梗 概
シロクマの日曜日
僕は飛騨高山の熊牧場にいる小熊だ。昼は飼育員の吉澤さんと過ごし、数人のお客に抱かれて写真を撮られるのが仕事だ。今はこういう生活も悪くないなって思う。夜はよくネトフリでドラマを見る。そしてよく僕の家族のことを考える。
雄二は満州の図們で知り合った熊男から、あんたの命を守ってやると言われる。見返りは何かと聞くと「花の王冠を作ってくれ。もし約束を守ってくれないと」と熊が言った途端、雄二を庇うようにして熊男は撃たれた。それは祖父がこの戦争で初めて見た死だった。
それからも仲間の様々な死を何度も見た。4回目の収容所では伐採の仕事以外に収容所内の散髪担当となった。
ソ連兵の髪も切るようになる。しかし散髪の失敗でソ連兵に、指を二本切られて一番目の雄二は死んだ。
二番目の雄二はそれが原因で早めの帰国が出来たが、その結果兵役日数が三日足りないため、恩給が全く貰えないことを父は生涯納得できなかった。
雄二は結婚して妻が妊娠し眠れないというとイソミンを与えた。
花の王冠のことを全く忘れている雄二に思い出させるために僕は雄二の子供として現われることにした。
難産の末に生まれた双子は姉が死産で弟の僕だけは助かった。手足に障害を持った僕を見ると雄二は妻を捨てて家を出た。
僕は入院した病院で子供達の死を何度も見た。
僕が11歳になるとまた両親に引き取られ、親はサリドマイド禍の申請をした。
賠償金を得ると父はその金を全部持っていなくなり、遠い土地で二番目の雄二は自殺した。
僕は中学から普通学校へ行く。最初は気持ち悪がられるが、彼と仲良くしようという瞳の運動で級友に迎えられる。ただ二人きりになると「身の程をわきまえろ」と酷く罵られ虐められる。
そこで一番目の僕は自殺した。
しかし瞳の捻れた性格で二人はつきあい、瞳が結婚した後まで二番目の僕とつきあいは続いた。
僕はサリドマイドの賠償金が自分が貰えないことを知って生涯納得できなかった。
母は僕が就職した日に自殺した。
瞳は妊娠をして上司と結婚すると言う。僕は自分の子だと思い結婚式場へ行くが追い返される。
子供を産んでまもなく瞳は事故で死んだ。
瞳が生んだ子供の顔をよく見て自分の子供では無いと思って二番目の僕は自殺した。
僕はただ花の王冠が欲しかったのだ。
僕は、あまりに父の家族の物を奪いすぎてしまったと思い、必死になっていくつかの場面でいくつもの扉を開け、何度も家族の継ぎ接ぎをしに出かけた。
しかし僕の扉の数にも限度があって僕は次第に失敗することが増え、自分の能力を失っていく。それでも次第に人の家族の思い出を継ぎ接ごうとする。
何度もやり直した結果、僕は父を本来揃うかもしれなかった家族達(何度めかの父と母と瞳と僕の双子の姉と今の僕)に合わせ家族一緒に熊男(最初の僕)の亡くなった場所で花をあげた。
「来るのが遅すぎたな」と父が言うと、みんなが笑った。
僕らは皆で記念写真を撮った。
文字数:1193
内容に関するアピール
昨年のアピール文を読むと次に受講する人へのメッセージなどを書いている自分の余裕に感心しました。今は書き終わらせる余裕がないので、弱気なわたしへのメッセージをアピール文として書き記しておきます。また本当に自分が書きたいことを優先すると、それは第三者にしてみれば、全く面白くないということは気づいているのですが、それでもいろいろな意味で最終作になるかもしれない今回で、ひたすら書きたいことだけを書いてみようと思います。
1.何が何でも最後まで書ききること。
2.サリドマイド禍のこと、家族のたくさんの死を丁寧に描くこと。
3.たとえ意味が分からないと思われても軽々しくそう言われないようなところまで強く書ききること。
4.SFにする必要があるのか小説にする必要があるのかを常に意識すること。
文字数:339