デスブンキ ヌーフのダム

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梗 概

デスブンキ ヌーフのダム

震災の日、饒波じょうは(3分岐)の所有する本の地図上で北上川が分岐し、未知の歴史が書き加えられていることに気付く。
翌日、分岐地点を訪れると、そこには北上川河川歴史公園があり、北上川は昔から分岐していたと記す歴史解説があった。
本と公園の歴史は一致していて、寧ろ不一致なのは自身の記憶の方だった。
納得のいかない饒波は北上川を下って旧北上町の海岸まで行く。するとそこで分岐を継承する感覚に襲われる。
後日、饒波(14分岐)は同じ謎を追う洛書らくしょ(11分岐)と出会い、以下の情報を得る。

1.世の中には分岐を持った人間、フォーカーが1パーセント未満の割合で潜在する。
2.フォーカーが周囲を大地に囲まれた浸水した道で溺死すると、その付近の道が分岐するデスブンキが発生する。
3.フォーカーは溺死したフォーカーから分岐を継承して自身の分岐数を増やすことができる。
4.分岐数を増やすと分岐前の歴史の記憶が残ったり、分岐後の結果を予知できるようになる。
5.稀に分岐先が別世界へと繋がり、そこへは分岐数の多いフォーカーのみが行ける。

物語は震災から8年後の『黒い津波 知られざる実像』の放映を機に幕を開ける。
後日、番組に出てきた黒い水を見に行った饒波(41分岐)と洛書(17分岐)は、その中に「黒ノ泉に浸かると分岐を編集できる。源泉は別世界の黒海にある」という情報があることに気付く。
その後別世界の黒海に行く方法を探った結果、国会議事堂前駅を分岐させると行けることが判明する。
だがその実行には殺すフォーカー、贄が必要だった。洛書は自身が贄になることを提案するも饒波は拒み、結局赤の他人を贄に選ぶ。
饒波と洛書は令和元年台風第19号襲来の日、国会議事堂前駅のホームを数cm浸水させ、贄を殺してデスブンキを発生させ、分岐先にあった5番線ホームから列車に乗り込む。

到着したのは紀元前5600年頃のボスポラス海峡を横断する巨大なダムだった。ダムの中は空洞で人々の生活圏となっていた。
そこでノア(135分岐)と名乗る饒波と瓜二つの人物と出会う。彼はダム管理者で黒ノ泉を大洪水から守っていた。
ノアは「別世界の饒波がダムを訪れることはよくあるが、洛書を殺していない饒波が訪れたのは初めてだ」と明かす。同時に「ダムの中の下層は生活圏外だが、最下層に黒ノ泉がある」と教えてもらう。
但しデスブンキに否定的な饒波と洛書とは違い、ノアはそれにも役割があると考えていた。対立の末、両者の価値観は更新されていく。

饒波と洛書は最下層へ向かうが、途中で行き止まりとなる。
そこへノアが現れ「進むにはデスブンキを発生させるしかないが、ここの浸水は構造上不可能。但し分岐数が異常に多いフォーカーを贄にすれば、浴槽程度の水でもデスブンキは発生する」と告げられる。
饒波は「ノアが贄となることが望ましい。代わりにヌーフという名でダム管理者を継ごう」と約束する。
ノアは「今までの饒波は皆ダム管理者ではなく贄になろうとしたが、分岐数を増やす過程で皆狂い、その度に殺していた」と明かす。だからこそ今までの饒波とは異なる饒波を信頼したノアは、用意していた浴槽で溺死してデスブンキを発生させた。
饒波は分岐先にあった黒ノ泉に浸かり、分岐を編集して方舟という物語を創造すると、多くの世界からデスブンキは消失する。一方で未だ一部の世界にデスブンキは存在し続けている。

文字数:1395

内容に関するアピール

テーマは「分岐の更新」と「後継者問題」です。
前者は本来分岐した世界線は徐々に差分が拡大していくものですが、もし特定の儀式によって差分追加済みの世界線が直接発生したら、ならいっそ物理が直接分岐したらと思って入れました。
後者はゲンロンの社長交代の出来事が印象に残っていて、代わりがいることの大切さを自分なりに解釈しようと思って入れました。
ノアを殺す場面で「デスブンキのギミック」と「後を継ぐ物語」は噛み合います。一方で洛書を殺さなかったのは、彼の代わりはいないと饒波は考えたからです。

具体的な話の展開は一部未定ですが、水と贄には深い関係があることが分かってきたので、そこら辺は上手く取り入れてみます。
国会議事堂前駅の浸水は類似例が意外と沢山あったので、それらを参考にして丁寧に浸水させます。
ノアがデスブンキに肯定的なのは、ダムの街がそれを前提にした思想や文化を築いているからといった裏設定も考えています。

文字数:400

課題提出者一覧