梗 概
木島館事件/恩寵事件
小説 一、「木島館事件」
七人の作家がともに暮らす壱岐島の木島館が全焼してみな死ぬ話。
ある夜。彼らは海岸で焚き火をしている。著名な作家たちの本を火にくべながら、ひとりずつ即興で物語を語っていく。
ある日。作家のひとりが木島館内で死体で発見される。別の作家が制作していた火子計算機が館から消える。殺人の犯人と、消えた火子計算機の行方を探すうちに、次々と人が死ぬ。最後にのこったふたりだけが会話しているとき、原因不明の出火で木島館が炎上する。その炎はふたりには目視できず、討論をしているあいだに見えない炎に取り囲まれて焼け死んでいく。
島の住人が木島館の火災に気づくが、そのときにはもう手遅れで、火災が消火されたあと、木島館の焼け跡からななつの焼死体が発見される(炎が見えないのは、作家たちだけ)
(通常の計算機が「情報」を入出力するのに対して、火子計算機は「記憶」を入出力する。火子計算機は現実改変機とも呼ばれている。この世界は記憶で構成されている。記憶が作り出す現実を、火子計算機は演算し改変する)
小説 二、「恩寵事件」
来坐英敬(こざ・ひでたか)は病院で目覚める。事故から目覚めた来坐は、自分が小説内の登場人物であること、自分は小説から小説へと渡り歩いている意識であること、「恩寵事件」の前は「木島館事件」という小説にいたという妄想にとりつかれている。周囲からまったく理解されない。
来坐の意識のなかでは、木島館の事件を引き起こし、館を全焼させた犯人は自分ということになっている。無職の来坐は、その罪悪感を抱えながら、職安に通って再就職を目指している。
「木島館事件」で小説家をしていた自分に嫌気がさし、来坐は営業職に再就職するが、仕事はうまくいかない。
ある日、バーで知り合った女性から、来坐と同じ「自分は小説を移動している」という妄想を持っていることを打ち明けられる。来坐は懺悔のように自分の妄想のなかの罪を彼女に語る。彼女は別れ際に、来坐にもう一度小説を書くようにすすめる。来坐は帰宅して、小説を書き始めようとするが、何も書き出せずに朝になってしまう。
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