梗 概
わたしの3人のママ
聡明で優しい3人の母と、4人のきょうだいたちと一緒に海辺の街で暮らす17歳の少女・夜。18になった長女の茜が家をでてゆき、来年は夜がそうなる番。同じ学年だが誕生日が2か月遅い弟の桐也はすでに水産系の大学に進むことを決めている。同じく海の生き物に興味がある夜は桐也をうらやましく思うが、女の夜には大学に行くという選択肢は最初からない。夜は桐也と双子のように仲がよく、来年から離れて暮らすことに不安を感じている。
夜は学校で同級生たちから特別人気を集める男子生徒・幸人に淡い恋心を抱いている。同じクラスの女子生徒がまたひとり産休に入ると聞き、焦る。夜はまだ誰とも性交したことがない。親友の菜美から「幸人と性交した」と聞き、羨ましく思う。「女子から誘って断られることなんかないって」と菜美は背中を押してくれるものの、夜は幸人をどう誘えばよいかわからない。
穏やかで平和だった家に、ある日男がやってくる。母は、男を夜の「父」だと紹介する。「街で偶然に再会したの」。
「父」のなんたるかは当然学校で習って知っていたが、自分のそれと対面する日がこようとは思っていなかった夜は当惑する。つまり父と母が性交した結果自分が生まれた。夜の3人の母たちは、夜を産んだ智恵子と、その友人である香織、瑞穂。智恵子は夜のほかに、夜の小さい妹と弟を産んでおり、香織は茜と桐也を産んだ。瑞穂は誰も産んでいないが、子育てを手伝うためにこの家にいる。そうやって女性数名とその子供たちがひとつの家で育つ一方、男たちはさまざまな女性と性交し子供を授ける——それがこの国の「家族」の仕組みである。
父も交えて全員で食卓を囲む。夜の小さな弟と妹は、夜の父とはまた別の男と智恵子とのあいだに生まれた子供たちだが、夜の父になつく。桐也は警戒したそぶりを見せる。父はしばしば家を訪れるようになり、夜は次第に物腰の柔らかい父に心をひらきはじめる。
しばらくして、桐也の「父」もやってくる。「私も懐かしくなって連絡してみたの」と香織。2人の父を交えて食卓を囲む。父たちは、幸人を誘えないでいる夜にアドバイスをくれる。
子供を産んでいない瑞穂に、夜はその理由を尋ねる。瑞穂は妊娠しない体なのだと言った。「性交は妊娠のためにするものだけど、大丈夫、この国では妊娠しなくてもこうして家族の一員として生きていける」。
そのうちに夜の父は家に来なくなる。智恵子は「喧嘩した」と言う。小さな弟と妹は寂しがって泣く。夜は寂しさと安堵を同時に感じる。
いっぽう智恵子は妊娠もしており、3人の母たちは喜んでお祝いのパーティをする。桐也と夜は、ケーキを食べたあと海を散歩する。「一夫一妻」という奇妙な習性をもつ魚・イシヨウジの話をする。もしも夜が誰かとの子を生んだら、一緒に育ててあげると桐也は言う。男が子育てなんかと夜は思いながら、2人の父が教えてくれた台詞で幸人を誘うことを決める。
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内容に関するアピール
「家族」が今と少し違ったかたちをしている世界を考えることで、今の世界の「家族」を考えたいと思います。登場人物にそれぞれ個性をつけて魅力的にいきいきと描きたいです。
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