言ったのは嘘だったんですね」と大地へ身を投げたポスを、リグは守ろうとして共に落ちていく。炉の中心方向に落下する人間の身体は高温になるという物理法則に従って、リグの肉体は内側から発火する。錯乱したポスは崩れ去る彼女の肉体を腕の中にかき集め、その一部をどうにか残そうと飲み込む。ポスの翼はたちまち溶けてはばたき、地上に辿り着いた彼は失神する。
ポスは気がつくと少年に看病されている。彼はリグの息子サリだとわかる。自分が原因でリグが死んだと捉えているポスは、罪悪感に耐えきれずサリのもとを去る。惑い星を太陽に飲み込まれて目的を失ったベスがポスのもとにあらわれる。ポスは太陽を呼び戻すために復活した儀式の列の先頭にサリが並んでいることを知る。ポスは自分が太陽の天体使になり、サリの死の前に太陽を昇らせることを決意するが、経緯を聞いたベスはポスをなだめて自ら太陽を動かしに赴く。ベスの心にはポスに向けられた複雑な気持ちとリグへの嫉妬がある。
ポスは極星の天体使としての身分を明かし、リグの友人たちから彼女の発明品である建設機械を譲り受けると、洞窟を果てしなく下り、地の底から出て太陽を見上げる。ベスの赤銅色の翼は激しく明滅しているが、太陽は動かない。ポスは機械を地上から太陽のもとへと運ぶ。天体使の膂力に機械の力が加わり、太陽は天球から持ち上げられて地上へと落ちはじめる。ポスの中でリグのかけらが鳴動し、爆発的な発現が彼の背中に黄金色に輝く三対六枚の翼を作り出す。天体が落下しようとする力と、ポスの体内で転換されたエネルギーは振動し、やがて均衡する。地上で炉に身を投げようとしていたサリの顔に曙光が差し、あらわれたベスが太陽を呼び戻すための儀式の停止を宣言する。
リグとポスがもたらす円運動は永遠に地上を照らし続ける。
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内容に関するアピール
がんばります。
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